← Library‹ 少年探偵団 天井の声

もうこれで安心あんしんです。たとえ二十にじゅう面相めんそうが予告よこくどおりにやってきたとしても、黄金おうごん塔とうはまったく安全あんぜんなのです。賊ぞくはとくいそうににせものをぬすみだしていくことでしょう。あの大だい泥棒どろぼうをいっぱい食くわせてやるなんて、じつにゆかいではありませんか。

賊ぞくが床下ゆかしたなどに気きのつくはずはありませんが、でも、用心ようじんにこしたことはありません。大鳥おおとり氏しはその晩ばんから、ほんものの黄金おうごん塔とうのうずめてあるあたりの畳たたみの上うえに、ふとんをしかせてねむることにしました。昼間ひるまも、その部屋へやから一いち歩ほも外そとへ出でない決心けっしんです。

すると、みょうなことに「3」の字じがてのひらにあらわれて以来いらい、数字すうじの予告よこくがパッタリととだえてしまいました。ほんとうは、それには深ふかいわけがあったのですけれど、大鳥おおとり氏しはそこまで気きがつきません。ただふしぎに思おもうばかりです。

しかし、数字すうじはあらわれないでも、盗難とうなんは二十にじゅう五ご日にちの夜よるとはっきり言いいわたされているのですから、けっして安心あんしんはできません。大鳥おおとり氏しはそのあとの三み日間かかんを、塔とうのうずめてある部屋へやにがんばりつづけました。

そして、とうとう二十にじゅう五ご日にちの夜よるがきたのです。

もう宵よいのうちから、大鳥おおとり氏しと門野もんの支配しはい人にんは、にせ黄金おうごん塔とうをかざった座敷ざしきにすわりこんで、出入でいり口くちの板戸いたどには中なかからかぎをかけてゆだんなく見張みはりをつづけていました。

店みせのほうでも、店員てんいん一同いちどう、今夜こんやこそ二十にじゅう面相めんそうがやってくるのだと、いつもより早はやく店みせをしめてしまって、入いり口ぐちという入いり口ぐちにすっかりかぎをかけ、それぞれ持もち場ばをきめて、見みはり番ばんをするやら、こん棒ぼう片手かたてに家中かちゅうを巡回じゅんかいするやら、たいへんなさわぎでした。

いかな魔法まほう使つかいの二十にじゅう面相めんそうでも、このような二に重じゅう三さん重じゅうの、げんじゅうな警戒けいかいの中なかへ、どうしてはいってくることができましょう。彼かれはこんどこそ失敗しっぱいするにちがいありません。もし、この中なかへしのびこんで、にせ黄金おうごん塔とうにもまよわされず、ほんものの宝物たからものをぬすむことができるとすれば、二十にじゅう面相めんそうは、もう魔法まほう使つかいどころではありません。神かみさまです。盗賊とうぞくの神かみさまです。

警戒けいかいのうちに、だんだん夜よるがふけていきました。十じゅう時じ、十じゅう一いち時じ、十じゅう二に時じ。表通おもてどおりのざわめきも聞きこえなくなり、家いえの中なかもシーンと静しずまりかえってきました。ただ、ときどき、巡回じゅんかいする店員てんいんの足音あしおとが、廊下ろうかにシトシトと聞きこえるばかりです。

奥おくの間あいだでは、大鳥おおとり氏しと門野もんの支配しはい人にんが、さし向むかいにすわって、置おき時計とけいとにらめっこをしていました。

「門野もんの君くん、ちょうど十じゅう二に時じだよ。ハハハ……、とうとうやっこさんやってこなかったね。十じゅう二に時じがすぎれば、もう二十にじゅう六ろく日にちだからね。約束やくそくの期限きげんが切きれるじゃないか。ハハハ……。」

大鳥おおとり氏しはやっと胸むねをなでおろして、笑わらい声ごえをたてるのでした。

「さようでございますね。さすがの二十にじゅう面相めんそうも、このげんじゅうな見みはりには、かなわなかったとみえますね。ハハハ……、いいきみでございますよ。」

門野もんの支配しはい人にんも、怪盗かいとうをあざけるように笑わらいました。

ところが、ふたりの笑わらい声ごえの消きえるか消きえないかに、とつじょとして、どこからともなく、異様いようなしわがれ声こえがひびいてきたではありませんか。

「おい、おい、まだ安心あんしんするのは早はやいぜ。二十にじゅう面相めんそうの字引じびきには、不ふ可能かのうということばがないのをわすれたかね。」

それはじつになんともいえない陰気いんきな、まるで墓場はかばの中なかからでもひびいてくるような、いやあな感かんじの声こえでした。

「おい、門野もんの君くん、きみいま何なんか言いいやしなかったかい。」

大鳥おおとり氏しはギョッとしたように、あたりを見みまわしながら、しらがの支配しはい人にんにたずねるのでした。

「いいえ、私わたくしじゃございません。しかし、なんだかへんな声こえが聞きこえたようでございますね。」

門野もんの老人ろうじんは、けげんな声こえで、同おなじように左右さゆうを見みまわしました。

「おい、へんだぜ。ゆだんしちゃいけないぜ。きみ、廊下ろうかを見みてごらん。戸との外そとにだれかいるんじゃないかい。」

大鳥おおとり氏しは、もうすっかり青あおざめて、歯はの根ねもあわぬありさまです。

門野もんの支配しはい人にんは、主人しゅじんよりもいくらか勇気ゆうきがあるとみえ、さしておそれるようすもなく、立たっていって、かぎで戸とをひらき、外そとの廊下ろうかを見みわたしました。

「だれもいやしません。おかしいですね。」

老人ろうじんがそういって、戸とをしめようとすると、またしても、どこからともなく、あのしわがれ声こえが聞きこえてきました。

「なにをキョロキョロしているんだ、ここだよ。ここだよ。」

陰かげにこもって、まるで水みずの中なかからでも、ものをいっているような感かんじです。何なんかしらゾーッと総毛そうけ立たつような、お化ばけじみた声音こわねです。

「やい、きさまはどこにいるんだ。いったい何者なにものだッ。ここへ出でてくるがいいじゃないか。」

門野もんの老人ろうじんが、から元気げんきをだして、どことも知しれぬ相手あいてにどなりつけました。

「ウフフ……、どこにいると思おもうね。あててみたまえ……。だが、そんなことよりも、黄金おうごん塔とうは大だいじょうぶなのかね。二十にじゅう面相めんそうは約束やくそくをたがえたりはしないはずだぜ。」

「何なんをいっているんだ。黄金おうごん塔とうはちゃんと床とこの間まにかざってあるじゃないか。盗賊とうぞくなんかに指ゆび一いち本ほんささせるものか。」

門野もんの老人ろうじんは部屋へやの中なかをむやみに歩あるきまわりながら、姿すがたのない敵てきとわたりあいました。

「ウフフフ……、おい、おい、番頭ばんとうさん、きみは二十にじゅう面相めんそうが、それほどお人ひとよしだと思おもっているのかい。床とこの間まのはにせもので、ほんものは土つちの中なかにうめてあることぐらい、おれが知しらないとでもいうのかい。」

それを聞きくと、大鳥おおとり氏しと支配しはい人にんとは、ゾッとして顔かおを見みあわせました。ああ、怪盗かいとうは秘密ひみつを知しっていたのです。門野もんの老人ろうじんのせっかくの苦心くしんはなんの役やくにも立たたなかったのです。

「おい、あの声こえは、どうやら天井てんじょう裏うららしいぜ。」

大鳥おおとり氏しはふと気きがついたように、支配しはい人にんの腕うでをつかんで、ヒソヒソとささやきました。

いかにも、そういえば、声こえは天井てんじょうの方角ほうがくからひびいてくるようです。天井てんじょうででもなければ、ほかに人間にんげんひとりかくれる場所ばしょなんて、どこにもないのです。

「はあ、そうかもしれません。この天井てんじょうの上うえに、二十にじゅう面相めんそうのやつがかくれているのかもしれません。」

支配しはい人にんは、じっと天井てんじょうを見みあげて、ささやきかえしました。

「早はやく、店みせの者ものを呼よんでください。そしてかまわないから、天井てんじょう板いたをはがして、泥棒どろぼうをつかまえるようにいいつけてください。さ、早はやく、早はやく。」

Click a word · hold for the whole sentence 0%