← Library‹ 少年探偵団 きみが二十面相だ!

大鳥おおとり氏しはびっくりして、キョロキョロと部屋へやの中なかを見みまわしました。しかし、賊ぞくの姿すがたなどどこにも見みあたりません。

「ハハハ……、ごじょうだんを。ここにはわしたち四よん人にんのほかには、だれもいないじゃありませんか。」

いかにも、戸とをしめきった十じゅう畳じょうの座敷ざしきには、主人しゅじんの大鳥おおとり氏しと、老ろう支配しはい人にんの門野もんのと明智あけち探偵たんていと小林こばやし少年しょうねんの四よん人にんのほかには、だれもいないのです。いったい明智あけちは何なんをいっているのでしょう。頭あたまがどうかしているのではないでしょうか。

「そうです。ここには、われわれ四よん人にんだけです。しかし、二十にじゅう面相めんそうはやっぱりこの部屋へやにいるのです。」

「先生せんせい、あなたのおことばは、わたくしどもにはさっぱりわけがわかりません。もっとくわしくおっしゃっていただけませんでございましょうか。」

しらがの老ろう支配しはい人にんは、オドオドしながら、探偵たんていにたずねました。

「ほう、あなたにもまだわからないのですか。で、あなたは二十にじゅう面相めんそうがどこにいるか、ききたいとおっしゃるのですね。それを言いってもいいですか。」

明智あけちは老ろう支配しはい人にんの顔かおをじっと見みつめてから、意味いみありげにいいました。

「エッ、なんとおっしゃいます?」

門野もんの老人ろうじんは、なぜかギョッとしたように探偵たんていを見みかえしました。

「だれが二十にじゅう面相めんそうだか、すっぱぬいてもかまわないというのですか。」

明智あけちの目めに、電光でんこうのようなはげしい光ひかりがかがやき、グッと相手あいてをにらみつけました。老ろう支配しはい人にんはその眼光がんこうに射いすくめられでもしたように、返かえすことばもなく、思おもわず目めを伏ふせました。

「ハハハ……、おい、二十にじゅう面相めんそう、よくも化ばけたねえ。まるで六十ろくじゅうの老人ろうじんそっくりじゃないか。だが、ぼくの目めをごまかすことはできない。きみだ! きみが二十にじゅう面相めんそうだ!」

「と、とんでもない。そ、そんなばかなことが……。」

門野もんの支配しはい人にんはまっさおになって、弁解べんかいしようとしました。

主人しゅじんの大鳥おおとり氏しも、それにことばをそえます。

「明智あけち先生せんせい、それは何なんかのお思おもいちがいでしょう。この門野もんのは親おやの代だいからわしの店みせにつとめている律義者りちぎものです。この男おとこが二十にじゅう面相めんそうだなんて、そんなはずはございません。」

「いや、あなたは、二十にじゅう面相めんそうが変装へんそうの大名だいみょう人にんであることを、おわすれになっているのです。なるほど、ほんとうの門野もんの君くんは律義りちぎな番頭ばんとうさんでしょう。しかし、この男おとこは門野もんの君くんではありません。あの予告よこくがあってからまもなく、二十にじゅう面相めんそうはほんとうの門野もんの君くんをある場所ばしょに監禁かんきんして、自分じぶんが門野もんの君くんに化ばけすまし、お店みせに出勤しゅっきんしていたのです。

いや、お店みせに出勤しゅっきんしていたばかりではありません。門野もんの君くんの自宅じたくへも、ずうずうしく毎晩まいばん帰かえっていた。家族かぞくの人ひとたちでさえ、それを少すこしも気きづかなかったのです。」

ああ、そんなことがありうるのでしょうか。今いま、目めの前まえに立たっている老人ろうじんは、どう見みても門野もんの支配しはい人にんとそっくりです。どこに一ひとつ、あやしい個所かしょはありません。いったい、それほどたくみな変装へんそうができるものでしょうか。

一同いちどうがあっけにとられて、明智あけち探偵たんていの顔かおを見みつめている、ちょうどそのときでした。ああ、またしても、どこからともなく、あのおそろしい声こえが聞きこえてきたではありませんか。

「フフフ……、明智あけち先生せんせいも老おいぼれたもんだねえ。二十にじゅう面相めんそうをとりにがした苦くるしまぎれに、何なんも知しらない老人ろうじんに罪つみを着きせようなんて……。おい、先生せんせい、目めをあけて、よく見みるがよい。おれはここにいるんだぜ。二十にじゅう面相めんそうはここにいるんだぜ。」

ああ、なんという大胆だいたん不敵ふてき、賊ぞくはまだこの部屋へやのどこかにかくれているのでしょうか。

「先生せんせい、あれです。あれが二十にじゅう面相めんそうです。やっぱり天井てんじょうから聞きこえてくる。ね、おわかりでしょう。門野もんの君くんじゃございません。門野もんの君くんは二十にじゅう面相めんそうじゃございません。」

大鳥おおとり氏しは、恐怖きょうふにたえぬもののように、ソッと天井てんじょうを指ゆびさしながら、ささやくのでした。

しかし、明智あけち探偵たんていは少すこしもさわぎません。口くちをつぐんだまま、じっと大鳥おおとり氏しを見みかえしています。

と、とつじょとして、どこからともなく、まったく別べつの声こえがひびいてきました。

「おいおい、子こどもだましはよしたまえ。

ぼくが腹話ふくわ術じゅつを知しらないとでも思おもっているのか。ハハハ……。」

大鳥おおとり氏しはそれを聞きいて、ゾッとふるえあがってしまいました。ああ、なんというふしぎなことでしょう。それはまぎれもなく明智あけち探偵たんていの声こえでした。天井てんじょうから明智あけちの声こえがひびいてきたのです。しかも、当とうの探偵たんていは目めの前まえに、じっと口くちをつぐんですわっています。まるで魔法まほう使つかいです。明智あけち探偵たんていが、とつじょとしてふたりになったとしか考かんがえられないのです。

「おわかりになりましたか、ご主人しゅじん。これが腹話ふくわ術じゅつというものです。口くちを少すこしも動うごかさないでものをいう術じゅつです。今いまのようにぼくがこうして口くちをふさいでものをいうと、まるでちがった方角ほうがくからのように聞きこえてくるのです。天井てんじょうと思おもえば天井てんじょうのようでもあり、床下ゆかしたと思おもえば床下ゆかしたからのようにも聞きこえます。おわかりになりましたか。」

今いまこそ、大鳥おおとり氏しにもいっさいが明白めいはくになりました。腹話ふくわ術じゅつというものがあることは、大鳥おおとり氏しも話はなしに聞きいていました。さいぜんからの声こえが、みんな腹話ふくわ術じゅつであったとすれば、すっかりつじつまがあるのです。天井てんじょうや床下ゆかしたなどをあれほどさがしても、二十にじゅう面相めんそうの姿すがたが発見はっけんされなかったわけが、よくわかるのです。それでは、やっぱり二十にじゅう面相めんそうは門野もんの老人ろうじんに化ばけているのでしょうか。

大鳥おおとり氏しはまだ半信はんしん半疑はんぎのまなざしで、じっと門野もんの老人ろうじんを見みつめました。門野もんの老人ろうじんはまっさおになっています。しかし、まだへこたれたようすは見みえません。顔かおいっぱいにみょうなにが笑わらいをうかべて、何なんかいいだしました。

「腹話ふくわ術じゅつですって、おお、どうしてわたくしが、そんな魔法まほうをぞんじておりましょう。明智あけち先生せんせい、あんまりでございます。このわたくしがおそろしい二十にじゅう面相めんそうの賊ぞくだなんて、まったく思おもいもよらぬ、ぬれぎぬでございます。」

ところが、この老人ろうじんのことばが終おわるか終おわらぬに、部屋へやの板戸いたどを、外そとからトントンとたたく音おとが聞きこえてきました。

「だれだね。用事ようじならあとにしておくれ。今いまはいって来きちゃいけない。」

大鳥おおとり氏しが大声おおごえにどなりますと、板戸いたどの外そとに意外いがいな声こえが聞きこえました。

「わたくしでございます。門野もんのでございます。ちょっと、ここをおあけくださいませ。」

「エッ、門野もんのだって? きみは、ほんとうに門野もんの君くんか。」

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