99号線。というよりも、ぼくとしてはカメハメハ・ハイウエイと呼びたい。略してKAM。キャームだ。そのカメハメハ・ハイウエイを、中古で買ったフォード・グラナーダで走りながら、ぼくは次のようなことを考えた。
二万年ほどまえの今日にさかのぼるなら、当時のオアフ島はまだふたつに分かれていた。オアフ島は、海面上にようやく顔を出した、東西にならぶふたつの火山でしかなかった。だから、いまぼくがフォード・グラナーダで走っているこのあたりは、二万年まえの今日はまだ海のなかだ。
東西にならんでいたふたつの火山のうち、東側の火山は、いまのコオラウの山なみをつくった。そして、西側の火山は、ワイアナエの山なみとなった。二万年という時間は、太陽系の歴史のなかでさえ、ほんの一瞬と言っていいほどの短い時間だ。
ロード・マップには「二車線以上の道幅(舗装ずみ)」と出ている部分のカメハメハ・ハイウエイを、いまぼくは走っている。ワヒアワからは、中央分離帯のある、ディヴァイデッド・ハイウエイとなる。
頭のなかで二万年まえにさかのぼったぼくは、そこからハワイの歴史について、思いをめぐらせた。歴史の流れを順番におおまかにたどりつつ、その歴史の流れのなかで起こったあれやこれやに関して、それぞれ感銘をあらたにした。そして、ほどなく、現代まで戻って来た。
そのとたん、パラダイス、というひと言が、ぼくの頭のなかに残った。二万年まえのふたつの火山は、いまひとつにつながり、パラダイスとなっている。
頭のなかに残ったパラダイスのひと言から、アイディアがひとつ、ひらめいた。
パラダイス巡りをするといい、というアイディアだ。このオアフ島には、パラダイスという言葉を冠した店が、たとえばスーヴェニア。ショップとか洗濯屋とかカーペット張り替え見積り請け負い業とか、さまざまにたくさんあるにちがいない。電話帳のイエロー・ページに、すべて屋号として順番にならんでいるだろうから、ひとつひとつ訪ね歩いてはその店を写真に撮り、店主や従業員の話を聞き、取材とまではいかなくても感想メモくらいはとってみるときっと面白いはずだ、というアイディアだ。このアイディアがひらめいた次の瞬間、パイナップル畑を吹き渡る風が、窓をすべて降ろしてあるフォード・グラナーダのなかを抜けていった。
ワイパフに寄ってみよう、とぼくは思った。ワイパフにはなんの用もないが、寄ってみようと思ったのだ。午後三時のおやつをワイパフで食べることを、やがてぼくは思いついた。なんの用もなかったワイパフに、三時のおやつを食べる用がこうして出来た。
かんかん照りの駐車場にフォードを停めたぼくは、軽食堂をさがした。日系の名前のついている、ぼくの好みの食堂が、やがてみつかった。ぼくは、その店に入った。
奥のテーブル席に、失業者のような初老の男性たちが三人いた。三人は、コーヒーを飲んでいた。カウンターの席にすわったぼくは、コーヒーとドーナツを注文した。目尻の吊り上がった眼鏡をかけた日系のおばさんは、カウンターのなかで首を振った。コーヒーはいくらでもあるけれど、ドーナツはもうないよと、彼女は言った。ドーナツは、朝食の時間帯のなかで、すべて売りきれてしまったのだ。
ベイグルならあるから、それでサンドイッチをつくってあげることは出来るよ、とおばさんは言った。それをもらうことにした。サンドイッチの中身をなににするか、おばさんはぼくにきいた。
コーヒーはワイパフの味だった。ほんとうはなんの特色もないのだが、ワイパフの味と自分自身に言っておくと、そのことだけで、このコーヒーをかなり長い期間にわたって記憶しておくことが出来るように思える。
ベイグルのサンドイッチは、思いのほか想像力に富んでいた。形だけはドーナツに似たベイグルが、ほんとにきれいに、すっぱりと、上下に切り離してあった。あまりにもきれいに切ってあったので、これはどうやって切るのですかと、ぼくはおばさんにきいた。
「カッターを使うのよ」
と、おばさんはこたえた。
「カッターですか」
「そうよ。見る?」
「見せてください」
カウンターのむこうの端まで歩いていった彼女は、ベイグル・カッターを持ってぼくのまえまで戻って来た。そして、カッターをかかげて見せてくれた。
「ここにベイグルをひとつ入れて、この溝に合わせてナイフで切るのね」
彼女の言うとおりだった。ベイグルをひとつ、縦に差しこむくぼみが木のブロックのなかに掘ってあり、そのくぼみを中央でつらぬくように、細い溝がまっすぐにあった。ベイグルをくぼみに収めたなら、この溝にナイフを差しこんでベイグルを切ればそれでいいのだ。
「ナイフがいつもシャープでないといけないのよ」
もとの場所にベイグル・カッターを持っていきながら、彼女は言った。
サンドイッチを食べ終わったぼくは、オアフの電話帳を貸してもらった。カウンターにその電話帳を開き、コーヒーを飲みながら、ぼくはパラダイスをさがしにとりかかった。
イエロー・ページのリスティングは業種別であり、パラダイスなんとかやパラダイスかんとかをさがすには、アルファベットによるリスティングのところを見なくてはいけないのだった。
パラダイスは、みつかった。ほぼ、ワン・コラムにわたって、さまざまなパラダイスが列挙してあった。
いちばんはじめに出ていたのは、南ベレタニア街にあるというパラダイス骨董美術品店という店だった。その次は、カラカウア・アヴェニューのパラダイス鞄店だった。
パラダイス床屋店。パラダイス飲料店。パラダイス衣料店。パラダイス金融店。パラダイス建具設備店。パラダイス花店。パラダイス建築店。パラダイス宝石店。パラダイス・ヘリコプター店。パラダイス八百屋店。