ユニフォームを着た駐車場の係の初老の男性にグラナーダのキーを渡し、ぼくはポーチの広い階段をあがった。ぼくのうしろから、西陽が明るく強く、射してきていた。
この建物は、かつての砂糖きび耕地の労働者キャンプの跡地に、当時の砂糖きび耕地の地主の母屋を模して建てたものだ。山裾をすこしだけあがった地点に建っていて、太平洋のむこうに沈む夕陽をながめつつ夕食をとることが出来るので知られたレストランだ。広いテラスが回廊のようになっていて、そのテラスにテーブルがならんでいる。
食事のまえに軽く酒を飲みながら談笑するための、ロビーのようなスペースに、ぼくは案内された。奥のソファに、バーソロミューたちがすでにすわっていた。彼と佐々木、そしてハンナにパトリシアだ。パトリシアはハンナの家に居候している。ふたりは、すでに、たいへんいい友人どうしだ。
バーソロミューとパトリシアとのあいだに、ぼくはすわった。このロビーにも、そのほぼぜんたいにわたって、西陽が入ってきていた。西陽の明るい縁は、ソファにすわっているぼくたちの足もとまで、届いていた。
ぼくは、パトリシアに顔をむけた。そして、
「昨日、ぼくは、東京にいるぼくのエディター宛てに、手紙を書いたよ」
と、言った。
「どんなことを書いたの?」
パトリシアがきいた。
「きみもすぐにこの島へ来るといい、と書いた」
「彼女には、私も会いたいわ」
「短編を書きためていると、きみは言っていたね」
「そうよ。ひとつひとつが、とても短い短編。すでにいくつも、あるわ」
「ぼくのエディターに読んでもらうといい。翻訳して日本で出版してもいいのだし」
「そうなると、うれしいわ」
「きっと、実現するよ」
限度を心得た、節度のある笑顔で、彼女はぼくを見た。
「彼女がこの島へ来ることは、ぼくがこれから書こうとしているストーリーにとって、たいへんに重要なんだ」
と、ぼくは言った。
「どんなふうに重要なのかしら」
「それぞれに興味深い人が、たくさん集まることが、重要なんだ。昨日、ひらめいたんだよ。ハンナといっしょにつくったあのストーリーを、あのストーリー単独で、ぼくがひとりで書いていくよりも、ぼくがこの島でストーリーのアイディアを手に入れたり、それをハンナといっしょにふくらませていったり、そこへさらに、もっといいアイディアが加わったりしていく様子ぜんたいをとりこんだ上で、それもストーリーの一部として書いていったほうがずっと面白い、ということがひらめいたんだ」
「ここにいる全員が、あなたのストーリーのなかに登場するのね」
「そう。きみも、ハンナも、バーソロミューも、マックも」
「面白いわ。楽しみだわ」
「あのストーリーを、あのストーリーだけとして書いていくのではなくて、あのストーリーを書こうとしているぼくとその周辺ぜんたいもまたストーリーなのだから、それを書いたほうがいい」
「そのためには、東京のエディターも、この場所に必要なのね」
佐々木が見せてくれた波乗りの写真も、ストーリーの一部分としてとりこみたいと、ぼくは思っている。エディターと相談しなければならないことのひとつだ。
明日から、ぼくは、このストーリーを書きはじめる。買ってまだ間もないあのタイプライターを使って、英語で書く。日本語に翻訳する作業まで、ぼくの美しい素敵なエディターはおこなってくれるだろうかと、ぼくは思った。