← Library‹ 時差のないふたつの島 11

花子はなこ、という自分じぶんの名前なまえを、彼女かのじょは嫌きらっていた。いい名前なまえだとぼくは思おもうのだが、彼女かのじょは嫌きらいだと言ゆう。花子はなこさん。花子はなこくん。花子はなこちゃん。花子はなこ。花はな。花はなちゃん。お花はな。お花はなさん。どれもみな素敵すてきなのに、彼女かのじょは、よして、よして、と言いっていた。

旅たびさきからしばしばくれる絵葉書えはがき、そしてときたま書かいてくれる長ながい手紙てがみの署名しょめいには、HANNAという書かきかたを、彼女かのじょは採択さいたくしていた。ハナ、ではなく、ハンナ、なのだ。ンの字じをまんなかにはさむことに、彼女かのじょはこだわっている。これはこれで結構けっこうだと、ぼくは思おもっていた。

その花子はなこが、いや、ハンナが、マウイへいく、と言いった。スケジュールをきいてみると、偶然ぐうぜんにもぼくもいくことになっていたマウイでのスケジュールと、ほぼ一致いっちするということがわかった。

せっかくだからマウイでの時間じかんはふたりでいっしょに過すごしてみようということになり、ぼくはマウイのハナに、ホテルを予約よやくした。ホテル・ハナ・マウイだ。

まずしばらくオアフ島とうで過すごす、と彼女かのじょは言いっていた。ホノルルからマウイまで、どのような経路けいろをとるにせよ、マウイにはハナ空港くうこうに降おりるようにと、ぼくは彼女かのじょに言いっておいた。

ハンナがマウイにいた二に週間しゅうかんのうち、十とお日間かかん、ぼくたちはいっしょに過すごした。

ハナ・ハイウエイを、まず思おもい出だす。『ここからさき三十さんじゅうマイルは道幅みちはばせまくカーヴ多おうし』という標識ひょうしきの文句もんくは、すこし長ながめの詩しのタイトルにそのまま使つかえそうだ。

カフルイとワイルクへ遊あそびにいったときには、このハナ・ハイウエイを往復おうふくとも、果敢かかんにもハンナが運転うんてんしてくれた。このハイウエイは私わたくしと似にてるわ、と彼女かのじょは言いっていた。

ROAD TO HANA SURVIVORという文句もんくをプリントした白しろいTシャツを買かった。いまでもさがせばどこかにあるはずだ。買かった店みせは、ハセガワ・ジェネラル・ストアだ。

この店みせでは、買かい物ものに来きていた日系にっけいの老人ろうじんに、ハナの歴史れきしを教おしえてもらった。ハナはハワイ島とうに近ちかいという地理ちり的てきな条件じょうけんのため、カメハメハ・ザ・グレイトがハワイ王国おうこくを統一とういつするまでは、敵てきに攻せめこむための前線ぜんせん基地きちであり、敵てきから攻せめこまれて戦たたかう戦場せんじょうでもあったのだ。征服せいふくしたり征服せいふくされたりを、何なん度どもくりかえした。

ハナ・ビーチ・パークのベンチで彼女かのじょといっしょに食たべたボックス・ランチが、おいしかった。ピクニック用ように箱はこにつめてもらったあの店みせの名なを、思おもい出ださなくては。

港みなとの桟橋さんばしで彼女かのじょの写真しゃしんを撮とったのは、おなじ日ひだったと思おもう。『ハセガワ・ジェネラル・ストア』という歌うたの入はいったLPを買かったのも、おなじ日ひのことだ。ストアをテーマにしたバンパー・スティッカーも買かい、LPのジャケットのなかに入いれておいた。入いれたままだ、いま思おもい出だした。

ある日ひ、カプチーノが飲のみたい、と突然とつぜん、ハンナが言いった。ぼくは、カプチーノの飲のめる店みせをみつけてあげた。この店みせでは、別べつの日ひに、夕食ゆうしょくを食たべた。ラザニアとかカネロニとか、そのようなものを食たべたと記憶きおくしている。

世界せかいじゅうの島しまをめぐり歩あるき、その島しまについて詩しを書かいているという詩人しじんが、自作じさくの詩しの朗読ろうどくを、その店みせでおこなっていた。彼かれのそのときの詩しは、マウイ島とうの電話でんわ帳ちょうのイエロー・ページからひろい出だしたさまざまな固有こゆう名詞めいしや文句もんくを、リズムよろしく巧たくみにつなぎあわせたものだった。つなぎかたに、ぼくは感心かんしんした。

おなじ手口てぐちでぼくも詩しをつくってみよう、と思おもった。たとえばレンタカー会社かいしゃのパンフレットをたくさん集あつめ、そのなかから拾ひろった文句もんくをつないでいけば、きっと詩しになるにちがいないと、そのときのぼくは思おもった。

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