← Library‹ 青銅の魔人 悪魔の美術館

そこへ、道化どうけ師しがもどって来きました。

「さあ、これから七ななつの宝たからものの部屋へやを見みせてあげよう。きみたち、びっくりするぜ。」

道化どうけ師しは小林こばやし君くんたちをあんないして、魔人まじんの美術びじゅつ館かんを見みせてくれました。魔人まじんの盗ぬすみためた、いろいろの宝たからものが、地ちの底そこの七ななつの部屋へやにかざってあるのです。

時計とけいの部屋へやには、大小だいしょうさまざまの時計とけいが、まるで時計とけい屋やの店みせのようにならび、一方いっぽうのすみには、大おおきな時計とけい塔とうまでかざってあります。そして、そのまん中なかの、いちばん目めにつきやすいところに、手塚てづかさんの蔵くらの中なかから盗ぬすんで来きたばかりの、皇帝こうていの夜光やこうの時計とけいが、りっぱな黒くろビロウドの台だいの上うえでキラキラとかがやいていました。

仏像ぶつぞうの部屋へやには、見みあげるばかりの大おおきな仏像ぶつぞうが、まるで博物はくぶつ館かんのように立たちならび、絵えの部屋へやには古ふるい日本にっぽんの名画めいがや西洋せいようの名高なだかい油絵あぶらえが、ズラリとかけならべてあります。そのほか、宝石ほうせきの部屋へや、織物おりものの部屋へや、蒔絵まきえの部屋へやなど、よくもこれだけ盗ぬすみあつめたものだと、びっくりするほどでした。魔人まじんが「美術びじゅつ館かん」だといっていばっているのも、もっともです。

小林こばやし君くんはすっかりおどろいてしまいましたが、それといっしょに、魔人まじんをにくむ心こころがムラムラと胸むねの中なかにもえあがって来きました。なんというおそろしい悪人あくにんだろう。こんなやつを一いち日にちも自由じゆうにさせておいてはいけない。「ぼくは、どんなことがあっても、ここをぬけだしてみせる。そして、明智あけち先生せんせいや警察けいさつにこれを知しらせて、魔人まじんをとらえ、この宝たからものをもとの持もち主ぬしに返かえすんだ。きっと、やってみせるぞ。」と、かたく心こころにちかうのでした。

「エヘヘヘヽヽヽ、どうだい、魔人まじんさまの美術びじゅつ館かんはたいしたもんだろう。サア、見物けんぶつがすんだら、魔人まじんさまにお目めみえだ。小林こばやし君くんははじめてのお目めみえだね。なあに、こわいことはない。きみをとって食くおうとは、おっしゃらないよ。」

道化どうけ師しがさきに立たって、石いしのトンネルをグルグルとまわって行いきますと、奥おくのほうにうす暗ぐらい部屋へやがありました。

十じゅう畳じょうほどの部屋へやですが、まわりに黒くろビロウドのかべかけが幕まくのようにたれていて、天井てんじょうから、へんなかっこうのつりランプがさがっています。それが今いままでの部屋へやとは、くらべものにならないほど、うす暗ぐらいのです。

小林こばやし君くんたちが、そこへはいって行いきますと、正面しょうめんのビロウドの幕まくがユラユラと動うごいて、その合あわせ目めから、青銅せいどうの魔人まじんの姿すがたがヌーッとあらわれ、いきなりギリギリと、例れいのはげしい歯はぎしりの音おとをさせました。何なんか大声おおごえにどなっているのです。

「さあ、魔人まじんさまのおおせを通訳つうやくするから、よく聞きくんだぜ。いいか。……小林こばやし、きさまはよくも、おれをひどい目めにあわせたな。だが、おれは神通力じんつうりきをもっているんだ。あの煙突えんとつからおちて死しんでしまったけれども、見みろ、こうしてちゃんと生いきている。きさまの先生せんせいの明智あけちなんかにつかまるようなおれじゃない。わかったか。そこで、きさまはばつとして、一生いっしょうこの地ちの底そこにとじこめておくことにする。きょうから明智あけちの弟子でしでなくて、おれの弟子でしになるんだ。どうだ、うれしいか。なに明智あけちにあえないのが、かなしいというのか、ワハハハヽヽヽ、しんぱいするな。明智あけちならいまにあわせてやる。あいつも、きさまと同おなじように、この魔人まじん国こくのとりこにして、青銅せいどう人間にんげんにしてしまうつもりだからな。そうすれば、毎日まいにち、明智あけちにあえるというもんだ。ワハハハヽヽヽ。」

道化どうけ師しはそこでプッツリ口くちをとじました。魔人まじんも歯はぎしりをやめて、おどかすように、青銅せいどうの両手りょうてを大おおきくふったかと思おもうと、そのまま、また幕まくのうしろへかくれてしまいました。小林こばやし君くんは何なんかいってやろうと思おもったのですが、自由じゆうに口くちがきけないうえに(さいぜん、食事しょくじの時とき、鍵かぎでひらいてくれた下したあごは、またもとのとおり、ふさがれていたのです)アッと思おもうまに魔人まじんが姿すがたを消けしてしまったので、何なんをいうまもありませんでした。

それから一いち週間しゅうかんほど、小しょう魔人まじんの姿すがたをした小林こばやし君くんたち三さん人にんの、地底ちていのふしぎなくらしがつづきました。

青銅せいどうの魔人まじんはひとりなのか、それとも、ふたりも三さん人にんもいるのか、そこがどうもよくわかりません。はじめに黒くろビロウドの部屋へやで出であったほかは、魔人まじんは小林こばやし君くんたちを、一いち度どもそばへよせつけません。ただ、トンネルを歩あるいていたり、石いしの部屋へやへはいって行いったりするのを、遠とおくからチラチラと見みるばかりです。それがみなまったく同おなじ姿すがたなのですから、相手あいてが幾いく人にんいるのだか、すこしもけんとうがつきません。道化どうけ師しにそのことをたずねても、ヘラヘラ笑わらうばかりで答こたえてくれないのです。

小林こばやし君くんたちはべつにひどい目めにあうわけでもなく、一室いっしつにとじこめられることもなく、ただ時々ときどきいろいろなものを運はこんだり、炊事すいじの手てつだいをさせられるぐらいで、これといって苦くるしいこともありませんが、この地ちの底そこから、いつまでも出でられないのが、何なんよりもつらいのです。

石いしのトンネルの一方いっぽうのはじに、いつもげんじゅうに鉄てつの戸とのしまっている所ところがあります。どうやら、そこが地上ちじょうへの出口でぐちらしいのですが、鍵かぎがかかっているとみえ、その戸とはおしても引ひいてもビクとも動うごきません。

ある時とき、小林こばやし君くんがその戸とをしらべていると、とつぜん、うしろに人ひとの声こえがしました。

「エヘヘヘヽヽヽ、だめ、だめ、その戸とのむこうがわに出でると、いのちがないのだよ。おそろしい地獄じごくが口くちをひらいて待まっているんだ。悪わるいことはいわない。この戸とのむこうへ出でようなんて、けっして考かんがえるんじゃないよ。」

いつのまにか、例れいの道化どうけ師しが、そこに来きて、ヘラヘラ笑わらっているのでした。小林こばやし君くんはその時とき、道化どうけ師しのいったことは、ただのおどかしだろうと思おもいましたが、あとになって、けっしておどかしでなかったことがわかるのです。その戸との外そとには、ほんとうに身みの毛けもよだつ地獄じごくがあったのです。

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