「なるほど見たところ、衣服を着た時の姿とは違うて肉つきの豊な、ふっくりとした膚。
(さっき小屋へ入って世話をしましたので、ぬらぬらした馬の鼻息が体中にかかって気味が悪うござんす。ちょうどようございますから私も体を拭きましょう。)
と姉弟が内端話をするような調子。手をあげて黒髪をおさえながら腋の下を手拭でぐいと拭き、あとを両手で絞りながら立った姿、ただこれ雪のようなのをかかる霊水で清めた、こういう女の汗は薄紅になって流れよう。
ちょいちょいと櫛を入れて、
(まあ、女がこんなお転婆をいたしまして、川へ落こちたらどうしましょう、川下へ流れて出ましたら、村里の者が何といって見ましょうね。)
(白桃の花だと思います。)とふと心付いて何の気もなしにいうと、顔が合うた。
すると、さも嬉しそうに莞爾してその時だけは初々しゅう年紀も七ツ八ツ若やぐばかり、処女の羞を含んで下を向いた。
私はそのまま目を外らしたが、その一段の婦人の姿が月を浴びて、薄い煙に包まれながら向う岸の潵に濡れて黒い、滑かな大きな石へ蒼味を帯びて透通って映るように見えた。
するとね、夜目で判然とは目に入らなんだが地体何でも洞穴があるとみえる。ひらひらと、こちらからもひらひらと、ものの鳥ほどはあろうという大蝙蝠が目を遮った。
(あれ、いけないよ、お客様があるじゃないかね。)
不意を打たれたように叫んで身悶えをしたのは婦人。
(どうかなさいましたか、)もうちゃんと法衣を着たから気丈夫に尋ねる。
(いいえ、)
といったばかりできまりが悪そうに、くるりと後向になった。
その時小犬ほどな鼠色の小坊主が、ちょこちょことやって来て、あなやと思うと、崖から横に宙をひょいと、背後から婦人の背中へぴったり。
裸体の立姿は腰から消えたようになって、抱ついたものがある。
(畜生、お客様が見えないかい。)
と声に怒を帯びたが、
(お前達は生意気だよ、)と激しくいいさま、腋の下から覗こうとした件の動物の天窓を振返りさまにくらわしたで。
キッキッというて奇声を放った、件の小坊主はそのまま後飛びにまた宙を飛んで、今まで法衣をかけておいた、枝の尖へ長い手で釣し下ったと思うと、くるりと釣瓶覆に上へ乗って、それなりさらさらと木登をしたのは、何と猿じゃあるまいか。
枝から枝を伝うと見えて、見上げるように高い木の、やがて梢まで、かさかさがさり。
まばらに葉の中を透して月は山の端を放れた、その梢のあたり。
婦人はものに拗ねたよう、今の悪戯、いや、毎々、蟇と蝙蝠と、お猿で三度じゃ。
その悪戯に多く機嫌を損ねた形、あまり子供がはしゃぎ過ぎると、若い母様には得てある図じゃ。
本当に怒り出す。
といった風情で面倒臭そうに衣服を着ていたから、私は何にも問わずに小さくなって黙って控えた。」