← Library‹ 妖怪博士 石膏像の秘密

その場ばにいあわせた相川あいかわ技師ぎし長ちょうと中村なかむら捜査そうさ係かかり長ちょうは、びっくりして殿村とのむらのそばにかけよりました。

「殿村とのむらさん、何なんをするのです。犯人はんにんが見みつからないといって、罪つみもない石膏せっこう像ぞうにあたりちらすことはないじゃありませんか。子こどもらしいまねはおよしなさい。」相川あいかわ技師ぎし長ちょうが、殿村とのむら探偵たんていのふりあげた右腕みぎうでをささえて、しかるように言いいました。

すると、殿村とのむらは、腹はらだたしげに、その手てをはらいのけながら、みにくい顔かおを、いっそうみにくくゆがめて、どなりかえすのです。

「罪つみがないって? フフン、罪つみがないどころか、この石膏せっこう像ぞうこそくせ者ものなのじゃ。あんた方かた、それがわからんのか。まあ、よく見みてごらん。この像ぞうには足あしがないじゃないか。

ほんもののソフォクレスの像ぞうは、着物きものの下したから二に本ほんの足あしがニュッと出でていたはずじゃ。ところがこの石膏せっこう像ぞうにはその足あしがない。下したまですっかり着物きものでかくれてしまっている。ほかの三みつの像ぞうもみな同おなじことじゃ。一ひとつとして足あしのむきだしになっているやつはない。あんた方かた、これがふしぎには思おもわれぬかな。

古代こだいギリシャの彫刻ちょうこくは、まっ裸ぱだかか、でなければ、着物きものを着きていても、手てや足あしはニュッとむきだしになっているのがふつうじゃ。それが当時とうじの風俗ふうぞくなのじゃ。ところが、そのギリシャ彫刻ちょうこくを模造もぞうしたこの石膏せっこう像ぞうには、四よんつが四よんつとも足あしがない。下したまで着物きものにおおわれて、釣つり鐘がねをふせたような形かたちになっている。

なぜじゃろう。あんた方かたおわかりにならんかな。わしは今いま、ふっとそれに気きがついたのじゃ。この家いえの主人しゅじんは、わざと足あしのない下したひろがりの石膏せっこう像ぞうを作つくらせておいたのじゃ。なぜか? この像ぞうの中なかへ何なんかをかくすためじゃ。何なんか大おおきなものをかくしても、像ぞうがたおれないように、あらかじめすわりをよく作つくっておいたのじゃ。ハハハ……、まだわからんかね。まあ見みていてごらんなさい。わしが今いま、この石膏せっこう像ぞうの秘密ひみつをあばいてくれるから。待まて、待まて、こんなステッキじゃしょうがない。たしかあの秘密ひみつ室しつの中なかに金かなづちがあったはずじゃ。」殿村とのむらはそんなことを言いいながら、アタフタとれいのおびただしい衣装いしょうのかけならべてある密室みっしつへはいっていきましたが、まもなく一いちちょうの大おおきな金かなづちをさげてもどってきました。

「さあ、よく見みていてごらんなさい。わしの想像そうぞうがまちがっていなければ、この中なかから、とんでもないものがとびだしてくるはずじゃ。」いいも終おわらず、殿村とのむらの右手みぎてが宙ちゅうにおどって、金かなづちの先さきが弾丸だんがんのように、石膏せっこう像ぞうにぶっつかっていきました。

一いちうち、二にうち、三さんうち、……たちまち石膏せっこう像ぞうは、大おおきな音おとをたてて、こなごなにくずれていきます。すると、石膏せっこうの内部ないぶのうつろの中なかに、何なんかみょうなものが見みえはじめました。人間にんげんの頭あたまです。白しろい布ぬのでさるぐつわをはめられている、青あおざめた少年しょうねんの顔かおです。

「おお?」相川あいかわ技師ぎし長ちょうの口くちからおどろきの声こえがもれました。殿村とのむらはかまわず金かなづちをふるいつづけ、とうとう石膏せっこう像ぞうを、あとかたもなく、たたきこわしてしまいました。

その中なかには、さるぐつわをはめられ、からだじゅうをぐるぐる巻まきにしばられた、ひとりのねまき姿すがたの少年しょうねんがうずくまっていたのですが、像ぞうがこわれてささえるものがなくなったものですから、フラフラと台だいの上うえからころがり落おちて床ゆかにたおれてしまったのです。

「泰たい二に! おまえ泰たい二にじゃないか。」相川あいかわ技師ぎし長ちょうはさけびながら、そのそばにかけよって、たおれている少年しょうねんをだきおこしました。それはまぎれもなく、技師ぎし長ちょうの愛児あいじ相川あいかわ泰二たいじ君くんでした。誘ゆうかいされたときのまま、パジャマ姿すがたでしばられていたのです。

中村なかむら捜査そうさ係かかり長ちょうも手てつだって、大急おおいそぎでさるぐつわをはずし、なわをといてみますと、泰たい二に君くんはべつに手傷てきずを受うけているわけでもなく、ただおそろしさと息苦いきぐるしさに、気きが遠とおくなっていたばかりですから、たちまち正気しょうきづいて、相川あいかわ技師ぎし長ちょうの姿すがたを見みますと、いきなり、「おとうさま。」とさけびざま、そのなつかしい胸むねにすがりつくのでした。

「ハハハ……、どうです。相川あいかわさん、賊ぞくの魔術まじゅつがおわかりになりましたかな。それにしても、石膏せっこう像ぞうのかくし場所ばしょとは、じつに奇抜きばつな思おもいつきじゃありませんか。……待まってください。まだ三みつの像ぞうが残のこっている。あいつらもたたきこわしてみなくてはならん。」殿村とのむらせむし探偵たんていは、さもとくいらしく、金かなづちを手てにしたまま、ヨチヨチとみょうな歩あるき方かたで、別べつのすみの石膏せっこう像ぞうに近ちかより、それもまた勢いきおいこめてたたきこわしてしまいました。

すると、はげしい物音ものおととともに、石膏せっこうのかけらが、雪ゆきのようにとびちる中なかから、こんどは黒くろい服ふくを着きた少年しょうねんが、泰たい二に君くんと同おなじように、さるぐつわをはめられ、ぐるぐる巻まきにしばられたまま、ころがりだしてきました。それが大野おおの敏夫としお君くんだったのです。殿村とのむらはますますとくいでした。

「おれの知恵ちえはどんなもんだ。」といわぬばかりに、例れいの黄色きいろの歯はをむきだして、ゲラゲラ笑わらいながら、まるで幼おさない子こどもが、おもちゃをこわしでもするように、残のこりの二ふたつの石膏せっこう像ぞうも、見みるまにたたきこわしてしまいました。

その二ふたつの像ぞうの中なかに、斎藤さいとう、上村うえむらの二に少年しょうねんがかくされていたことも、殿村とのむらの想像そうぞうどおりでした。このようにして、せむし探偵たんていは、なんの苦くもなく四よん人にんの少年しょうねんを発見はっけんしてしまったのです。

少年しょうねんたちはみな、べつにけがをしているようすもなく、さるぐつわとなわをといてやると、元気げんきに立たちあがって、四よん人にんが一ひとかたまりに寄よりそって、おたがいの無事ぶじを喜よろこびあい、そこにいる三さん人にんのおとなたちに、口々くちぐちにお礼れいをいうのでした。

中村なかむら係かかり長ちょうと相川あいかわ技師ぎし長ちょうとは、少すこしまえまでは、せむし探偵たんていを、なんだか大おおぼら吹ふきのように感かんじていたのですが、いま目めの前まえに、このふしぎを見みせつけられては、殿村とのむらのすばらしい腕うでまえを、認みとめないわけにはいきませんでした。化ばけものみたいなみにくい姿すがたはしているけれど、なるほど、この男おとこは名めい探偵たんていにちがいないと、心こころから感心かんしんしないではいられませんでした。

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