← Library‹ 妖怪博士 少年探検隊

それ以来いらい、明智あけち探偵たんていはもちろん、警察けいさつでも、ねっしんに捜索そうさくをつづけたのですが、二十にじゅう面相めんそうはどこへかくれてしまったのか、まったくゆくえがわからなくなってしまいました。かならず、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんのぜんぶにふくしゅうしてみせると、あれほど広言こうげんしておきながら、まるでものわすれでもしたように、どこかへ消きえうせてしまったのです。

では、二十にじゅう面相めんそうは、もうふくしゅうはあきらめたのでしょうか。そして、捕縛ほばくされるのがこわさに、東京とうきょうから逃にげだしてしまったのでしょうか。いやいや、ゆだんはできません。相手あいては、何なにしろ魔法まほう使つかいのような怪物かいぶつです。ふくしゅうをあきらめたと見みせかけて、そのじつは、この東京とうきょうのどこかのすみに身みをひそめ、じっと時機じきのくるのを待まっているのかもしれません。そして、こんどこそ、世間せけんの人ひとをアッといわせるようなおそろしい、計画けいかくをたてているのかもしれません。

二十にじゅう面相めんそうが姿すがたをかくしてから二十はつ日かほど後あとのことでした。ちょうど日曜にちよう日ひと祭日さいじつとがつづいて、お休やすみが二ふた日かつづいたので、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんたちは、うちそろってハイキングに、出でかけることになりました。

少年しょうねんたちは、二十にじゅう面相めんそうが、ちっとも姿すがたをあらわさないものですから、たいくつでしかたがなかったのです。それに、春はるもおわりに近ちかい、ハイキングにはもってこいの好こう季節きせつです。元気げんきな団員だんいんたちは、なんだかじっとしていられないような気持きもちでした。探偵たんていの仕事しごとがなければ、せめて山登やまのぼりでもして、思おもうぞんぶん、はねまわってみたかったのです。

少年しょうねんたちは、一いち週間しゅうかんもまえから、こんどの二ふた日かつづきのお休やすみには、どこへ出でかけようかと、楽たのしい相談そうだんをはじめていましたが、団員だんいんの桂かつら正一しょういち君くんと篠崎始しのざきはじめ君くんとが、奥多摩おくたまの鍾乳洞しょうにゅうどうを探検たんけんしようじゃないかと、ねっしんに主張しゅちょうしました。

桂かつら君くんと篠崎しのざき君くんとは、同おなじ中ちゅう学校がっこうの一いち年ねん生せいでしたが、同級どうきゅう生せいに、ごく最近さいきん、大学だいがく生せいのにいさんにつれられて、その鍾乳しょうにゅう洞どうへ出でかけたものがあって、その少年しょうねんが洞どうくつの中なかのものすごさを、いろいろと話はなして聞きかせてくれたものですから、ふたりはもうむちゅうになってしまったのです。

少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんたちは、深ふかさも知しれない洞どうくつの探検たんけんと聞きいて、大喜おおよろこびで賛成さんせいしました。冒険ぼうけんが何なんより好すきな少年しょうねんたちのことですから、むりもありません。そして、お休やすみのハイキングは、奥多摩おくたまのN鍾乳しょうにゅう洞どうと一決いっけつしたのでした。

少年しょうねんたちのハイキングには、少すこし道みちのりが遠とおいのですけれど、同勢どうぜい十じゅう人にんのうえ、おとなもおよばぬ、しっかりものの小林こばやし芳雄よしお君くんが、団長だんちょうとしてつきそっていくのですから、団員だんいんのおとうさまおかあさまたちも、安心あんしんして、このハイキングをおゆるしになりました。当日とうじつの日曜にちよう日ひの朝あさは、みな暗くらいうちから大おおさわぎをして、リュックサックをせおい、水筒すいとうをさげ、おとうさまの古こステッキなどを持もって、登山とざん姿すがたりりしく、新宿しんじゅく駅えきに集合しゅうごうしました。

中央ちゅうおう線せんで一いち時間じかんほど、それから支線しせんに乗のりかえて、また一いち時間じかんあまり、その終点しゅうてんでおりますと、こんどは川かわぞいの道みちをバスにゆられて、約やく三十さんじゅう分ふん、それから先さきは、もう車くるまの通とおらない細ほそい山道やまみちです。

自動じどう車しゃをおりた少年しょうねん探検たんけん隊たいは、小林こばやし団長だんちょうを先頭せんとうに、総勢そうぜい十じゅう一いち人にん、足あしにまといつくくまざさをわけて愛国あいこく行進こうしん曲きょくを合唱がっしょうしながら、勇いさましく進すすんでいきました。

いっぽうは見みあげるばかりの若葉わかばの山やま、いっぽうは深ふかい谷川たにがわです。その谷川たにがわをへだてて、向むこうがわには、やはりモクモクと若葉わかばのしげった山やまがそびえています。足あしの下したには、ごうごうとひびく水音みずおと、その水音みずおとをぬうようにして、たえまのない小鳥ことりのさえずり、ウグイスの鳴なき声ごえ、一いち点てんの雲くももなく晴はれわたった空そらからは、木々きぎの若葉わかばをとおして、まだ午前ごぜん中ちゅうの日光にっこうが、さんさんとふりそそいでいます。

「ワッ、おどろいた。なんだかぼくの足あしのそばからとびだしていったよ。」

「ワッ、ウサギだ。ほら、あすこ、あすこ、ああ、もう見みえなくなった。」

「ほんとうかい。」

「うそなもんか。ネズミ色いろの耳みみの長ながいやつが、ピョンピョンとんでいったんだよ。このへんにはウサギの穴あながあるのかもしれないねえ。」

「ウサギならいいけど、クマが出でやしないかなあ。」

「大だいじょうぶだよ。こんなところへクマなんか出でるもんか。」

「フン、クマ公こうが出でたら、ぼくが金太郎きんたろうのように角力すもうをとって、いけどりにしてやるんだがなあ。」相撲すもう選手せんしゅの桂かつら正一しょういち君くんがじょうだんを言いいますと、十じゅう一いち人にんが声こえをそろえて、ワアワアと笑わらい興きょうじるのでした。

歌うたったり、とんだり、はねたり、元気げんきな少年しょうねんたちのことですから、十じゅうキロあまりの山道さんどうを、少すこしもつかれないで、お昼ひるすぎには、もうN鍾乳しょうにゅう洞どうの前まえについていました。鍾乳しょうにゅう洞どうの入いり口ぐちの少すこしてまえに、一いち軒けんのきたない山やま小屋こやがたっていて、その軒先のきさきに果物くだものやお菓子かしやラムネなどが少すこしばかりならべてあります。少年しょうねんたちがそこを通とおりかかりますと、家いえの中なかから、モンペをはいた山男やまおとこのようながんじょうなじいさんが、ニコニコしながら出でてきました。

「おめえさん方かた、鍾乳しょうにゅう洞どうを見物けんぶつに来きただか。」じいさんは日ひに焼やけた赤銅色しゃくどういろの顔かおを、しわだらけにして、少年しょうねんたちに呼よびかけました。

「ええ、そうです。きょう、ぼくたちより先さきに、見物けんぶつに来きた人ひとがありますか。」小林こばやし少年しょうねんがやはりニコニコして、じいさんにたずねました。

「いいや、ひとりも来こねえだよ。鍾乳しょうにゅう洞どうはこのごろさびしがっているだ。おめえさん方かた、学校がっこうの遠足えんそくかね。子こどもばっかりで、こんな山やまの中なかへよくやってきただな、道みちでモモンガに出でっくわさなかっただか。」

「ハハハ……、モモンガってなんです。山やまのお化ばけですか。そんなもの、ぼくたちの威勢いせいにおそれて、向むこうで逃にげていきますよ。ぼくたちは少年しょうねん探検たんけん隊たいなんですからね。」茶目ちゃめの桂かつら君くんが肩かたをいからせて、いばってみせますと、じいさんも声こえをたてて笑わらいました。

「おじいさん、こんなところに、お菓子かしなんかならべておいて、買かう人ひとがあるんですか。」大野おおの敏夫としお君くんがぶえんりょにたずねますと、おじいさんは、あけっぱなしの山やま小屋こやの中なかを指ゆびさしながら答こたえました。

「ハハハ……、そんなもんで商売しょうばいにゃならねえよ。あれを見みな。ほらあすこに鉄砲てっぽうがかけてある。あれがおらの本職ほんしょくだ。おらは猟師りょうしだよ。」

「ああ、猟師りょうしなの。何なんをとるんですか。クマですか。イノシシですか。」

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