← Library‹ かちかち山 二

さてたぬきはおじいさんのうちを逃にげ出だしてから、何なんだかこわいものですから、どこへも出でずに穴あなにばかり引ひっ込こんでいました。

するとある日ひ、うさぎはかまを腰こしにさして、わざとたぬきのかくれている穴あなのそばへ行いって、かまを出だしてしきりにしばを刈かっていました。そしてしばを刈かりながら、袋ふくろへ入いれて持もって来きたかち栗ぐりを出だして、ばりばり食たべました。するとたぬきはその音おとを聞ききつけて、穴あなの中なかからのそのそはい出だしてきました。

「うさぎさん、うさぎさん。何なにをうまそうに食たべているのだね。」

「栗くりの実みさ。」

「少すこしわたしにくれないか。」

「上あげるから、このしばを半分はんぶん向むこうの山やままでしょっていっておくれ。」

たぬきは栗くりがほしいものですから、しかたなしにしばを背負せおって、先さきに立たって歩あるき出だしました。向むこうの山やままで行いくと、たぬきはふり返かえって、

「うさぎさん、うさぎさん。かち栗ぐりをくれないか。」

「ああ、上あげるよ、もう一ひとつ向むこうの山やままで行いったら。」

しかたがないので、またたぬきはずんずん先さきに立たって歩あるいていきました。やがてもう一ひとつ向むこうの山やままで行いくと、たぬきはふり返かえって、

「うさぎさん、うさぎさん。かち栗ぐりをくれないか。」

「ああ、上あげるけれど、ついでにもう一ひとつ向むこうの山やままで行いっておくれ。こんどはきっと上あげるから。」

しかたがないので、たぬきはまた先さきに立たって、こんどは何なんでも早はやく向むこうの山やままで行いきつこうと思おもって、うしろもふり向むかずにせっせと歩あるいていきました。うさぎはそのひまに、ふところから火打ひうち石いしを出だして、「かちかち。」と火ひをきりました。たぬきはへんに思おもって、

「うさぎさん、うさぎさん、かちかちいうのは何なんだろう。」

「この山やまはかちかち山やまだからさ。」

「ああ、そうか。」

と言いって、たぬきはまた歩あるき出だしました。そのうちにうさぎのつけた火ひが、たぬきの背中せなかのしばにうつって、ぼうぼう燃もえ出だしました。たぬきはまたへんに思おもって、

「うさぎさん、うさぎさん、ぼうぼういうのは何なんだろう。」

「向むこうの山やまはぼうぼう山やまだからさ。」

「ああ、そうか。」

とたぬきが言いううちに、もう火ひはずんずん背中せなかに燃もえひろがってしまいました。たぬきは、

「あつい、あつい、助たすけてくれ。」

とさけびながら、夢中むちゅうでかけ出だしますと、山風やまかぜがうしろからどっと吹ふきつけて、よけい火ひが大おおきくなりました。たぬきはひいひい泣なき声ごえを上あげて、苦くるしがって、ころげまわって、やっとのことで燃もえるしばをふり落おとして、穴あなの中なかにかけ込こみました。うさぎはわざと大おおきな声こえで、

「やあ、たいへん。火事かじだ。火事かじだ。」

と言いいながら帰かえっていきました。

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