← Library‹ 桃太郎 四

桃太郎ももたろうはこういう罪つみのない鬼おにに建国けんこく以来いらいの恐おそろしさを与あたえた。鬼おには金棒かなぼうを忘わすれたなり、「人間にんげんが来きたぞ」と叫さけびながら、亭々ていていと聳そびえた椰子やしの間あいだを右往左往うおうざおうに逃にげ惑まどった。

「進すすめ! 進すすめ! 鬼おにという鬼おには見みつけ次第しだい、一いち匹ひきも残のこらず殺ころしてしまえ!」

桃太郎ももたろうは桃ももの旗はたを片手かたてに、日ひの丸まるの扇おうぎを打うち振ふり打うち振ふり、犬猿雉いぬさるきじの三さん匹ひきに号令ごうれいした。犬猿けんえん雉きじの三さん匹ひきは仲なかの好いい家来けらいではなかったかも知しれない。が、饑うえた動物どうぶつほど、忠勇ちゅうゆう無双むそうの兵卒へいそつの資格しかくを具そなえているものはないはずである。彼かれ等らは皆みなあらしのように、逃にげまわる鬼おにを追おいまわした。犬いぬはただ一噛ひとかみに鬼おにの若者わかものを噛かみ殺ころした。雉きじも鋭するどい嘴くちばしに鬼おにの子供こどもを突つき殺ころした。猿さるも――猿さるは我々われわれ人間にんげんと親類しんるい同志どうしの間あいだがらだけに、鬼おにの娘むすめを絞殺しめころす前まえに、必かならず凌辱りょうじょくを恣ほしいままにした。……

あらゆる罪悪ざいあくの行おこなわれた後のち、とうとう鬼おにの酋長しゅうちょうは、命いのちをとりとめた数すう人にんの鬼おにと、桃太郎ももたろうの前まえに降参こうさんした。桃太郎ももたろうの得意とくいは思おもうべしである。鬼おにが島しまはもう昨日きのうのように、極楽鳥ごくらくちょうの囀さえずる楽土らくどではない。椰子やしの林はやしは至いたるところに鬼おにの死骸しがいを撒まき散ちらしている。桃太郎ももたろうはやはり旗はたを片手かたてに、三さん匹ひきの家来けらいを従したがえたまま、平蜘蛛ひらぐものようになった鬼おにの酋長しゅうちょうへ厳おごそかにこういい渡わたした。

「では格別かくべつの憐愍れんびんにより、貴様きさまたちの命いのちは赦ゆるしてやる。その代かわりに鬼おにが島しまの宝物たからものは一ひとつも残のこらず献上けんじょうするのだぞ。」

「はい、献上けんじょう致いたします。」

「なおそのほかに貴様きさまの子供こどもを人質ひとじちのためにさし出だすのだぞ。」

「それも承知しょうち致いたしました。」

鬼おにの酋長しゅうちょうはもう一いち度ど額ひたいを土つちへすりつけた後あと、恐おそる恐おそる桃太郎ももたろうへ質問しつもんした。

「わたくしどもはあなた様さまに何なんか無礼ぶれいでも致いたしたため、御征伐ごせいばつを受うけたことと存ぞんじて居おります。しかし実じつはわたくしを始はじめ、鬼おにが島しまの鬼おにはあなた様さまにどういう無礼ぶれいを致いたしたのやら、とんと合点がてんが参まいりませぬ。ついてはその無礼ぶれいの次第しだいをお明あかし下くださる訣わけには参まいりますまいか?」

桃太郎ももたろうは悠然ゆうぜんと頷うなずいた。

「日本一にっぽんいちの桃太郎ももたろうは犬猿けんえん雉きじの三さん匹ひきの忠義ちゅうぎ者しゃを召めし抱かかえた故ゆえ、鬼おにが島しまへ征伐せいばつに来きたのだ。」

「ではそのお三さんかたをお召めし抱かかえなすったのはどういう訣わけでございますか?」

「それはもとより鬼おにが島しまを征伐せいばつしたいと志こころざした故ゆえ、黍団子きびだんごをやっても召めし抱かかえたのだ。――どうだ? これでもまだわからないといえば、貴様きさまたちも皆みな殺ころしてしまうぞ。」

鬼おにの酋長しゅうちょうは驚おどろいたように、三さん尺しゃくほど後うしろへ飛とび下さがると、いよいよまた丁寧ていねいにお時儀じぎをした。

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