← Library‹ 波乗りの島 シュガー・トレイン 4

モノクロームのフィルムはセピア色いろに変色へんしょくしていた。スクリーンに映うつった小ちいさな四角しかくいセピア色いろの世界せかいに、映写えいしゃ機きのハロゲン・ランプは、昔むかしの快晴かいせいの日ひの、明あかるい陽ひざしをよみがえらせていた。

双発そうはつのDC―3が、その明あかるい陽ひざしのなかに登場とうじょうした。脚あしを出だし、着陸ちゃくりく態勢たいせいに入はいって機首きしゅを下さげていた。全員ぜんいんが声こえをあげ、拍手はくしゅした。昔むかしを感かんじさせるずんぐりした胴体どうたいに、左右さゆう一いち基きずつエンジンのついた、いかにもバランスのよさそうな主翼しゅよくには、誰だれもが懐なつかしさを禁きんじ得えなかった。

DC―3は着陸ちゃくりくした。十じゅう八はち年ねん前まえのハワイ島とうヒロ空港くうこうだ。現在げんざいとの違ちがいに、ふたたび全員ぜんいんが歓声かんせいをあげた。カットが変かわった。

DC―3の主翼しゅよくのうしろにドアがある。そのドアが外そとに開ひらき、タラップから人ひとが降おりていた。小ちいさな女おんなのこが、ドア口くちに立たった。そして片手かたてを振ふった。

「ジェニファー。これが、きみかい」

エドウィン・ナカムラという、僕ぼくたちの波乗なみのり仲間なかまが訊きいた。

「そうよ」

うしろの席せきからジェニファーが答こたえた。

ジェニファーがタラップを降おりて来きた。五ご歳さいのジェニファーだ。すぐうしろに彼女かのじょの母親ははおやがいた。母親ははおやといっしょのジェニファーは、数すう人にんの出迎でむかえを受うけた。おたがいに抱だき合あい、頬ほおに接吻せっぷんを交かわし、レイをかけあった。幼おさないジェニファーの首くびには三さん本ほんのレイがかけられた。幼おさない彼女かのじょの顎あごが花はなのなかに埋うまった。

8ミリのホーム・ムーヴィは16ミリにブロー・アップされた。セピア色いろの世界せかいが大おおきく粒子りゅうし荒あれしていた。スクリーンによみがえっているこの遠とおい日ひの陽ひざしの明あかるさもまた、拡大かくだいされていた。昔むかしのホーム・ムーヴィを映写えいしゃすると常つねにかもし出だされるせつなさが、いまスクリーンいっぱいにあった。

五ご歳さいのジェニファーを、カメラはアップでとらえていた。ふと、彼女かのじょはカメラを見みた。そして、人ひと見知みしりして恥はずかしがったような表情ひょうじょうとともに、かわいらしく微笑びしょうした。スクリーンを見みているみんなが、喜よろこんで手てを叩たたいた。

ジェニファーは歩あるき始はじめた。カメラがその彼女かのじょを横よこから追おった。そしてストップ・モーションになり、「ジェニファー・マッキノン 五ご歳さい」と、字幕じまくが出でた。カットが変かわった。

いきなり、まっ青さおな空そらとダーク・ブルーの海うみ、白しろい波なみ、そして波打なみうちぎわの黄金色こがねいろに輝かがやく砂浜すなはまが、スクリーンいっぱいに映うつし出だされた。

粒子りゅうしの荒あれたセピア色いろの画面がめんから一転いってんしてこうなると、非常ひじょうに効果こうか的てきだった。カメラはパン・ダウンした。波打なみうちぎわからこちらに向むかって歩あるいて来くるひとりの若わかい女性じょせいが、スクリーンの中央ちゅうおうにとらえてあった。陽焼ひやけした、姿すがたの美うつくしい女性じょせいだ。黒くろい髪かみが風かぜになびいた。

カメラに向むかって接近せっきんすると、その女性じょせいはジェニファーだということがわかった。ビキニを身みにつけている。レインボー・カラーの、ニットのビキニだ。覆おおいかくす面積めんせきを極端きょくたんに小ちいさくしたビキニだ。胸むねの豊ゆたかさや腰こしの張はりが、いやがうえにも強調きょうちょうされていた。

強調きょうちょうするに足たるだけの美うつくしさを持もった体からだだ。ジェニファーはなおもカメラに向むかって歩あるいて来きた。腰こしから上うえがスクリーンいっぱいにアップになったとき、ふたたび彼女かのじょの名前なまえが白抜しろぬきの字幕じまくで出でた。男おとこたちが口笛くちぶえを吹ふき、手てを叩たたいて歓声かんせいをあげた。

海岸かいがんからあがって来きた土手どての上うえに、松まつの樹きが生はえている。その松まつの樹陰じゅいんにジェニファーは立たった。カメラに顔かおを向むけて微笑びしょうし、喋しゃべり始はじめた。

「最初さいしょに見みていただいたのは五ご歳さいのときの私わたくしで、ホノルルから初はじめてハワイ島とうのヒロ空港くうこうに降おり立たったときの情景じょうけいでした。いまもこうして、私わたくしはハワイ島とうにいます。十じゅう八はち年ねん前まえに初はじめて知しったハワイ島とうは、五ご歳さいの私わたくしにとってはオアフの田舎いなかと変かわりなかったのですが、いまの私わたくしにとってハワイ島とうは、いろんな意味いみを持もっています。ハワイ島とうでのさまざまな出来事できごとや体験たいけんのなかから、ぜひともみなさんにお伝つたえしたいことを、これから私わたくしの映画えいがで見みていただきます。楽たのしんでいただけることを期待きたいします」

拍手はくしゅがおこった。カットが変かわった。スクリーンいっぱいに、青空あおぞらだった。左端ひだりはしのほうに、白しろく輝かがやく雲くもが見みえた。四角しかくいフレームの上部じょうぶから斜ななめに、銀色ぎんいろの飛行ひこう艇ていが一いち機き、入はいりこんで来きた。やがて方向ほうこうを変かえたその飛行ひこう艇ていは、カメラに向むかって、青あおい空そらからまっすぐに飛とんで来きた。

オロマナ・ビーチパークで、六ろくか月げつ前まえ、僕ぼくとジェニファーがいっしょに撮影さつえいしたシークエンスだ。飛行ひこう艇ていは美うつくしく着水ちゃくすいし、プロペラが止とまり、ふたりのサーファーが彼かれらのサーフボードに続つづいて、飛行ひこう艇ていから海うみへ飛とびこんだ。ラリー・デイヴィスとクレイトン・カウアだ。

あの日ひ、僕ぼくたちが16ミリのムーヴィ・カメラのレンズ越ごしに見みたふたりの波乗なみのりが、オロマナの第だい57番ばんサーフとともに、そのままスクリーンの上うえに再現さいげんされた。誰だれもが歓声かんせいをあげた。この第だい57番ばんサーフも、いまは存在そんざいしない。

波乗なみのりを終おえたふたりのサーファーは、砂浜すなはまに向むかって来くる。波打なみうちぎわを砂浜すなはまにあがり、それぞれサーフボードをわきにかかえ、濡ぬれた体からだを光ひからせながら、カメラに向むかって歩あるいて来くる。

歩あるいて来くるふたりの体からだがぼやけてスクリーンいっぱいに広ひろがり、『第だい57番ばんサーフ最後さいごの日々ひび』と、タイトルが出でた。きれいなタイトルだった。全員ぜんいんが盛大せいだいな拍手はくしゅをした。滑なめらかな美うつくしい運はこびのなかに、快適かいてきなテンポが脈動みゃくどうしている映画えいがだということは、ここまで見みただけで充分じゅうぶんにわかった。

ジェニファーはついに我慢がまん出来できなくなった。自分じぶんが作つくっている16ミリの記録きろく映画えいが『第だい57番ばんサーフ最後さいごの日々ひび』が九十きゅうじゅうパーセント完成かんせいしたところで、仲間なかまたちを集あつめた完成かんせい寸前すんぜんの試写ししゃを、いまおこなっている。

これから撮影さつえいしてつけ加くわえる最後さいごの部分ぶぶんをのぞいて、全ぜん篇へんのエディティングは完成かんせいしている。音楽おんがく以外いがいの音おとも入はいった。音入おといれをおこなっているスタジオの映写えいしゃ室しつで、僕ぼくたちはこうしてジェニファーの映画えいがを見みている。

第だい57番ばんサーフが消きえるにいたるまでの事実じじつ経過けいかを、けっして退屈たいくつにはならない画面がめんの連続れんぞくのなかに、ジェニファーは非常ひじょうに要領ようりょうよく的確てきかくに説明せつめいした。発電はつでん所しょの冷却れいきゃく排水はいすい管かんのことから始はじまって、抵抗ていこう運動うんどう、電力でんりょく会社かいしゃによる詐欺さぎ的てきな妥協だきょう案あんとその発覚はっかく、コンクリートの人工じんこう海底かいてい、抵抗ていこう運動うんどうの分裂ぶんれつ、そして昔むかしの蒸気じょうき機関きかん車しゃの復活ふっかつにいたるまでが、面白おもしろく画面がめんに展開てんかいした。

Click a word · hold for the whole sentence 0%