← Library‹ 青銅の魔人 怪人の正体

それから四五十しごじゅう分ふんのち、煙突えんとつのまわりは火事かじ場じょうのような騒さわぎになっていました。中村なかむら係かかり長ちょうのきてんで、もよりの消防しょうぼう署しょに電話でんわがかけられ、一いち台だいの消防しょうぼう自動じどう車しゃが、小型こがたの探照灯たんしょうとうまで用意よういしてやって来きたのです。探照たんしょう灯とうは近ちかくの電灯でんとう線せんにつながれ、まぶしい光線こうせんが煙突えんとつの頂上ちょうじょうを照てらしつけています。

青銅せいどうの魔人まじんは昇天しょうてんしないで、まだそこにいました。煙突えんとつの頂上ちょうじょうに腰こしをかけ、二に本ほんの金属きんぞくの足あしをブランブランさせ、両手りょうてを空そらざまにひろげて、おどかしつけるようなかっこうで下界げかいをにらみつけ、例れいのキーッ、キーッという、いやな叫さけび声ごえをたてています。

警官けいかんが煙突えんとつへのぼって行いって、怪人かいじんをとらえるなどは、とてもできることではありません。足場あしばがわるい上うえに、相手あいてはどれほど力ちからがあるかわからないやつです。そこで中村なかむら係かかり長ちょうは消防しょうぼう署しょにたのんで、怪物かいぶつめがけてホースの水みずをぶっかけてもらうことを考かんがえつきました。そうすれば怪物かいぶつは苦くるしまぎれにおりて来くるだろうと思おもったのです。しかし、その考かんがえはまちがっていました。怪物かいぶつはけっしておりてこなかったのです。

自動じどう車しゃポンプのエンジンが動うごきだし、消防しょうぼう署しょ員いんはホースの筒口つつぐちをとって身みがまえました。ホースからはおそろしい音おとをたてて、水みずがほとばしり、はるかの空そらの怪物かいぶつは真まっ白しろな水みずしぶきに包つつまれました。

ポンプの水みずは煙突えんとつの上うえの怪物かいぶつをふきとばすほどの力ちからがあります。しかし、つきおとして殺ころしてしまっては、なんにもなりませんから、手てかげんをして、ただ顔かおに水みずしぶきをかけて苦くるしめるようにしているのです。

ところが、魔人まじんはすこしも苦くるしむようすがありません。機械きかい人間にんげんは息いきをしないので、いくら水みずをかけられてもへいきなのでしょう。

消防しょうぼう手しゅはもどかしくなって、だんだん水みずのかけかたをはげしくしました。怪人かいじんの姿すがたがユラユラとゆれるように見みえます。ア、いけない。そんなにひどくしたら、煙突えんとつの上うえから落おちてしまう。人々ひとびとがそう思おもって手てに汗あせをにぎった時ときはもうおそかったのです。

ポンプの水みずが強つよすぎたのか、それとも怪人かいじんがわざとそうしたのか、青銅せいどうのからだが左右さゆうにはげしくゆれたかと思おもうと、もう怪人かいじんの姿すがたは煙突えんとつの上うえから消きえていました。しかしこんどは煙けむりのように消きえてなくなったのではありません。落おちたのです。はるかの天空てんくうから、黒くろいかたまりとなって、矢やのように地上ちじょうに落下らっかしたのです。人々ひとびとは思おもわず「ワーッ」と声こえをあげました。

その時ときでした。ちょうどその時とき、地上ちじょうの暗くらやみの中なかで、なんとも説明せつめいのできない異様いようなことがおこっていました。

小林こばやし少年しょうねんはその時とき、警官けいかん隊たいのずっとうしろのほうから、煙突えんとつの上うえを見みあげていたのですが、怪物かいぶつが落おちたので、いそいでそのほうへかけだそうとしました。そして、一いち歩ほふみだした時とき、とつぜん頭あたまの上うえから黒雲くろくもがかぶさって来きたような気きがして、目めの前まえがすこしも見みえなくなってしまい、からだがスーッと宙ちゅうにういたかと思おもうと、こんどは深ふかい深ふかい穴あなの中なかへすべりおちて行いくような気きがして、それっきり何なんもわからなくなってしまいました。人々ひとびとは怪物かいぶつのほうにむちゅうになっていたのと、何なんをいうにも暗くらやみのことですから、小林こばやし君くんの身みのうえにおこった変事へんじには、だれも気きづいたものはありません。しかし、この時ときかぎり、小林こばやし君くんの姿すがたはかき消けすように見みえなくなってしまったのです。つまりこの世よから消きえうせてしまったのです。

こちらでは青銅せいどうの魔人まじんが、おそろしい音おとを立たてて地上ちじょうに落おちたものですから、警官けいかんたちはいっせいにその場ばにかけよりました。懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりではたよりないので、消防しょうぼう自動じどう車しゃを動うごかして、ヘッド・ライトでそこを照てらしたのですが、怪物かいぶつは見みるもむざんなありさまで、地面じめんにたたきつけられていました。むろん死しんでいるのです。しかしそれはなんという不思議ふしぎな死しがいでしょう。手足てあしは折おれまがり、腹はらはさけているのに、一いちてきの血ちも流ながれていないのです。そして、さけた腹はらの中なかからとびだしているのは、はらわたではなくて、数かず知しれぬ大小だいしょうの歯車はぐるまじかけでした。

アア、やっぱりこいつはからだの中なかまで機械きかいでできていたのです。ほんとうの機械きかい人間にんげんだったのです。

それにしても、その歯車はぐるまを動うごかす力ちからのもとは、いったいなんだったのでしょう。まさかゼンマイの力ちからでこんな大おおきなものが動うごくはずはありません。電気でんきの力ちからにしても、これだけの人形にんぎょうを動うごかす蓄電ちくでん池ちをしこむなどということはとても考かんがえられません。なにか今いままでだれも知しらなかったような発明はつめいをした者ものがあるのでしょうか。では、その発明はつめい者しゃはいったい何者なにものでしょう。中村なかむら係かかり長ちょうは魔人まじんの死しがいのそばによって、靴くつの先さきで肩かたのへんを動うごかして見みました。えたいの知しれぬ魔物まもののことですから、こんなになっても、まだ生いきているのではないかと、ためして見みたのです。しかし機械きかい人間にんげんはグッタリとなったまま、動うごきだすようすもありません。たしかに死しんでしまったのです。

「なんだ、青銅せいどうの魔人まじんって、こんなものだったのか。」

ちらばっている歯車はぐるまを見みると、なんだかばかにされたような気きがしました。

しかし、この機械きかいがあのような悪事あくじをはたらき、そのうえたびたび煙けむりのように消きえうせたことを思おもいだすと、やっぱり気味きみがわるいのです。なんともいえない、ふしぎな感かんじがするのです。

人々ひとびとは奇妙きみょうな死しがいのまわりに立たちすくんだままだまりこんでいました。あまりのふしぎさに、何なんを考かんがえていいのだか、何なんをいっていいのだか、けんとうもつかないのです。

そこへ、人々ひとびとをかきわけるようにして、名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうがあらわれました。明智あけちはだまって機械きかい人間にんげんの死しがいに近ちかづくと、そのそばにしゃがんで、あちらこちらとしらべていましたが、

「オヤ、これはなんだろう。」

と、つぶやいて、怪物かいぶつの右みぎの手てを持もちあげました。見みると、ちょうつがいになった青銅せいどうの指ゆびが、かたくにぎりしめられていて、その指ゆびのあいだから、白しろい紙かみきれのはしが出でているのです。明智あけちはその紙かみきれを破やぶれないようにソッとぬきだし、ひざの上うえでしわをのばして、消防しょうぼう自動じどう車しゃのヘッド・ライトの光ひかりにあてて見みました。

「アア、やっぱり手紙てがみだ。こいつは手紙てがみでぼくらに何なんかをつげようとしているんだ。」

その紙かみきれには、字じだか絵えだかわからないようなへんなかなで、

「フクシュウ」

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