朝食
ハムまたはベーコン・アンド・エッグス、そしてトースト、コーヒー 2ドル25
ホット・ケーキ 1ドル
フレンチ・トースト 1ドル10
フライド・エッグス 85セント
トーストにコーヒー 60セント
紅茶またはコーヒー 35セント
パイナップル
グアヴァ
トマト
ジュース三種類各40セント
ホット・ミルク、ココア 60セント
フレッシュ・ミルク 60セント
サンキュー
セヴンナップの広告をかねたメニュー・ボードには、以上のように朝食のメニューが出ている。アルファベットをひと文字ずつ細いスロットにさしこんで表示をつくるメニュー・ボードだ。ケアウェ・ストリートに面した窓のすぐわきの壁に、このメニュー・ボードはかかっている。
自分の注文した朝食が調理室から出てくるのを静かに待ちながら、彼は、そのメニュー・ボードの表示をていねいに読んだ。
彼は、老人だ。一九〇一年生まれだという。このハワイ島の北東、ハマクア・コーストのラウパホエホエというところにかつてあった、砂糖キビ耕地のなかで生まれたという。
小柄な、老いた日系の二世だ。やせている。白髪が、当人でさえすでにそこに生えているのを忘れてしまったのではないかと思えるような風情で、頭ぜんたいに薄いけれどもまんべんなく生えている。顔そして首が濃く陽に焼け、縦横無尽に深いしわがかさなりあっている。
若いころはハンサムだったにちがいない端正な顔は、おだやかな表情を悲しげにたたえている。淡いブルーの半袖のシャツの裾を、黒に近い濃いブルーのスラックスの外に出している。シャツの胸ポケットには、黒いビニールのケースにおさめた眼鏡が入っている。
ひもで結ぶ黒い靴をはいている。両足にはいたその小さな黒い靴は、店のコンクリートのフロアに、軽く静かに、乗っている。
アルミニウムの板で縁どりをした赤いフォルミカ・トップのカウンターに、老いたいまはすっかり細くなってしまった両腕を、彼は置いている。茶色の斑点の無数に浮かんだ、しわだらけの両手を、かさねあわせている。
メニュー・ボードの文字を読んだ彼は、正面に顔をむけた。カウンターの内側のスペースのむこうに、壁によせて台があり、コーヒーをつくると同時にそのコーヒーを熱く保っておくための装置、ニクロ・デュオブリュー・オートマティックが、乗っている。
この装置のうしろの、クリーム色に塗った壁にも、メニュー・ボードがある。おなじくスロットにアルファベットをはめこんでいく方式であり、こちらのほうはコカコーラの広告をかねている。彼は、このメニュー・ボードの文字を、左肩から読んでいった。
ハンバーガー 65セント
チーズバーガー 90セント
チリ・バーガー 90セント
グリルド・チーズ 75セント
ハム・アンド・エッグ 1ドル35
ベーコン・トマト 1ドル35
ハム・アンド・チーズ 1ドル35
ハムまたはベーコン 1ドル
フライド・エッグ 60セント
ツナ 85セント
ホット・ドッグ 60セント
ロースト・ビーフ 1ドル50セント
ハンバーガー・デラックス 95セント
ツナ・アンド・トマト 1ドル35
グリルド・ツナ・アンド・チーズ 1ドル60セント
チーズ 60セント
パイ・アラモード 60セント
モルテッド・ミルク 1ドル25セント
サンデー 1ドル10セント
バナナ・スプリット 1ドル60セント
ルート・ビア・フロート 1ドル
アイスクリーム・ディッシュ 95セント
コーク・フロート 1ドル
ソーダ 30セント
ソーダ・ラージ・グラス 55セント
サンカ・コーヒー 35セント
以上だ。
小柄な日系の老人は、ていねいに、ゆっくり、このメニューを読んだ。いつ読んでも、メニューはおなじだ。料理の値段が5セントあるいは10セントに値上がりしたとき、数字が変わる。変化といえばせいぜいそんなものだが、この店ではそんな小さな変化も、めったにない。
メニュー・ボードは、もうひとつある。調理室のドアの左側の壁に、ソーダ・マシーンと丸い鏡とにはさまれて、コカコーラのマークが赤く入った縦長のメニュー・ボードがある。これは朝食のメニューであり、スロットにはめこまれている文字は、ケアウェ・ストリートに面した窓のとなりにあるメニュー・ボードと、まったくおなじだ。メニュー・ボードの右わきに、赤いカードがスコッチ・テープでとめてあった。黒い文字で、コリーアン・ジンセン・ティー 40セント、と読めた。
ゆっくり、老人は天井に目をむけた。簡単な造りの白い天井が、ほんのりとすすけていた。天井に接して白く塗った板壁の部分があり、老人が面している正面の板壁には壁かけ時計がとりつけてあった。古い時計だが、作動していた。七時を数分だけ過ぎていた。朝の七時だ。老人から見て左側にあたる壁の、天井に近い高いところに、厳島神社のしゃもじがひとつ、かけてあった。
白く塗った幅のせまい板壁の下には、甘いものの品書きが、横に一列にならんでいた。
オレンジ・フリーズ 1ドル10
ルート・ビア・フロート 1ドル
アイスクリーム・ディッシュ 95セント
ストロベリー・サンデー 1ドル10
バナナ・スプリット 1ドル60
この店が開店したときからここにこのままある品書きだ。三十年、変わらずにある。ただし、値段は数字を印刷した紙を切り抜いてもとの数字のうえに貼り、訂正してある。どれにも簡単な絵がそえてあるのだが、色はすっかり変色してしまっている。ストロベリー・サンデーはストロベリーではなくチョコレートのようだし、バナナ・スプリットはぜんたいが一様に色あせたシルエットになっていて、アメリカで育った人以外には、これがバナナ・スプリットだとはわからないだろう。
調理場のドアが開いた。この店の日系の店主が、客のために調理した朝食を両手に持って、出てきた。右手に持っている皿には、スクランブルド・エッグスにベーコン、そして一個のジャガイモを五つに切ってフライしてそえたものが、盛り合わせてあった。左手の皿には、トーストが二枚、おたがいに斜めにかさなっていた。トーストのうえには、薄く四角に切ったバターが乗せてあった。