← Library‹ 妖怪博士 きみが犯人だ

一座いちざの人々ひとびとは、明智あけち探偵たんていのとつぜんの出現しゅつげんに、ひどくめんくらってしまいましたが、なかにも殿村とのむらせむし探偵たんていのおどろきはひとしおでした。まさか、この部屋へやへ明智あけちがあらわれようなどとは、夢ゆめにも考かんがえていなかったからです。しかし、さすがは殿村とのむら探偵たんてい、たちまちおどろきの色いろをおしかくして大声おおごえに笑わらいだしました。

「ワハハハ……、おそかりし明智あけち探偵たんていじゃ。きみは今いまごろになって、ノコノコと、何なんをしにおいでなさった。もう捜索そうさくはすっかりすんでしまったのじゃよ。誘ゆうかいされた四よん人にんの子こどもは、ごらんのとおりぶじに取とりもどした。世間せけんをさわがした機密きみつ文書ぶんしょも、ちゃんと相川あいかわさんのポケットにおさまっている。むろん、みんなこのわしが発見はっけんしたのじゃ。ざんねんながら、明智あけち探偵たんていが見みつけだしたのではないのだ。明智あけち君くん、きみはいったい何なんをしに、ここへ来こられたのじゃ。あかはじをかくためにか、それとも、わしの腕うでまえにかぶとをぬいで、弟子でし入いりでもするためにか。」

しかし、われらの明智あけち探偵たんていは、少すこしもさわぎませんでした。あいかわらず、ニコニコとほほえみながら、落おちつきはらっていいかえしました。

「いかにもきみの腕うでまえを拝見はいけんに来きたのだよ。きみの推理すいりはすばらしいねえ。だが、弟子でし入いりしようなどとは思おもわない。なぜといって、ぼくもきみの知しっているだけのことは、ちゃんと知しっているからさ。ただきみがどんなにお芝居しばいげたっぷりに、それをさがしだしてみせるかと、わざと姿すがたをかくして拝見はいけんしていたのだよ。きみのお芝居しばいはすてきだったぜ。」

「フフン、負まけおしみもたいがいにするがいい、あとからノコノコやってきて、そんなほらを吹ふいたって、だれがまにうけるもんか。わしの知しっていたことは、きみもすっかり知しりぬいていたんだって? フフフ……虫むしのいい言いいぐさもあったもんじゃ。」

「ところが、ぼくはそれ以上いじょうのことを知しっているのさ。なんなら、ひとつ、そのしょうこをお目めにかけてもいいが……。」

「いよいよ負まけおしみの強つよいお方かたじゃ。おもしろい。それではひとつ、そのしょうことやらを見みせてもらいましょうかな。」

「見みたいというんだね。」

明智あけちはなぜか皮肉ひにくな微笑びしょうをうかべて、じっと殿村とのむらのみにくい顔かおを見みつめました。しかし殿村とのむらは、いっこうひるむようすもありません。

「見みたいもんじゃね。」

「それではまず聞きくが、きみはいったい、この事件じけんの犯人はんにんを、とらえてみせるという約束やくそくはどうしたんだね。なるほど四よん人にんの少年しょうねんと機密きみつ文書ぶんしょは取とりもどしたが、かんじんの犯人はんにんを逃にがしてしまったじゃないか。それで、約束やくそくをはたしたなんて大おおきな口くちをきくのは、少すこしおかしくはないかね。」

「フフン、そうらおいでなすった。どうせそんなことだろうと思おもったよ。明智あけち君くん、それは無理むり難題なんだいというものじゃ。きみにしてからが、犯人はんにんをとらえるのはおろか、この賊ぞくのかくれがさえ見当けんとうがつかなかったのではないか。それに、これほどの手てがらをたてたわしを、ただ犯人はんにんをとらえないからといって、せめるのは、むりというものじゃ。そんなにいわれるからには、きみ自身じしんは、さだめし犯人はんにんのありかをごぞんじじゃろうね。それとも、もう犯人はんにんをとらえたとでもおっしゃるのかな。ウフフフ……。」

ところが、その殿村とのむらのあざけりを、明智あけちは、もののみごとに、ピシリと打うちかえしたのです。

「いかにも、ぼくは犯人はんにんのありかを知しっている。いや、そればかりじゃない。もうちゃんととらえてあるのだ。」

「エッ、なんじゃと? 犯人はんにんがとらえてある。ハハハ……、これはおもしろい。それでは、その犯人はんにんというのを見みせてもらおうじゃないか。それとも、ここへは連つれてこられないとでもいうのかね。」

「見みせてほしいか。」

「ウン、見みせられるものなら見みせてほしいね。」

「犯人はんにんはここにいる。この部屋へやの中なかにいるのだ。」

明智あけちの思おもいもかけぬことばに、人々ひとびとはハッとしたように目めを見みかわしました。犯人はんにんがこの部屋へやにいるといって、そこには相川あいかわ技師ぎし長ちょうと、中村なかむら捜査そうさ係かかり長ちょうと、刑事けいじたちと、新聞しんぶん記者きしゃと、四よん人にんの少年しょうねんのほかには、べつにあやしい人物じんぶつも見みあたらぬではありませんか。

それとも、犯人はんにんは新聞しんぶん記者きしゃの中なかにまじっているとでもいうのでしょうか。しかし、なんの必要ひつようもないのに、犯人はんにんがわざわざ警察けいさつ官かんや探偵たんていの大おおぜいいる中なかへ、やって来くるはずもありません。

「おいおい、明智あけち君くん、きみは気きでもちがったのじゃないかね。それとも夢ゆめでもみているのか。その犯人はんにんというのは、この部屋へやの中なかの、いったいどこにかくれているんじゃね。」殿村とのむらはなぜか少すこし顔かおの色いろを青あおくして、くちびるをなめながら、いきりたった声こえでつめよりました。

明智あけち探偵たんていはやっぱり、ニコニコしていました。そして、サッと右手みぎてをあげますと、人ひとさし指ゆびを殿村とのむら探偵たんていの鼻はなの先さきにつきつけました。

「殿村とのむら君くん、それとも、蛭田ひるた博士はかせと呼よんだほうがお気きにめしますか。……きみだ。きみが犯人はんにんだ!」

殿村とのむらはまるで弾丸だんがんで胸むねを打うちぬかれでもしたように、ヨロヨロとよろめきました。その顔かおは、いっしゅんかんサッと、青あおざめたかと思おもうと、つぎのしゅんかんには、憤怒ふんぬのため紫色むらさきいろにかわりました。そして、まるで追おいつめられたけだもののように、黄色きいろい歯はをみにくくむきだして、明智あけち探偵たんていに食くってかかるのでした。

「ば、ばかな。な、なにをいうのだ。とんでもないことだ。わしは殿村とのむら弘三こうぞうという、れっきとした私立しりつ探偵たんていじゃ。明智あけち、きさま気きがちがったな。中村なかむらさん、こいつ、わしとの勝負しょうぶにまけて、逆上ぎゃくじょうしたのです。引ひきずりだしてください。部屋へやの外そとへ引ひきずりだしてください。」

「殿村とのむら君くん、いや、蛭田ひるた博士はかせ、悪わるあがきはよしたまえ。ぼくには何なんもかもわかっているのだ。きみが犯人はんにんでないのなら、どうしてあんなに顔色かおいろをかえたのだ。きみがおどろきのあまりたおれそうになったことは、ここにいる人ひとたちがみな見みてしまったのだ。かぶとをぬぎたまえ。この期ごになって、ジタバタするなんて、きみらしくもないじゃないか。」明智あけちは平常へいじょうと少すこしもかわらぬ声こえで、しずかに言いいきかせました。しかし、殿村とのむらは少すこしもひるむようすがありません。

「でたらめだ、気きちがいの妄想もうそうだ。それとも、しょうこがあるか。何なんをしょうこに、そんないいがかりをつけるのだ。」

「しょうこがほしいのか。」

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