← Library‹ 波乗りの島 アロハ・オエ 3

双発そうはつのアイランダーは、昼間ひるまに見みると美うつくしく可愛かわいい。胴体どうたいや翼つばさの上うえ半分はんぶんは燃もえ立たつようなまっ赤かだ。そして下した半分はんぶんは銀色ぎんいろ。海上かいじょうを低ひくく飛とぶときには、海面かいめんを機体きたいの影かげが走はしる。僕ぼくのほかにはプロ・ゴルファーが六ろく人にん、乗のっていた。ひとりは女性じょせいだ。夜間やかん飛行ひこうのアイランダーは強つよく揺ゆれた。機体きたいが強風きょうふうにあおられてきしんだ。

「砂糖さとうキビ畑ばたけの上うえに不時ふじ着ちゃくすれば、怪我けがはしませんよ。キビの林はやしが、このくらいの機体きたいなら支ささえてくれるから」

パイロットがそんな冗談じょうだんを言いった。

カアナパリの小ちいさな滑走かっそう路ろに、アイランダーは着陸ちゃくりくした。空港くうこうオフィスにディーン・ワイアウが迎むかえに来きてくれていた。ディーンたちがオロワルに借かりている家いえへ、車くるまで向むかった。白しろいボディが赤錆あかさびだらけになった、クライスラーのハードトップだ。平坦へいたんな路面ろめんの上うえでも、その車くるまは常つねに左ひだりに大おおきく傾かたむいて走はしった。

「ジェニファーは元気げんきかい」

ディーンが訊きいた。

「空港くうこうに出迎でむかえてキッスしたら、ロサンゼルスのスモッグの香かおりがした」

僕ぼくたちの古ふるいジョークだ。いまではワイキキから来きた僕ぼくも、排気はいきガスの臭においがするはずだ。

ディーンたちの家いえは海うみのすぐ近ちかくだった。ビーチパークに寄よせる波なみの音おとは、次第しだいに強つよさを増ましていく風かぜのなかで、椰子やしの葉はの音おとにかき消けされていた。白しろくペンキを塗ぬった板張いたばりの部屋へやで、僕ぼくとディーンは話はなしをした。ラリー・デイヴィスといっしょに来きたハリウッドの連中れんちゅうのことを、僕ぼくはディーンに聞きかせた。カーペットを敷しいたフロアにディーンはすわり、僕ぼくは壁かべぎわのソファに横よこたわった。

「僕ぼくたちの運動うんどうが、思おもわしくない」

ディーンが重おもく言いった。顔かおの下もと半分はんぶんが、濃こいひげに覆おおわれていた。細こまかくカールした髪かみが、長ながくのび始はじめている。

「アメリカ海軍かいぐんも海兵かいへい隊たいも、あの島しまを手放てばなすつもりはまったくない。役所やくしょのいろんな部署ぶしょや外郭がいかくの団体だんたいが、僕ぼくたちの運動うんどうの敵てきにまわりつつある」

「新聞しんぶんで読よんで知しっている」

「新聞しんぶんに出でるのは、おもてむきのほんの一いち部分ぶぶんだ。それに、この運動うんどうに関かんして、地元じもとの新聞しんぶんは論調ろんちょうを変かえつつある」

ディーンは、プロテクト・カフーラウェ・オハナ、という運動うんどうに深ふかくかかわっている。マウイ島とうの西側にしがわ、たとえばラハイナから海うみのほうを見渡みわたせば、北きたから南みなみへ順じゅんに、モロカイ島とう、ラナイ島しま、そして、カフーラウェ島しまが、いずれも海うみの向むこう、さほど遠とおくないところに見みえる。

カフーラウェ島しまがいちばん小ちいさい。島しまの中心ちゅうしんとなる山やま、ルア・マキカが標高ひょうこう千せん五百ごひゃくフィート足たらずだから、赤茶あかちゃけた平ひらたい島しまに見みえる。この島しまの上空じょうくうに雲くもがあるのを、僕ぼくは一いち度ども見みたことがない。

このカフーラウェ島しまは、昔むかしは個人こじんの所有しょゆう地ちだった。かつては牧場ぼくじょうが経営けいえいされていたこともあったが、島しまの土地とちそのものの性質せいしつや気候きこうが不利ふりで、牧場ぼくじょうは失敗しっぱいした。やがてアメリカ軍ぐんの管理かんり下かになり、いまでは無人むじん島とうだ。島しまにはなにもない。民間みんかん人にんの立入たちいりや接近せっきんは厳禁げんきんされている。無断むだんで島しまに渡わたると不法ふほう侵入しんにゅう罪ざいに問とわれる。島とうじたい、非常ひじょうに危険きけんだ。全島ぜんとうが海軍かいぐんや海兵かいへい隊たいの爆撃ばくげき演習えんしゅうの標的ひょうてきとして使用しようされていて、不発ふはつの模擬もぎ爆弾ばくだんが陸りくといわず周辺しゅうへんの海うみといわず、ごろごろしている。

この島しまをハワイ人にんたちの手てにとり戻もどそうという運動うんどうが、プロテクト・カフーラウェ・オハナだ。中心ちゅうしんとなる何なん人にんかのリーダーのひとりが、サーファーのディーン・ワイアウだ。大学だいがくで彼かれは精神せいしん障害しょうがい児童じどうの心理しんり指導しどうを勉強べんきょうしている。

ディーンがこの運動うんどうにことのほか熱心ねっしんなのは、ディーンの遠とおい祖先そせんがカフーラウェ島しまの出身しゅっしんだからだ。この島しまは重要じゅうような宗教しゅうきょう儀式ぎしきのおこなわれた神聖しんせいな島しまでもある。運動うんどうに対たいする賛同さんどう者しゃは多おおいのだが、暗礁あんしょうに乗のりあげた感かんじがある。アメリカ軍ぐんがこの島しまを手放てばなさないことが、誰だれの目めにもはっきりしてきたからだ。

爆撃ばくげき演習えんしゅうの標的ひょうてきとして、あらゆる条件じょうけんが整ととのいすぎている。気象きしょうは良よく、いつも雲くもがない。乱らん気流きりゅうもないし、人口じんこう密集みっしゅう地ちから離はなれた海うみの上うえなので、騒音そうおんの心配しんぱいもない。爆弾ばくだんの誤ご投下とうかの危険きけんもゼロだ。それに、ハワイに集結しゅうけつしている軍事ぐんじ施設しせつから、至近しきん距離きょりにある。

「島しまを占拠せんきょしようと思おもう」

「占拠せんきょ?」

「無断むだんで島しまに渡わたり、ストライキのようなデモンストレーションをおこなう。それに、カフナ(僧侶そうりょ)を呼よんで来きて、宗教しゅうきょう儀式ぎしきも」

「よく考かんがえた行動こうどうなのか」

「これしかない」

「僕ぼくは支持しじする」

「ありがとう、バリー」

風かぜはいちだんと強つよくなっていた。フロアにすわっているディーンの、ハワイ系けいのたくましい顔かおに影かげが濃こかった。

あくる朝あさ、夜明よあけが来きてすぐに、僕ぼくは叩たたき起おこされた。

「バリー、起おきてちょうだい、バリー!」

と、僕ぼくの肩かたをつかんで揺ゆする人ひとがいた。

ソファの上うえに、僕ぼくは体からだを起おこした。ジェーンが不安ふあんそうに体からだを寄よせた。

「なにかたいへんなことが起おこったのよ。バリー、どうしよう」

ジェーンは僕ぼくの手てをとった。外そとは雨嵐あめあらしだった。風かぜに吹ふきちぎられそうになっている椰子やしの葉はの音おとに、家いえの板壁いたかべを叩たたきまくる大粒おおつぶの雨あめの音おとが、分厚ぶあつく重かさなっていた。

「バリー」

「どうしたんだ」

ジェーンはディーンたちの運動うんどうの広報こうほう関係かんけいの責任せきにん者しゃだ。赤あかく陽焼ひやけした顔かおにそばかすが一面いちめんに散ちっている。

「ディーンとロジャーが、どこにもいないの」

「仕事しごとに出でたんだろう」

「たったいま、警察けいさつから電話でんわがあったわ」

「警察けいさつ?」

「ディーンとロジャーのふたりが、サーフボードをかかえて海うみのほうへ歩あるいていくのを見みた人ひとがいるの。びしょ濡ぬれになって、風かぜによろめきながら、ハイウエイを裸足はだしで歩あるいていったって言いうの。車くるまでとおりかかった人ひとが見みたのよ。車くるまから声こえをかけたら、ディーンが振ふり向むいて手てを振ふって、そのまま海うみのほうへいってしまったって。その人ひとが警察けいさつに通報つうほうし、警察けいさつからここに電話でんわがあったの」

「ディーン!」

ソファを飛とび降おり、僕ぼくは大声おおごえで叫さけんだ。いきなり不安ふあん感かんにとりつかれたのだ。理由りゆうはない。両脚りょうあしから力ちからが抜ぬけて軽かるく、心臓しんぞうが喉のどもとで鼓動こどうした。

いくつかあるほかの部屋へやに走はしった。どの部屋へやも、からっぽだった。ジェーンがついて来きた。

「どこにもいないのよ。私わたくしも探さがしたの」

「サーフボードは?」

「ディーンが赤あか、ロジャーが黄色きいろ。ディーンのは、おもてにDEANと名前なまえが入はいってる。目撃もくげき者しゃの証言しょうげん」

サーフボードを置おいておく部屋へやに、僕ぼくは走はしった。ふたりのサーフボードは、なかった。

「いっしょに来きてくれ」

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