← Library‹ 波乗りの島 シュガー・トレイン 3

シャワーを浴あびて着替きがえをした体からだに、夜よるの海風うみかぜが心地良ここちよかった。さきほどまでいたオロマナ・ビーチパークの砂浜すなはまへ、ふたたびやって来きた。暗くらい砂浜すなはまにまだ誰だれもがいた。砂浜すなはまや沖おきのサーフを見下みおろす丘おかの公園こうえんにも、人ひとは多おおいようだった。

今日きょうは第だい57番ばんサーフの最後さいごの日ひだ。朝あさ早はやくから、ハワイのサーファーたちが、オロマナの波なみに別わかれを告つげるため、ビーチパークにあらわれた。地元じもとのアマチュアも、北きた海岸かいがんのプロたちも、みんないっしょに海うみに入はいり、一いち日にちじゅうオロマナの波なみを楽たのしんだ。どのサーファーも、オロマナの波なみを相手あいてに、自分じぶんだけのライディングを披露ひろうした。陽ひが高たかいあいだの時間じかんを、僕ぼくも沖おきに出でてすごした。

オロマナ・ビーチパーク始はじまって以来いらいの人出ひとでだ。公園こうえんの駐車ちゅうしゃ場じょうは自動じどう車しゃでいっぱいになり、ひとつの波なみにとりついている数多かずおおくのサーファーを見物けんぶつしに、地元じもとの人ひとたちがさらに車くるまでたくさん来きていた。陽ひが傾かたむいてからは、お祭まつりさわぎになった。公園こうえんにいくつかあるバーベキュー・ピットで肉にくが焼やかれ、ビールが大量たいりょうに消費しょうひされた。

美人びじんコンテストがおこなわれたし、乳房ちぶさのかたちをしているオロマナ・ビーチパークの突端とったんにある、まさに乳首ちくびとしか言いいようのない岩いわの上うえに何なん人にんの人間にんげんが乗のることが出来できるかを競きそうコンテストもあった。

落日らくじつのオレンジ色いろに燃もえる海うみに入はいっていき、最後さいごの波乗なみのりを夕陽ゆうひのなかで楽たのしんだ。そしていまは夜よるだ。地元じもとの見物けんぶつ人にんたちの多おおくは帰かえってしまった。まだ砂浜すなはまや公園こうえんに残のこっている人ひとたちは、夜よるの静しずかな時間じかんのなかで、オロマナの波なみを相手あいてに自分じぶんたちが体験たいけんしたことを、語かたり合あっていた。

オロマナの波なみは、大おおきくてパワーに満みちているわりには、素直すなおだった。波なみのまったく立たたない真夏まなつのわずかな期間きかんをのぞいて、一いち年ねんじゅういつでも、ここには波なみがあった。オアフの北きた海岸かいがんがまっ平たいらなときでも、オロマナへ来くれば巨大きょだいなチューブに入はいることが出来できた。

いい波なみだった。素直すなおな波なみだから、テイクオフさえ間違まちがえなければ、すんなりと波なみに抱だきこまれることがいつだって出来できた。挑戦ちょうせんし立たち向むかう波なみ、というよりも、波なみのパワーに自分じぶんのライディングをどこまで無理むりなく調和ちょうわさせることが出来できるかを試ためすための波なみ、という感かんじが強つよかった。

そのサーフも今日きょうで終おわりだ。沖おきの海うみは明日あすから正式せいしきに立入たちいり禁止きんしとなる。去さりがたい思おもいのサーファーたちが、砂浜すなはまにひとかたまりになっていた。僕ぼくを見みつけたラリー・デイヴィスが、歩あゆみ寄よって来きた。

「なんだ、バリー。いなくなったと思おもったら、服ふくを着きて来きたのか」

「美人びじん記者きしゃとやらのインタヴューを受うけなくてはいけない」

「なるほど」

白しろいコットンのスラックスに洗あらいざらしのアロハ・シャツを着きた僕ぼくを、ラリーは眺ながめた。

「さっきまで彼女かのじょはここにいたんだがな。上うえの公園こうえんにいるんだろう」

「ほんとに美人びじんかい」

ラリーはうなずいた。

「いかにも翔とんでるという感かんじの、金髪きんぱつの美人びじんだ。ジェーン・リンドバーグというんだ。公園こうえんへいってみな」

僕ぼくは公園こうえんの丘おかへ歩あるいていった。ここにもサーファーたちがいた。いくつかのグループに分わかれ、談笑だんしょうしていた。

ジェーン・リンドバーグはすぐに見みつかった。というよりも、彼女かのじょのほうから僕ぼくを見みつけてくれた。敏腕びんわんなジャーナリストらしく、インタヴューの相手あいてである僕ぼくを、初はつ対面たいめんなのに鋭するどく嗅かぎつけ、華はなやかな微笑びしょうと自信じしんに満みちた身みのこなしを武器ぶきに、僕ぼくに歩あゆみ寄よった。

「バリー・カネシロさん」

「そうです」

「楽たのしみにしてました」

首くびを片方かたほうにかしげ、ジェーンは訓練くんれんしつくしてすでに完璧かんぺきの域いきに達たっしている微笑びしょうを、惜おしげもなく見みせた。

「あなたから素敵すてきなお話はなしが聞きけるって、デイヴィスさんがおっしゃってたから」

「説明せつめい役やくはいつでも僕ぼくにまわって来くるのです」

「頭脳ずのう明晰めいせきな人ひとの運命うんめいなのよ」

「きっとね」

月つきの明あかりを受うけて、彼女かのじょの金髪きんぱつが青あおく輝かがやいた。

ジェーン・リンドバーグは、アメリカ西にし海岸かいがんの新聞しんぶんに記事きじを書かいている記者きしゃだ。友人ゆうじんであるラリー・デイヴィスから、永久えいきゅうに消きえてなくなる第だい57番ばんサーフについて聞きかされて興味きょうみを持もち、記事きじにするためハワイへ取材しゅざいに来きた。サーフが消きえるにいたるまでの基本きほん的てきないきさつを説明せつめいし、さらに深ふかく細こまかな取材しゅざいの手てがかりを与あたえる役やくが、僕ぼくに振ふり当あてられた。

「なにか飲のみますか」

「いただいたわ」

「もっと飲のめば」

ジェーンは首くびを振ふった。

「体重たいじゅうに気きをつけなくてはいけないから」

Tシャツの下もとで平ひらたくひき締しまっている腹はらを、彼女かのじょは軽かるく叩たたいた。体重たいじゅうの心配しんぱいなどまったくない、ほっそりしたきれいなプロポーションの体からだだった。その体からだに相手あいての視線しせんを導みちびくために、体重たいじゅうが心配しんぱいなどと彼女かのじょは言ゆう。

「話はなしをしましょうか」

「そうね」

金髪きんぱつを風かぜになびかせ、彼女かのじょは夜よるの海うみを見渡みわたした。そして僕ぼくに顔かおを向むけ、

「海沿うみぞいのハイウエイをドライヴしたら素敵すてきだろうなと考かんがえてたとこなの」

と言いった。

「では、そうしましょう」

僕ぼくたちは丘おかの下したの駐車ちゅうしゃ場じょうに降おりた。

車くるまの列れつに入はいって立たちどまり、ジェーンは一いち台だいを指ゆびさして言いった。

「この島しまの友人ゆうじんが、こんな怪物かいぶつを貸かしてくれたのよ」

一いち九きゅう五ご〇れい年ねん代だいなかばの、フォード・サンダーバードのオープンだった。ていねいに細部さいぶまでレストアされ、真紅しんくの塗装とそうをほどこされた大おおきな車体しゃたいは、青あおい月光げっこうのなかで濡ぬれたように輝かがやいていた。

「夜よるの海辺うみべのドライヴには、快適かいてきかもしれないわ」

僕ぼくが運転うんてんを引ひき受うけなくてはならなかった。こんな大おおきな自動じどう車しゃは、扱あつかいにくくて持もてあます。車くるまの混こんだ駐車ちゅうしゃ場じょうをリヴァース・ギアで出でていき、外そとの道路どうろでもしばらくそのままリヴァースで走はしった。そしてUターンした。

隣となりの席せきに、ジェーンは居心地いごこち良よくポーズをきめていた。Tシャツの下もとで胸むねの隆起りゅうきが丸まるく張はっている。その丸まるい張はりぐあいを、月明つきあかりのなかに強調きょうちょうさせずにはおかないポーズだった。

「オイル・パンからオイルがもれてるんじゃないかと思おもうの」

ジェーンが言いった。

「夕方ゆうがた、蒸気じょうき機関きかん車しゃを見みにいったとき、オイル・パンを強つよくぶつけたから」

海沿うみぞいのアイランド・ハイウエイを北きたに向むかってゆっくり走はしりながら、第だい57番ばんサーフが消きえるにいたるまでのいきさつを、順序じゅんじょ立たてて僕ぼくはジェーンに語かたった。

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