← Library‹ 波乗りの島 アイランド・スタイル 6

北きたの岬みさきのなかほどから、僕ぼくたちは湾わんを見みていた。空そらがまっ青さおだ。岬みさきの上空じょうくうに、岬みさきのかたちのままに、白しろい雲くもが浮うかんでいる。まぶしく銀色ぎんいろに光ひかる雲くもだ。

湾わんの海底かいていが透すけて見みえる。浅あさい部分ぶぶんの海水かいすいは淡あわいグリーンだ。海底かいていにある岩いわのひとつひとつが、手てにとるようにわかった。いきなり深ふかくなる珊瑚さんご礁しょうの棚たなの縁えんが、直線ちょくせんになって湾わんの沖おきを南みなみから北きたへふさいでいる。海うみの色いろがその部分ぶぶんで急きゅうに深ふかいブルーに変化へんかしている。これも一目いちもく瞭然りょうぜんだ。

沖おきから波なみが来くる。直線ちょくせんの峰みねが海面かいめん上じょうを走はしるように湾わんに向むかい、浅瀬あさせに乗のりあげ、高たかくのびあがる。そしてチューブ波はへと、自みずからを巻まきこんでいく。美うつくしい光景こうけいだった。ぜんたいの、すべてが、美うつくしい。

水平すいへい線せん。その上空じょうくうに積つみ重かさなっている、たくましい雲くも。海原うなばらの広ひろがり。青あおい空そら。充満じゅうまんしている鮮烈せんれつな太陽たいよう光線こうせん。白しろいアーチを逆落さかおとしにしてこちらへ走はしって来くるチューブ波は。湾わん内ないの浅瀬あさせ。黒くろい砂すなの海岸かいがん。椰子やしの林はやし。その向むこうに見みえる町まちなみ。山裾やますそのスロープ。深ふかい谷間たにま。牧場ぼくじょう。畑はたけ。そして、そういったものすべての背後はいごにそびえている険けわしい山やまの量感りょうかん。そこにあるべきものすべての、あるがままの姿すがたは、やはり美うつくしい。

岬みさきの足場あしばに僕ぼくは三脚さんきゃくを立たてた。望遠ぼうえんレンズをつけた一いち眼がんレフ・カメラを三脚さんきゃくに取とり付つけ、チューブ波はに焦点しょうてんを合あわせた。チューブはいつに変かわらぬ見事みごとさだ。少すこし強つよいオフ・ショアの風かぜを正面しょうめんから受うけて、波なみのスロープは鏡かがみのように滑なめらかだ。

空間くうかんに張はり出だして来くる水みずのアーチが、今日きょうは分厚ぶあつい。風かぜに押おし戻もどされるため、アーチの張はり出だしていく速度そくどはいつもよりわずかに遅おそく、そのためにアーチの内部ないぶに粘ねばりのあるパワーが張はりつめる。

僕ぼくはファインダーから目めを離はなした。かたわらに立たっているボブ・ラインハートを見上みあげた。ラインハートの栗色くりいろの髪かみが風かぜに吹ふき乱みだれた。

「見みえるかい」

彼かれが訊きいた。

「見みえる。素晴すばらしい」

僕ぼくはラインハートと位置いちを変かわった。そして両腕りょううでを高たかくあげ、湾わんの沖おきにいるラリー・デイヴィスたちに合図あいずを送おくった。赤あか、白しろ、そして黄色きいろのサーフボードにまたがって、ラリー、ジェニファー、そしてパニオロの美うつくしいひとり娘むすめセシリアが、沖おきに浮うかんでいた。

高たかい波なみが沖おきから進すすんで来くる。振ふり返かえって僕ぼくたちを見みていたラリーが、パドリング開始かいしのポイントまで出でていった。

「最初さいしょにラリーがチューブに入はいる。そのままカメラを動うごかさずに見みていれば、彼かれのチューブ・ライディングのすべてが見みえる」

ラインハートは、ファインダーに目めを押おしつけていた。

波なみが近ちかづいた。ジェニファーとセシリアがその波なみをやりすごした。珊瑚さんご礁しょうの棚たなに激突げきとつして行ゆき場ばを失うしない、空中くうちゅうへふくれあがっていく波なみの背面はいめんで、ラリーが完璧かんぺきに波なみと一体いったいになったパドリングをしていた。

のびあがりきった波なみの頂上ちょうじょうでボードに立たちあがったラリーは、上体じょうたいをのけぞらせて陸風りくふうをやりすごし、次つぎの瞬間しゅんかん、ボードの先端せんたんに体重たいじゅうをフルに移うつし、テイクオフをおこなった。風かぜにあおられて舞まいあがる飛沫しぶきの内部ないぶに、ラリーの体からだは隠かくれた。赤あかいサーフボードの先端せんたんが突つき出でて来きて陽ひにきらめき、両腕りょううでを広ひろげて腰こしを低ひくくしたラリーが、スロープの頂上ちょうじょうに出でて来きた。

チューブ波はが進すすむ方向ほうこうに向むかって斜ななめのテイクオフだ。スロープを斜ななめに切きり裂さき、ボトムめがけて滑降かっこうして来くる。ボードのテールからまっ白しろい航跡こうせきがのび、アーチになろうとする頂上ちょうじょうへ急速きゅうそくにたくしあげられ、巻まきこまれていく。陽焼ひやけしたラリーの体からだが波なみに濡ぬれ、陽ひに輝かがやく。

華麗かれいさとパワーをみごとに融合ゆうごうさせたターンで、ラリーはボトムをえぐり取とった。飛沫ひまつが噴水ふんすいのようにあがるなかを、垂直すいちょくに近ちかいスロープを下したから上うえへ、ラリーはのぼった。リップまであがっていき、叩たたき返かえしてよこす水みずの力ちからを完全かんぜんに利用りようし、すさまじい反転はんてんをこなしてショルダーに飛とびこんだ。見みなれている僕ぼくでさえ、思おもわず声こえをあげる。

ラリー・デイヴィスは、生いきながらにしてすでに伝説でんせつのチューブ・ライダーだ。波なみのパワーに対たいして果敢かかんな挑戦ちょうせんを限度げんどいっぱいにおこなうことにより、波なみのパワーをフルに引ひっぱり出だす。そしてそのパワーを、ほかのサーファーの誰だれにも真似まねの出来できない流麗りゅうれいさと力強ちからづよさとで、常つねにイマジネーションに満みちたチューブ・ライディングにと、転換てんかんさせていく。

こちらの岬みさきに向むかって走はしって来くるチューブを、カメラの望遠ぼうえんレンズは真横まよこよりやや波なみの前面ぜんめんにまわった角度かくどから、とらえている。チューブの内部ないぶにすっぽりとおさまったラリーが、チューブを相手あいてに抜ぬきつ抜ぬかれつする様子ようすを、ラインハートは望遠ぼうえんレンズで目めの前まえに見みた。

絞しぼられて次第しだいに小ちいさくなるチューブの出口でぐちに、ラリーの姿すがたが見みえた。チューブが閉とじるときの飛沫しぶきとともに、ラリーはチューブから絞しぼり出だされるように飛とび出だし、二に度どとおなじものは体験たいけん出来できないこのチューブに別わかれを告つげるようにポーズをきめ、波なみの外側そとがわに出でていった。

このようなサーフ・ライディングの現場げんばを、ボブ・ラインハートはいま初はじめて見みる。ファインダーから目めを離はなして立たちあがり、僕ぼくに顔かおを向むけたラインハートは、

「なんというパフォーマンスなんだ!」

と、叫さけんだ。

ラインハートが持もっている柔軟じゅうなんな感受かんじゅ性せいの深ふかさが、彼かれの表情ひょうじょうに出でていた。伝説でんせつのチューブ・ライダーのパフォーマンスに、彼かれはたったいま、心臓しんぞうをわしづかみにされた。

次つぎのセットではジェニファーがチューブに入はいってみせた。強引ごういんなテイクオフのあとは、すんなりとチューブのパワーにしたがっていた。続つづいてセシリアも、ライディングを見みせた。チューブに入はいってからチューブがなくなるまで、彼女かのじょはハング・ファイヴしたままだった。

南みなみ太平たいへい洋ようとこの小ちいさな島しまとの決定けってい的てきな触ふれ合あいの瞬間しゅんかんの深しん内部ないぶに、どのチューブ・ライダーもその生いき身みを置おく。その体験たいけんの素晴すばらしさに、ラインハートは声こえもなかった。頭上ずじょうで椰子やしの葉はが風かぜに鳴なっていた。

Click a word · hold for the whole sentence 0%