← Library‹ 頬よせてホノルル ヒロ発11時58分 3

カフェを出でて、ぼくと父親ちちおやは、彼かれの自宅じたくにむかった。父親ちちおやはうしろの席せきにすわった。カフェへは、妹いもうとのヘレンの自動じどう車しゃに乗のせてもらって来きたと、父親ちちおやは言いっていた。ヘレンは、両親りょうしんの家いえから三さん軒けん隣となりの家いえに住すんでいる。

「ヘレンは、いまでもスポーツ・タイプの車くるまに乗のっているのかな」

と、ぼくがきいた。

「そうだね」

父親ちちおやが答こたえた。

「去年きょねんの車くるまは、きっと新あたらしいのにとりかえたね」

「デイトナ・パシフィカという名前なまえの、今年ことしのモデルだよ」

「スポーツ・タイプだね」

「まったく実用じつよう的てきではないんだ。まっ黒くろでね、しかも。気味きみが悪わるい。乗のっていると、きまり悪わるいよ」

ぼくが借かりてきたこのビューイック・センチュリーに関かんしては、父親ちちおやはなにも言いわなかった。

「クリスマス・プレゼントはトランクのなかにあるんだ」

と、ぼくは言いった。

「なにを持もってきてくれたのかね」

「お母ははさんには、箸はしおき。二十にじゅう四よん個このセットだ」

「そんなにたくさん」

「佳子よしこが選えらんでくれた。京都きょうとで、ふと入はいった店みせにいいのがあって、どれもみな美うつくしいから、たくさんのなかから二十にじゅう四よん個こを選えらんで、ワン・セットということにしたのさ」

クリスマスになにかもらえるなら、日本にっぽん製せいの箸はしおきがいいと、これは母親ははおやからのリクエストだった。

「ヘレンには、チューイン・ガムのケース」

ぼくの言葉ことばに、父親ちちおやは笑わらった。

「人々ひとびとは、ガムをケースに入いれはじめたかね」

「フランス製せいの革かわ細工さいくで、きれいな出来できばえだよ。これがいちばん、高価こうかだった。とび抜ぬけて、高たかい」

「ぼくには、なにがあるんだい」

「自宅じたくで見みせる。期待きたいして、待まっていてほしい」

両親りょうしんの住すむ家いえには、すぐに着ついた。雨あめの降ふる道路どうろのむこうに、その家いえおよび周辺しゅうへんの光景こうけいが見みえてくると、奇妙きみょうな懐なつかしさをぼくは覚おぼえる。ぼくにとっては、いつもの生活せいかつの場所ばしょではなく、たとえば今度こんどはわずか二に泊はくするだけの場所ばしょだが、そこには父親ちちおやとそのふたりめの妻つまが住すんでいて、三さん軒けん隣となりには妹いもうとも住すんでいる場所ばしょだ。ここにぼくも居いついてしまおうと思おもえば、十じゅう年ねんでも十じゅう五ご年ねんでも、居いつくことは出来できる。

車くるまを、ぼくは庭にわのなかに入いれた。父親ちちおやのスカイラークのうしろに、停とめた。ワイパーを止とめ、エンジンを停止ていしさせた。けっして金持かねもちの家いえではないが、両親りょうしんの住すむ家いえはいまでも居心地いごこちよさそうに見みえた。

母ははが、ドアを開ひらいてポーチに出でてきた。おだやかに微笑びしょうして、彼女かのじょは手てをあげてみせた。白髪はくはつの、ほっそりした体からだの、静しずかなきれいな人ひとだ。口数くちかずのすくない、おとなしい女性じょせいだということは、ドアのわきに立たっているその姿勢しせいからでも、判断はんだんすることが出来できた。

ヘレンは、外観がいかんがこの母ははによく似にている。ヘレンだけを見みていると、彼女かのじょはうしろの席せきにいる父親ちちおやにそっくりだが、母ははを見みると、ヘレンはより母ははに似にている。

ぼくたちは、自動じどう車しゃの外そとに出でた。ぼくはトランクを開ひらいて荷物にもつを出だし、かたわらで待まっていた父親ちちおやといっしょにポーチの階段かいだんをあがった。

「元気げんきそう」

ぼくを優やさしく抱いだいて、母ははが言いった。至近しきん距離きょりから彼女かのじょの目めをのぞきこむように見みるのが、ぼくは好すきだ。

「元気げんきで、しかも財産ざいさんが増ふえたよ。おやじが、ジョークの本ほんをクリスマス・プレゼントにくれて、さっそくひとつ、カフェでみんなに披露ひろうしたんだ。頭あたまのなかに持もつ財産ざいさんとして、ジョークに勝まさるものはないそうだ」 

ぼくたちは、家いえのなかに入はいった。一いち年ねんぶりのその家いえは、すこしも変かわっていなかった。香かおりも感触かんしょくも、目めにみえるあらゆる部分ぶぶんも、すべておなじだった。

ぼくのために空あけてある部屋へやが、奥おくにひとつある。その部屋へやへ、ぼくは入はいった。裸はだかになり、着替きがえをした。くしゃくしゃの、はき古ふるしたチノ・パンツに、おなじく古ふるいアロハ・シャツを着きると、自宅じたくに帰かえった人ひとのような気持きもちになることが出来できた。

居間いまへ戻もどると、テーブルにお茶ちゃが出でていた。

「ケーキを食たべる?」

と、母ははがきいた。

「ヘレンが焼やいたのが、あるのよ。たいへんおいしい」

「食たべたい」

ソファにすわっているぼくの位置いちから、居間いまをへだてたむかい側がわの壁かべに寄よせたライティング・ビューローが、正面しょうめんに見みえた。そのビューローのいちばん上うえの棚たなに、それぞれ小ちいさな額がくに入はいった写真しゃしんがいくつも立たててある。岩国いわくにの錦帯きんたい橋きょうの上うえで撮とった、母ははの若わかい頃ころのモノクロームの写真しゃしんが、去年きょねんとおなじ位置いちにあった。

「そうだ、クリスマス・プレゼントを持もってくる」

ぼくは、自分じぶんの部屋へやへいった。三さん人にんへのクリスマス・プレゼントを持もち、居間いまに戻もどった。テーブルの上うえには、ケーキが出でていた。そしてそのケーキは、母ははが言いっていたように、たいへんによく出来できていた。

父親ちちおやへのプレゼントは、旅行りょこう用ようの鞄かばんだった。軽かるくてしっかり出来できていて、しかも洒落しゃれている。大おおきさも、ちょうどいい。

「飛行ひこう機きの座席ざせきの下したにおさまるサイズなんだ。これを持もって、日本にっぽんへ旅行りょこうするといい」

父親ちちおやは、その鞄かばんを気きにいった。手てにさげて居間いまを歩あるきまわり、ためつすがめつ見みた。

「どうかね」

と、妻つまの三枝子みえこに彼かれは意見いけんを求もとめた。

「よく似合にあいますよ」

「よし。日本にっぽんへいこう。気候きこうのいいときに、荷物にもつはこれひとつに全部ぜんぶおさめて。身軽みがるな旅たびが、ぼくは好すきなんだ」

これまでに、何なん度どか聞きいたことのある台詞せりふだ。気候きこうのいいときに鞄かばんひとつで日本にっぽんを旅行りょこうする、と父親ちちおやは以前いぜんから言いっているが、なかなか実現じつげんしない。

カフェで、父親ちちおやは、ぼくの妻つまへのクリスマス・プレゼントもくれた。あの包つつみのなかにはなにが入はいっているのかと、ぼくはふたりにきいた。

「バター・プレートの五ご枚まいセットよ」

と、母ははが答こたえた。

「きれいよ。清水しみず焼やきのようで」

母ははがいれてくれるお茶ちゃには、緑茶りょくちゃの葉はといっしょにパフド・ライスが入はいっている。その芳こうばしい香かおりが、緑茶りょくちゃの味あじと微妙びみょうに調和ちょうわしていた。

窓まどの外そとでは、雨あめが降ふっていた。ヒロ空港くうこうに着陸ちゃくりくする寸前すんぜん、747の窓まどから見下みおろした光景こうけいのなかの雨あめを、ぼくはふと思おもい出だした。そこから連想れんそうは飛行ひこう機きのなかに戻もどり、着陸ちゃくりくの体勢たいせいに入はいるすぐまえに読よんだ雑誌ざっしの記事きじを、ぼくは思おもい出だした。

ロード・アイランド州しゅうの沿岸えんがん、リトル・コンプトンというところの沖おきにある、年齢ねんれい百ひゃく二に歳さいの灯台とうだい、サコネット・ライトハウスに関かんする記事きじだった。

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