← Library‹ 妖怪博士 もの言う怪獣

少年しょうねんたちは、あまりのふしぎさおそろしさに、心臓しんぞうの鼓動こどうもとまってしまうような気きがしました。おとなほどの大おおきさのコウモリというだけでもふしぎなのに、それが人間にんげんの声こえで笑わらいだすなんて、まったく想像そうぞうもできない奇怪事きかいじではありませんか。

ところが、そうして生いきたここちもない少年しょうねんたちの耳みみに、さらにいっそうおそろしい声こえが聞きこえてきました。みなさん、その大おおコウモリがものをいったのです。人間にんげんとそっくりのことばでものをいったのです。

「フフフ……、いくじのない子こどもたちだ。それでも少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんかね。おい、小林こばやし君くん、きみまでふるえているじゃないか。いつもの元気げんきはどこへいったのだね。」大おおコウモリが、地ちの底そこからひびいてくるような声こえで、そういったのです。ほかに人間にんげんがいるはずはありません。たしかに怪獣かいじゅうが口くちをきいたのです。

小林こばやし少年しょうねんは、それを聞ききますとやみの中なかにむくむくと起おきあがりました。その声こえのちょうしが、どこかで聞きいたことがあるように思おもわれたからです。そして、なんだかハッとしたからです。

小林こばやし君くんは手てにしていた懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりを、サーッと声こえのする方角ほうがくへさしつけました。すると、そのまるい光ひかりの中なかに、大おおきな牛うしほどもある怪獣かいじゅうの顔かおが、ヌーッとあらわれました。大おおコウモリはいつのまにか、一いちメートルほどのまぢかにせまっていたのです。

少年しょうねんたちは同時どうじにそのほうを見みましたが、一目ひとめ見みるやいなや、あまりのいやらしさに、思おもわず目めをふさいでしまいました。

牛うしほどもある毛けむくじゃらの顔かおの中なかに、まんまるな二ふたつの目めが、ギョロッと光ひかっていました。その下したに大おおきな黒くろいくちばしのようなものが突つき出でていて、それがパックリとひらいているのです。口くちの中なかには黄色きいろい牙きばのような歯はなみが見みえ、その間あいだからまっかな舌したがのぞいています。今いまにも少年しょうねんたちを、頭あたまから一いちのみにしようと、身みがまえているのです。

でも、小林こばやし少年しょうねんだけは、そのおそろしい顔かおを見みても、もうこわがりませんでした。動物どうぶつが人間にんげんのことばを使つかうはずがない。ものをいうからには、このおそろしい怪物かいぶつの中なかには、ほんとうの人間にんげんがかくれているのにちがいないと、かしこくも判断はんだんしたからです。

「きみはだれだ。ぼくたちをどうしようというのだ。」小林こばやし君くんは懐中かいちゅう電灯でんとうをさしつけたまま、キッとして怪物かいぶつを、にらみつけました。

「フフフ……、わからないかね。きみたちがいっしょうけんめいにさがしている人間にんげんだよ。」大おおコウモリは人ひとをこばかにしたようなことをいって、クスクスと笑わらいました。やっぱり人間にんげんなのです。大おおコウモリの衣装いしょうをつけた人間にんげんなのです。

少年しょうねんたちはそうとわかりましたので、おそろしい夢ゆめからさめたように、ホッとしましたが、でも、お化ばけのこわさはなくなりましたけれど、こんどはその怪獣かいじゅうの中なかの人間にんげんが、いったい何者なにものかと考かんがえますと、またべつのおそろしさに、ゾーッと背せすじが寒さむくなるのでした。

少年しょうねんたちの頭あたまの中なかに、ある人物じんぶつの名ながサッとひらめきました。こんなおそろしいいたずらをして、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんを苦くるしめるやつは、そいつのほかにないからです。

小林こばやし君くんも、すぐその名なを思おもいうかべましたが、でも、この暗くらやみの洞どうくつの中なかで、そいつの名なをいうのには、よほど勇気ゆうきがいりました。大おおコウモリの化物ばけものなんかよりも、かえって、その人間にんげんのほうがおそろしく感かんじられたからです。小林こばやし君くんはしばらくのあいだ、胸むねをドキドキさせながら、いおうかいうまいかと、ためらっていましたが、とうとう思おもいきって、その名なをさけびました。死しにものぐるいで、さけんだのです。

「きさま、二十にじゅう面相めんそうだな。」

「フフフ……、やっとわかったね。そのとおり、おれは二十にじゅう面相めんそうだよ。二十にじゅう面相めんそうは人間にんげんばかりでなくて、動物どうぶつにだって化ばけられるのだ。この世よにいない動物どうぶつにだってね。フフフ……。まさか二十にじゅう面相めんそうがこんな洞どうくつの中なかできみたちを待まちかまえていようとは、気きがつかなかっただろう。どうだね、この思おもいつきは。ハハハ……。これは最初さいしょからおれの計画けいかくしたことさ。その計画けいかくに、きみたちがまんまと引ひっかかったのだよ。え、わかるかね。きみたちがこの鍾乳しょうにゅう洞どうの探検たんけんを思おもいたったのは、そこにいる桂かつら君くんと篠崎しのざき君くんがねっしんにすすめたからだね。

ところで、そのふたりに、この洞どうくつのことをさもおもしろそうに話はなして聞きかせた同級どうきゅう生せいがある。そして、ふたりをむちゅうにさせてしまったのだ。その同級どうきゅう生せいにそういう話はなしをさせたのは、ほかでもないこのおれだったのだよ。わかったかね。ハハハ……。きみたちはおれの計略けいりゃくにのって、ノコノコこの鍾乳しょうにゅう洞どうへ出でかけてきた。そして、なまいきにも案内あんないのじいさんをことわって、道みちしるべのひもをたよりに、迷路めいろの中なかへふみこんだ。どうだね、何なんもかも知しっているだろう。

あのひもを切きったのもおれだ。そこの穴あなの上うえの板いたの橋はしを取とりのけたのもおれだ。そうしておいて、こういう怪物かいぶつに変装へんそうして、きみたちを思おもうぞんぶんこわがらせたのだ。

ハハハ……、おれは、こんなゆかいなことはないよ。きみたちには、いつかひどいめにあっているからね。どうかして仕返しかえしをしたいと思おもっていたが、その念願ねんがんを今いまやっとはたしたのだ。この大おおコウモリが姿すがたをあらわしたときの、きみたちのおどろき方かたはなかったぜ。ハハハ……、少年しょうねん探偵たんてい団だんなんてなまいきなことをいっていたって、お化ばけにかかっちゃ型かたなしじゃないか。おれは胸むねがスーッとしたよ。ハハハ……、だが、まだ安心あんしんするのは早はやすぎるぜ。おれのふくしゅうはこれでおしまいじゃないのだ。こんな子こどもだましのいたずらで満足まんぞくするおれじゃない。ほんとうのふくしゅうはこれからなのだ。ウフフ、……こわいかね。

きみたちは、もう一いち生涯しょうがい、この洞どうくつの中なかから出でることはできないのだ。それが、おれのふくしゅうだよ。いいかね、きみたちは道みちしるべのひもをなくしたので、この暗くらやみの迷路めいろの中なかで、まったくのまい子こになってしまったのだ。そのうえ、そこの大穴おおあなはどんなことしたってこせやしないから、きみたちはもとの道みちをもどることもできない。

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