← Library‹ 波乗りの島 シュガー・トレイン 1

横長よこながの小ちいさな四角しかくいフレームの中央ちゅうおうに、飛行ひこう艇ていが一いち機き、真ま正面しょうめんから鮮明せんめいにとらえられていた。飛行ひこう艇ていはまっすぐこちらに向むかって飛とびながら、高度こうどを下さげつつあった。山やまなみの頂上ちょうじょうを越こえたばかりの、朝あさのまだ早はやい時間じかんの太陽たいようをまともに浴あび、飛行ひこう艇ていは鈍にぶい銀色ぎんいろに輝かがやいた。

太ふとい船体せんたいのような胴どうの背せに、主翼しゅよくを背負せおっていた。主翼しゅよくには片側かたがわ二に基きずつ、四よんつのプロペラ・エンジンがついていた。一いち基きで二千にせん八百はっぴゃくを超こえる馬力ばりきを軽々けいけいと絞しぼり出だす。全長ぜんちょう三十さんじゅう四よんメートル。総そう重量じゅうりょうは四十よんじゅうトンを超こえる、最新さいしん式しきの飛行ひこう艇ていだ。主翼しゅよくの端はしにフロートがひとつずつ下さがり、水平すいへい尾翼びよくは垂直すいちょく尾翼びよくの頂上ちょうじょうに一いち直線ちょくせんだ。

飛行ひこう艇ていはさらに高度こうどを下さげた。小ちいさな四角しかくいフレームの下部かぶに、濃こいエメラルド・グリーンの海うみが見みえた。その海うみに向むかって飛行ひこう艇ていは降おりていった。大おおきなプロペラ機きに特有とくゆうの、自分じぶんの重おもさをもてあましたような表情ひょうじょうを機体きたいぜんたいに漂ただよわせ、飛行ひこう艇ていは海うみに向むかった。

浅あさい侵入しんにゅう角度かくどをとって海うみとの距離きょりを次第しだいにせばめていき、やがて着水ちゃくすいした。太ふとい胴体どうたいの船底ふなぞこのような腹はらが、海面かいめんを重おもく叩たたいた。主翼しゅよくのちょうど下したあたりで胴体どうたいはもっともふくらんでいて、そこからまっ白しろく、飛沫ひまつが機体きたいの両側りょうがわへ斜ななめにあがった。

エメラルド・グリーンの海うみが鈍にぶい銀色ぎんいろの飛行ひこう艇ていの胴体どうたいによって削けずりとられ、天てんへのびる滝たきのように噴ふきあがった。胴体どうたいの最前さいぜん部ぶから後尾こうびにかけて、そして主翼しゅよくの両端りょうたんのフロートが、いっせいに海面かいめんを削けずった。

この飛行ひこう艇ていは、必要ひつようとあらば時速じそく五十ごじゅうキロの強風きょうふうに逆さからいつつ、波高はこう四よんメートルを超こえる荒天こうてんの海うみでも、たやすく離り着水ちゃくすい出来できる。着水ちゃくすい時じに胴体どうたいが跳はねあげる大量たいりょうの海水かいすいを、いかにして主翼しゅよくのプロペラに当あてずにおくかが、飛行ひこう艇ていを設計せっけいするときの重要じゅうようなポイントになる。飛行ひこう艇ていの胴体どうたいに叩たたき割わられて舞まいあがる海うみの水みずは、四よんつのプロペラをきれいにクリアしていた。

機首きしゅの黒くろく塗ぬったレーダーの上うえに、真剣しんけんに眉まゆを寄よせた人間にんげんの顔かおのように、操縦そうじゅう席せきの窓まどがあった。窓まどのなかにパイロットの姿すがたが小ちいさく見みえた。着水ちゃくすいした飛行ひこう艇ていはスピードを落おとした。プロペラの回転かいてんが急激きゅうげきに下さがった。黒くろい四よんつのプロペラがはっきりと見みえるまで回転かいてんは落おち、やがて停止ていしした。

真ま正面しょうめんから着水ちゃくすいした飛行ひこう艇ていは、機首きしゅをわずかに右みぎに向むけて海うみに乗のっていた。サングラスをかけたパイロットが、かたわらの副ふく操縦そうじゅう士しに、笑わらいながらなにか言いっていた。主翼しゅよくの下したのドアが開ひらいた。

まっ赤かなサーフボードが一いち本ほん、ドアのなかから海うみの上うえへ、ほうり出だされた。小ちいさく空中くうちゅうにアーチを描えがいた赤あかいボードは、ノーズから海うみに落おちて波間なみまに軽かるく浮うかんだ。続つづいて白しろいサーフボードが、おなじようにほうり出だされた。赤あかいボードのかたわらに落おち、浮うかんだ。

トランクス一いち枚まいの陽ひに焼やけたサーファーがひとり、飛行ひこう艇ていから海うみへダイヴした。もうひとり、そのあとを追おった。ふたりのサーファーは、波間なみまに漂ただようサーフボードに向むかって、軽かるく抜ぬき手てをきった。ボードに泳およぎつき、ボードの上うえに腹はらばいになり、ふたりならんでこちらに向むけてパドリングを始はじめた。

飛行ひこう艇ていとふたりの距離きょりが次第しだいに開ひらいた。飛行ひこう艇ていの上うえ半分はんぶんが画面がめんの外そととなり、やがて小ちいさな横長よこながの四角しかくいフレームの上部じょうぶから、飛行ひこう艇ていはゆっくりフレーム・アウトした。パドリングするふたりのサーファーが、フレームのなかに残のこった。ふたりの濡ぬれた腕うでや背中せなかが朝陽あさひを斜ななめに受うけて輝かがやいた。赤あかと白しろのサーフボードが海うみのなかに美うつくしかった。

フレーム内部ないぶの視界しかいが微妙びみょうに変化へんかした。ふたりのサーファーが小ちいさくなり、周囲しゅういの海うみが大おおきく広ひろがった。変化へんかは気きがつかないうちに起おこり、気きづいたときにはふたりのサーファーは点てんのように小ちいさく、彼かれらの行手ゆくてに高たかく盛もりあがるサーフが、フレームの前面ぜんめんに大おおきく横よこたわっていた。

きれいなサーフだ。海うみの平面へいめんに何なん本ほんもの峰みねが、横よこに長ながく盛もりあがる。沖おきから数かぞえて四よん本ほん目めの峰みねが、もっとも高たかくのびあがっていく。フレームの横幅よこはばいっぱいにのびたその峰みねは、裾すそのあたりをダーク・ブルーの影かげにひたしつつ、高たかさを増ます。太平たいへい洋ようをうねって来きた波なみが海底かいていの浅瀬あさせに乗のりあげ、エネルギーを空中くうちゅうめがけてのばしていく。

長ながく高たかい三角さんかくの峰みねに屹立きつりつした波なみは、そのもっとも高たかい頂上ちょうじょうから、白しろく崩くずれていく。一いち年ねんのうち何なん日にちかは巨大きょだいなチューブ波はとなるのだが、それ意外いがいの日々ひびにはチューブにはならず、頂上ちょうじょうから白しろく爆発ばくはつするかのように、雪崩なだれに似にた砕くだけかたをする。砕くだけつつ雪崩なだれは左ひだりへ走はしっていく。

長ながい峰みねに沿そって走はしりきり、峰みねは次第しだいに低ひくくなる。低ひくくなりきったところで、走はしって来きた雪崩なだれはせきとめられ、何なん重じゅうにも重かさなり合あう飛沫しぶきは内部ないぶからふくらみ続つづける白しろい小山こやまのようになって、そこにとどまる。

しっかりした大おおきなスロープの上うえで、うしろから追おいかけて来くる白しろい雪崩なだれと追おいつ追おわれつ滑走かっそうすると、サーファーにとってはもっとも楽たのしい。

今朝けさのサーフの出来できぐあいは完璧かんぺきだった。風かぜはオフ・ショアに変かわっていた。サーフの岸きしに面めんしたスロープをその風かぜは平たいらにならし、頂上ちょうじょうから崩くずれて来くる雪崩なだれの上層じょうそうを、純白じゅんぱくの飛沫しぶきの幕まくとして空中くうちゅうへほうりあげた。

ふたりのサーファーはそのサーフのうしろにまわった。そしておたがいのあいだに距離きょりを置おいた。場所ばしょとタイミングをずらせつつ、同時どうじにテイクオフするつもりだ。サーフが高たかく盛もりあがる周期しゅうきをふたりは待まった。白しろいボードのサーファーが、先さきにテイクオフした。

波なみの頂上ちょうじょうが雪崩なだれさながらに、スロープの上うえを裾すそへ向むけて豪快ごうかいに砕くだける。その頂上ちょうじょうからずっと右みぎに寄よった肩かたの部分ぶぶんを、サーファーは白しろいサーフボードのボトムで切きり裂さいた。波なみのパワーのすべてをボードと自分じぶんの体からだに引ひき受うけつつ、サーファーは峰みねの頂上ちょうじょうを越こえてこちら側がわのスロープへ、スピードいっぱいに飛とびこんで来きた。濡ぬれた髪かみが風かぜにあおられて逆立さかだち、頬ほおが風かぜに押おされてくぼんだ。テイクオフと同時どうじに自分じぶんから見みて右みぎへ、サーファーは方向ほうこうを変かえた。波なみのスロープを斜ななめに滑降かっこうした。

横長よこながの四角しかくい画面がめんのなかで、あらゆるものが鮮明せんめいに輝かがやいた。波なみのスロープ。サーファーの肉体にくたい。純白じゅんぱくのサーフボード。ボードのテールが波なみのスロープに刻きざみつける白しろい航跡こうせき。岸きしから吹ふいて来くる澄すみきった風かぜすら、陽光ようこうのなかをきらめいて飛とんでいるように見みえた。

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