← Library‹ 時差のないふたつの島 14

99号ごう線せん。というよりも、ぼくとしてはカメハメハ・ハイウエイと呼よびたい。略りゃくしてKAM。キャームだ。そのカメハメハ・ハイウエイを、中古ちゅうこで買かったフォード・グラナーダで走はしりながら、ぼくは次つぎのようなことを考かんがえた。

二に万まん年ねんほどまえの今日きょうにさかのぼるなら、当時とうじのオアフ島とうはまだふたつに分わかれていた。オアフ島とうは、海面かいめん上じょうにようやく顔かおを出だした、東西とうざいにならぶふたつの火山かざんでしかなかった。だから、いまぼくがフォード・グラナーダで走はしっているこのあたりは、二に万まん年ねんまえの今日きょうはまだ海うみのなかだ。

東西とうざいにならんでいたふたつの火山かざんのうち、東側ひがしがわの火山かざんは、いまのコオラウの山やまなみをつくった。そして、西側にしがわの火山かざんは、ワイアナエの山やまなみとなった。二に万まん年ねんという時間じかんは、太陽たいよう系けいの歴史れきしのなかでさえ、ほんの一瞬いっしゅんと言いっていいほどの短みじかい時間じかんだ。

ロード・マップには「二に車線しゃせん以上いじょうの道幅みちはば(舗装ほそうずみ)」と出でている部分ぶぶんのカメハメハ・ハイウエイを、いまぼくは走はしっている。ワヒアワからは、中央ちゅうおう分離ぶんり帯たいのある、ディヴァイデッド・ハイウエイとなる。

頭あたまのなかで二に万まん年ねんまえにさかのぼったぼくは、そこからハワイの歴史れきしについて、思おもいをめぐらせた。歴史れきしの流ながれを順番じゅんばんにおおまかにたどりつつ、その歴史れきしの流ながれのなかで起おこったあれやこれやに関かんして、それぞれ感銘かんめいをあらたにした。そして、ほどなく、現代げんだいまで戻もどって来きた。

そのとたん、パラダイス、というひと言ことが、ぼくの頭あたまのなかに残のこった。二に万まん年ねんまえのふたつの火山かざんは、いまひとつにつながり、パラダイスとなっている。

頭あたまのなかに残のこったパラダイスのひと言ことから、アイディアがひとつ、ひらめいた。

パラダイス巡めぐりをするといい、というアイディアだ。このオアフ島とうには、パラダイスという言葉ことばを冠かんした店みせが、たとえばスーヴェニア。ショップとか洗濯せんたく屋やとかカーペット張はり替かえ見積みつもり請うけ負おい業ぎょうとか、さまざまにたくさんあるにちがいない。電話でんわ帳ちょうのイエロー・ページに、すべて屋号やごうとして順番じゅんばんにならんでいるだろうから、ひとつひとつ訪たずね歩あるいてはその店みせを写真しゃしんに撮とり、店主てんしゅや従業じゅうぎょう員いんの話はなしを聞きき、取材しゅざいとまではいかなくても感想かんそうメモくらいはとってみるときっと面白おもしろいはずだ、というアイディアだ。このアイディアがひらめいた次つぎの瞬間しゅんかん、パイナップル畑はたけを吹ふき渡わたる風かぜが、窓まどをすべて降おろしてあるフォード・グラナーダのなかを抜ぬけていった。

ワイパフに寄よってみよう、とぼくは思おもった。ワイパフにはなんの用ようもないが、寄よってみようと思おもったのだ。午後ごご三さん時じのおやつをワイパフで食たべることを、やがてぼくは思おもいついた。なんの用ようもなかったワイパフに、三さん時じのおやつを食たべる用ようがこうして出来できた。

かんかん照てりの駐車ちゅうしゃ場じょうにフォードを停とめたぼくは、軽けい食堂しょくどうをさがした。日系にっけいの名前なまえのついている、ぼくの好このみの食堂しょくどうが、やがてみつかった。ぼくは、その店みせに入はいった。

奥おくのテーブル席せきに、失業しつぎょう者しゃのような初老しょろうの男性だんせいたちが三さん人にんいた。三さん人にんは、コーヒーを飲のんでいた。カウンターの席せきにすわったぼくは、コーヒーとドーナツを注文ちゅうもんした。目尻めじりの吊つり上あがった眼鏡めがねをかけた日系にっけいのおばさんは、カウンターのなかで首くびを振ふった。コーヒーはいくらでもあるけれど、ドーナツはもうないよと、彼女かのじょは言いった。ドーナツは、朝食ちょうしょくの時間じかん帯たいのなかで、すべて売うりきれてしまったのだ。

ベイグルならあるから、それでサンドイッチをつくってあげることは出来できるよ、とおばさんは言いった。それをもらうことにした。サンドイッチの中身なかみをなににするか、おばさんはぼくにきいた。

コーヒーはワイパフの味あじだった。ほんとうはなんの特色とくしょくもないのだが、ワイパフの味あじと自分じぶん自身じしんに言いっておくと、そのことだけで、このコーヒーをかなり長ながい期間きかんにわたって記憶きおくしておくことが出来できるように思おもえる。

ベイグルのサンドイッチは、思おもいのほか想像そうぞう力りょくに富とんでいた。形かたちだけはドーナツに似にたベイグルが、ほんとにきれいに、すっぱりと、上下じょうげに切きり離はなしてあった。あまりにもきれいに切きってあったので、これはどうやって切きるのですかと、ぼくはおばさんにきいた。

「カッターを使つかうのよ」

と、おばさんはこたえた。

「カッターですか」

「そうよ。見みる?」

「見みせてください」

カウンターのむこうの端はしまで歩あるいていった彼女かのじょは、ベイグル・カッターを持もってぼくのまえまで戻もどって来きた。そして、カッターをかかげて見みせてくれた。

「ここにベイグルをひとつ入いれて、この溝みぞに合あわせてナイフで切きるのね」

彼女かのじょの言いうとおりだった。ベイグルをひとつ、縦たてに差さしこむくぼみが木きのブロックのなかに掘ほってあり、そのくぼみを中央ちゅうおうでつらぬくように、細ほそい溝みぞがまっすぐにあった。ベイグルをくぼみに収おさめたなら、この溝みぞにナイフを差さしこんでベイグルを切きればそれでいいのだ。

「ナイフがいつもシャープでないといけないのよ」

もとの場所ばしょにベイグル・カッターを持もっていきながら、彼女かのじょは言いった。

サンドイッチを食たべ終おわったぼくは、オアフの電話でんわ帳ちょうを貸かしてもらった。カウンターにその電話でんわ帳ちょうを開ひらき、コーヒーを飲のみながら、ぼくはパラダイスをさがしにとりかかった。

イエロー・ページのリスティングは業種ぎょうしゅ別べつであり、パラダイスなんとかやパラダイスかんとかをさがすには、アルファベットによるリスティングのところを見みなくてはいけないのだった。

パラダイスは、みつかった。ほぼ、ワン・コラムにわたって、さまざまなパラダイスが列挙れっきょしてあった。

いちばんはじめに出でていたのは、南みなみベレタニア街がいにあるというパラダイス骨董こっとう美術びじゅつ品ひん店てんという店みせだった。その次つぎは、カラカウア・アヴェニューのパラダイス鞄店かばんてんだった。

パラダイス床屋とこや店てん。パラダイス飲料いんりょう店てん。パラダイス衣料いりょう店てん。パラダイス金融きんゆう店てん。パラダイス建具たてぐ設備せつび店てん。パラダイス花はな店てん。パラダイス建築けんちく店てん。パラダイス宝石ほうせき店てん。パラダイス・ヘリコプター店てん。パラダイス八百屋やおや店てん。

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