← Library‹ グスコーブドリの伝記 六 サンムトリ火山

二人ふたりは次つぎの朝あさ、サンムトリの市しに着つき、ひるごろサンムトリ火山かざんの頂いただき近ちかく、観測かんそく器械きかいを置おいてある小屋こやに登のぼりました。そこは、サンムトリ山やまの古ふるい噴火ふんか口くちの外輪がいりん山さんが、海うみのほうへ向むいて欠かけた所ところで、その小屋こやの窓まどからながめますと、海うみは青あおや灰はいいろの幾いくつもの縞しまになって見みえ、その中なかを汽船きせんは黒くろいけむりを吐はき、銀ぎんいろの水脈みおを引ひいていくつもすべっているのでした。

老ろう技師ぎしはしずかにすべての観測かんそく機きを調しらべ、それからブドリに言いいました。

「きみはこの山やまはあと何なん日にちぐらいで噴火ふんかすると思おもうか。」

「一いち月がつはもたないと思おもいます。」

「一いち月がつはもたない。もう十とお日かももたない。早はやく工作こうさくしてしまわないと、取とり返かえしのつかないことになる。私わたくしはこの山やまの海うみに向むいたほうでは、あすこがいちばん弱よわいと思おもう。」老ろう技師ぎしは山腹さんぷくの谷たにの上うえのうす緑みどりの草地くさちを指ゆびさしました。そこを雲くもの影かげがしずかに青あおくすべっているのでした。

「あすこには熔岩ようがんの層そうが二ふたつしかない。あとは柔やわらかな火山かざん灰はいと火山礫かざんれきの層そうだ。それにあすこまでは牧場ぼくじょうの道みちも立派りっぱにあるから、材料ざいりょうを運はこぶことも造作ぞうさない。ぼくは工作こうさく隊たいを申請しんせいしよう。」

老ろう技師ぎしは忙いそがしく局つぼねへ発信はっしんをはじめました。その時とき足あしの下もとでは、つぶやくようなかすかな音おとがして、観測かんそく小屋こやはしばらくぎしぎしきしみました。老ろう技師ぎしは器械きかいをはなれました。

「局きょくからすぐ工作こうさく隊たいを出だすそうだ。工作こうさく隊たいといっても半分はんぶん決死けっし隊たいだ。私わたくしはいままでに、こんな危険きけんに迫せまった仕事しごとをしたことがない。」

「十とお日かのうちにできるでしょうか。」

「きっとできる。装置そうちには三み日か、サンムトリ市しの発電はつでん所しょから、電線でんせんを引ひいてくるには五いつ日かかかるな。」

技師ぎしはしばらく指ゆびを折おって考かんがえていましたが、やがて安心あんしんしたようにまたしずかに言いいました。

「とにかくブドリ君くん。一ひとつ茶ちゃをわかして飲のもうではないか。あんまりいい景色けしきだから。」

ブドリは持もって来きたアルコールランプに火ひを入いれて、茶ちゃをわかしはじめました。空そらにはだんだん雲くもが出でて、それに日ひももう落おちたのか、海うみはさびしい灰はいいろに変かわり、たくさんの白しろい波なみがしらは、いっせいに火山かざんのすそに寄よせて来きました。

ふとブドリはすぐ目めの前まえに、いつか見みたことのあるおかしな形かたちの小ちいさな飛行ひこう船せんが飛とんでいるのを見みつけました。老ろう技師ぎしもはねあがりました。

「あ、クーボー君くんがやって来きた。」ブドリも続つづいて小屋こやをとび出だしました。飛行ひこう船せんはもう小屋こやの左側ひだりがわの大おおきな岩いわの壁かべの上うえにとまって、中なかからせいの高たかいクーボー大だい博士はかせがひらりと飛とびおりていました。博士はかせはしばらくその辺へんの岩いわの大おおきなさけ目めをさがしていましたが、やっとそれを見みつけたと見みえて、手早てばやくねじをしめて飛行ひこう船せんをつなぎました。

「お茶ちゃをよばれに来きたよ。ゆれるかい。」大だい博士はかせはにやにやわらって言いいました。老ろう技師ぎしが答こたえました。

「まだそんなでない。けれども、どうも岩いわがぼろぼろ上うえから落おちているらしいんだ。」

ちょうどその時とき、山やまはにわかにおこったように鳴なり出だし、ブドリは目めの前まえが青あおくなったように思おもいました。山やまはぐらぐら続つづけてゆれました。見みるとクーボー大だい博士はかせも老ろう技師ぎしもしゃがんで岩いわへしがみついていましたし、飛行ひこう船せんも大おおきな波なみに乗のった船ふねのようにゆっくりゆれておりました。

地震じしんはやっとやみ、クーボー大だい博士はかせは起おきあがってすたすたと小屋こやへはいって行いきました。中なかではお茶ちゃがひっくり返かえって、アルコールが青あおくぽかぽか燃もえていました。クーボー大だい博士はかせは器械きかいをすっかり調しらべて、それから老ろう技師ぎしといろいろ話はなしました。そしてしまいに言いいました。

「もうどうしても、来年らいねんは潮汐ちょうせき発電はつでん所しょを全部ぜんぶ作つくってしまわなければならない。それができれば今度こんどのような場合ばあいにもその日ひのうちに仕事しごとができるし、ブドリ君くんが言いっている沼ぬまばたけの肥料ひりょうも降ふらせられるんだ。」

「旱魃かんばつだってちっともこわくなくなるからな。」ペンネン技師ぎしも言いいました。ブドリは胸むねがわくわくしました。山やままで踊おどりあがっているように思おもいました。じっさい山やまは、その時ときはげしくゆれ出だして、ブドリは床ゆかへ投なげ出だされていたのです。大だい博士はかせが言いいました。

「やるぞ、やるぞ。いまのはサンムトリの市しへも、かなり感かんじたにちがいない。」

老ろう技師ぎしが言いいました。

「今いまのはぼくらの足あしもとから、北きたへ一いちキロばかり、地表ちひょう下か七百ななひゃくメートルぐらいの所ところで、この小屋こやの六七十ろくしちじゅう倍ばいぐらいの岩いわの塊かたまりが熔岩ようがんの中なかへ落おち込こんだらしいのだ。ところがガスがいよいよ最後さいごの岩いわの皮かわをはね飛とばすまでには、そんな塊かたまりを百ひゃくも二百にひゃくも、じぶんのからだの中なかにとらなければならない。」

大だい博士はかせはしばらく考かんがえていましたが、

「そうだ、僕ぼくはこれで失敬しっけいしよう。」と言いって小屋こやを出でて、いつかひらりと船ふねに乗のってしまいました。老ろう技師ぎしとブドリは、大だい博士はかせがあかりを二三にさん度ど振ふって挨拶あいさつしながら、山やまをまわって向むこうへ行いくのを見送みおくってまた小屋こやにはいり、かわるがわる眠ねむったり観測かんそくしたりしました。そして明あけ方がたふもとへ工作こうさく隊たいがつきますと、老ろう技師ぎしはブドリを一人ひとり小屋こやに残のこして、きのう指ゆびさしたあの草地くさちまで降おりて行いきました。みんなの声こえや、鉄てつの材料ざいりょうの触ふれ合あう音おとは、下したから風かぜの吹ふき上あげるときは、手てにとるように聞きこえました。ペンネン技師ぎしからはひっきりなしに、向むこうの仕事しごとの進すすみ具合ぐあいも知しらせてよこし、ガスの圧力あつりょくや山やまの形かたちの変かわりようも尋たずねて来きました。それから三み日かの間あいだは、はげしい地震じしんや地鳴じなりのなかで、ブドリのほうもふもとのほうもほとんど眠ねむるひまさえありませんでした。その四よん日か目めの午前ごぜん、老ろう技師ぎしからの発信はっしんが言いって来きました。

「ブドリ君くんだな。すっかりしたくができた。急いそいで降おりてきたまえ。観測かんそくの器械きかいは一いっぺん調しらべてそのままにして、表ひょうは全部ぜんぶ持もってくるのだ。もうその小屋こやはきょうの午後ごごにはなくなるんだから。」

ブドリはすっかり言いわれたとおりにして山やまを降おりて行いきました。そこにはいままで局きょくの倉庫そうこにあった大おおきな鉄材てつざいが、すっかり櫓やぐらに組くみ立たっていて、いろいろな器械きかいはもう電流でんりゅうさえ来くればすぐに働はたらき出だすばかりになっていました。ペンネン技師ぎしの頬ほおはげっそり落おち、工作こうさく隊たいの人ひとたちも青あおざめて目めばかり光ひからせながら、それでもみんな笑わらってブドリに挨拶あいさつしました。

老ろう技師ぎしが言いいました。

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