← Library‹ 時差のないふたつの島 32

ユニフォームを着きた駐車ちゅうしゃ場じょうの係かかりの初老しょろうの男性だんせいにグラナーダのキーを渡わたし、ぼくはポーチの広ひろい階段かいだんをあがった。ぼくのうしろから、西陽にしびが明あかるく強つよく、射さしてきていた。

この建物たてものは、かつての砂糖さとうきび耕地こうちの労働ろうどう者しゃキャンプの跡地あとちに、当時とうじの砂糖さとうきび耕地こうちの地主じぬしの母屋おもやを模もして建たてたものだ。山裾やますそをすこしだけあがった地点ちてんに建たっていて、太平たいへい洋ようのむこうに沈しずむ夕陽ゆうひをながめつつ夕食ゆうしょくをとることが出来できるので知しられたレストランだ。広ひろいテラスが回廊かいろうのようになっていて、そのテラスにテーブルがならんでいる。

食事しょくじのまえに軽かるく酒さけを飲のみながら談笑だんしょうするための、ロビーのようなスペースに、ぼくは案内あんないされた。奥おくのソファに、バーソロミューたちがすでにすわっていた。彼かれと佐々木ささき、そしてハンナにパトリシアだ。パトリシアはハンナの家いえに居候いそうろうしている。ふたりは、すでに、たいへんいい友人ゆうじんどうしだ。

バーソロミューとパトリシアとのあいだに、ぼくはすわった。このロビーにも、そのほぼぜんたいにわたって、西陽にしびが入はいってきていた。西陽にしびの明あかるい縁えんは、ソファにすわっているぼくたちの足あしもとまで、届とどいていた。

ぼくは、パトリシアに顔かおをむけた。そして、

「昨日きのう、ぼくは、東京とうきょうにいるぼくのエディター宛あてに、手紙てがみを書かいたよ」

と、言いった。

「どんなことを書かいたの?」

パトリシアがきいた。

「きみもすぐにこの島しまへ来くるといい、と書かいた」

「彼女かのじょには、私わたくしも会あいたいわ」

「短編たんぺんを書かきためていると、きみは言いっていたね」

「そうよ。ひとつひとつが、とても短みじかい短編たんぺん。すでにいくつも、あるわ」

「ぼくのエディターに読よんでもらうといい。翻訳ほんやくして日本にっぽんで出版しゅっぱんしてもいいのだし」

「そうなると、うれしいわ」

「きっと、実現じつげんするよ」

限度げんどを心得こころえた、節度せつどのある笑顔えがおで、彼女かのじょはぼくを見みた。

「彼女かのじょがこの島しまへ来くることは、ぼくがこれから書かこうとしているストーリーにとって、たいへんに重要じゅうようなんだ」

と、ぼくは言いった。

「どんなふうに重要じゅうようなのかしら」

「それぞれに興味きょうみ深ふかい人ひとが、たくさん集あつまることが、重要じゅうようなんだ。昨日きのう、ひらめいたんだよ。ハンナといっしょにつくったあのストーリーを、あのストーリー単独たんどくで、ぼくがひとりで書かいていくよりも、ぼくがこの島しまでストーリーのアイディアを手てに入いれたり、それをハンナといっしょにふくらませていったり、そこへさらに、もっといいアイディアが加くわわったりしていく様子ようすぜんたいをとりこんだ上うえで、それもストーリーの一部いちぶとして書かいていったほうがずっと面白おもしろい、ということがひらめいたんだ」

「ここにいる全員ぜんいんが、あなたのストーリーのなかに登場とうじょうするのね」

「そう。きみも、ハンナも、バーソロミューも、マックも」

「面白おもしろいわ。楽たのしみだわ」

「あのストーリーを、あのストーリーだけとして書かいていくのではなくて、あのストーリーを書かこうとしているぼくとその周辺しゅうへんぜんたいもまたストーリーなのだから、それを書かいたほうがいい」

「そのためには、東京とうきょうのエディターも、この場所ばしょに必要ひつようなのね」

佐々木ささきが見みせてくれた波乗なみのりの写真しゃしんも、ストーリーの一いち部分ぶぶんとしてとりこみたいと、ぼくは思おもっている。エディターと相談そうだんしなければならないことのひとつだ。

明日あすから、ぼくは、このストーリーを書かきはじめる。買かってまだ間まもないあのタイプライターを使つかって、英語えいごで書かく。日本にっぽん語ごに翻訳ほんやくする作業さぎょうまで、ぼくの美うつくしい素敵すてきなエディターはおこなってくれるだろうかと、ぼくは思おもった。

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