さてたぬきはおじいさんのうちを逃げ出してから、何だかこわいものですから、どこへも出ずに穴にばかり引っ込んでいました。
するとある日、うさぎはかまを腰にさして、わざとたぬきのかくれている穴のそばへ行って、かまを出してしきりにしばを刈っていました。そしてしばを刈りながら、袋へ入れて持って来たかち栗を出して、ばりばり食べました。するとたぬきはその音を聞きつけて、穴の中からのそのそはい出してきました。
「うさぎさん、うさぎさん。何をうまそうに食べているのだね。」
「栗の実さ。」
「少しわたしにくれないか。」
「上げるから、このしばを半分向こうの山までしょっていっておくれ。」
たぬきは栗がほしいものですから、しかたなしにしばを背負って、先に立って歩き出しました。向こうの山まで行くと、たぬきはふり返って、
「うさぎさん、うさぎさん。かち栗をくれないか。」
「ああ、上げるよ、もう一つ向こうの山まで行ったら。」
しかたがないので、またたぬきはずんずん先に立って歩いていきました。やがてもう一つ向こうの山まで行くと、たぬきはふり返って、
「うさぎさん、うさぎさん。かち栗をくれないか。」
「ああ、上げるけれど、ついでにもう一つ向こうの山まで行っておくれ。こんどはきっと上げるから。」
しかたがないので、たぬきはまた先に立って、こんどは何でも早く向こうの山まで行きつこうと思って、うしろもふり向かずにせっせと歩いていきました。うさぎはそのひまに、ふところから火打ち石を出して、「かちかち。」と火をきりました。たぬきはへんに思って、
「うさぎさん、うさぎさん、かちかちいうのは何だろう。」
「この山はかちかち山だからさ。」
「ああ、そうか。」
と言って、たぬきはまた歩き出しました。そのうちにうさぎのつけた火が、たぬきの背中のしばにうつって、ぼうぼう燃え出しました。たぬきはまたへんに思って、
「うさぎさん、うさぎさん、ぼうぼういうのは何だろう。」
「向こうの山はぼうぼう山だからさ。」
「ああ、そうか。」
とたぬきが言ううちに、もう火はずんずん背中に燃えひろがってしまいました。たぬきは、
「あつい、あつい、助けてくれ。」
とさけびながら、夢中でかけ出しますと、山風がうしろからどっと吹きつけて、よけい火が大きくなりました。たぬきはひいひい泣き声を上げて、苦しがって、ころげまわって、やっとのことで燃えるしばをふり落として、穴の中にかけ込みました。うさぎはわざと大きな声で、
「やあ、たいへん。火事だ。火事だ。」
と言いながら帰っていきました。