← Library‹ 虎の牙 虎の影

それから数すう日じつは、何事なにごともなくすぎさりました。あの夜よるは、いくらさがしても、石いしのコマイヌのほかには、あやしいものも見みあたらず、警官けいかんたちは、なんのえものもなく、ひきあげたのです。その後ご、東京とうきょう中ちゅうの警察けいさつが、魔法まほう博士はかせと勇一ゆういち少年しょうねんをさがしているのに、ふたりの姿すがたはどこにも、あらわれず、むなしく日ひがたっていくばかりでした。

そして、あのおそろしい日ひから、ちょうど六むい日か目めの午後ごご、四よん人にんづれの少年しょうねんが、勇一ゆういち君くんのおうちをたずねました。

小林こばやし少年しょうねんと、読者どくしゃにはまだおなじみのない三さん人にんの中学ちゅうがく生せいです。そのうち、一いちばん背せの高たかいのは花田はなだ君くんといって、中学ちゅうがくの二に年ねん生せい、あとのふたりはおなじ中学ちゅうがくの一いち年ねん生せいで、石川いしかわ君くんと田村たむら君くんです。

この花田はなだ、石川いしかわ、田村たむらの三さん少年しょうねんは、小学しょうがく生せいのころから、少年しょうねん探偵たんてい団だんにはいって、いまでは小林こばやし団長だんちょうの参謀さんぼうというような、重おもい役目やくめをつとめています。三さん人にんの中ちゅう学校がっこうは、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょとおなじ千代田ちよだ区くにありました。

魔法まほう博士はかせの事件じけんが大おおきく新聞しんぶんにのり、小林こばやし団長だんちょうのしんせきの勇一ゆういち少年しょうねんが、行ゆくえ不明ふめいになったと知しると、三さん少年しょうねんは、さそいあって、小林こばやし君くんをたずね、勇一ゆういち少年しょうねん捜索そうさくのために、少年しょうねん探偵たんてい団だんも、できるだけのことをしたいと、申もうしでたのです。

そこで、きょうは、四よん人にんづれで、勇一ゆういち君くんのおうちへ、その後あとのようすをたずねるために、わざわざ出でかけてきたのでした。

さいわい、勇一ゆういち君くんのおとうさんは、うちにおられ、よろこんで、四よん人にんの少年しょうねんを、座敷ざしきにお通とおしになりました。

あいさつと、ひきあわせがすみますと、小林こばやし君くんは、さっそく事件じけんのことを、話はなしはじめました。

「おじさん、その後ご、何なんかかわったことはありませんか。」

すると、勇一ゆういち君くんのおとうさんは、待まちかねていたように、おっしゃるのでした。

「イヤ、みょうな手紙てがみが来きたんだよ。どうも勇一ゆういちは無事ぶじでいるらしい。」

「ヘエ、みょうな手紙てがみですって。だれから来きたんです。」

「勇一ゆういちからだよ。ここにあるから、きみたちも見みてください。」

おとうさんは、そう言いって、ふところから、四角しかくな封筒ふうとうをとり出だして、小林こばやし君くんにおわたしになりました。

いそいで、封筒ふうとうの中なかをしらべますと、白しろいびんせんにペンで書かいた手紙てがみと、一いち枚まいの写真しゃしんが出でてきました。台紙だいしのないキャビネの写真しゃしんです。

「おや、これ勇一ゆういち君くんの写真しゃしんですね。みょうな服ふくを着きて、すましているじゃありませんか。」

「そうだよ。いま、どこかで、そんなふうをして、くらしているらしい。手紙てがみのほうを読よんでごらん。」

そこで、手紙てがみをひらいて、読よんでみますと、そこには、つぎのような、ふしぎなことが書かいてありました。

おとうさん、おかあさん、ぼくは無事ぶじでいますから、ご安心あんしんください。でも、しばらく、おうちへ帰かえることはできません。また、いまいる場所ばしょは書かくこともできないのです。

ぼくの写真しゃしんを入いれておきます。これは、きのうとったものです。ぼくはいま、こんなりっぱな服ふくを着きて、美うつくしい部屋へやにいます。そして、毎日まいにち、びっくりするような、おいしいごちそうを、たべています。

いつおうちへ帰かえれるか、わからないのが、ざんねんですが、そのほかのことでは、ぼくはたいへんしあわせです。どうかご安心あんしんください。勇一ゆういちより。

「たしかに勇一ゆういち君くんの字じですね。へんだなあ、いったい、どこにいるんでしょうね。」

「封筒ふうとうの消けし印しるしは新橋しんばしになっているが、そんなものはあてにならない。つまり、どっかへ、とじこめられているんだね。まあ、おいしいごちそうをたべているというから、心配しんぱいはしないが、それにしても、だれが、なんのために、勇一ゆういちをとじこめているのか、すこしもわけがわからない。」

「魔法まほう博士はかせのしわざでしょうね。」

「わたしも、そう思おもう。しかし、魔法まほう博士はかせがいったい、なんのために勇一ゆういちをとじこめるのかね。わたしがお金持かねもちなら、身みのしろ金きんをゆするためとも考かんがえられるが、わたしは、ごらんのとおりの貧乏びんぼう人にんだからね。ゆすられるようなものは、何なんも持もっていない。そこが、じつにふしぎなんだよ。」

「警察けいさつへとどけないんですか。」

「ウン、これからこの手紙てがみを見みせに行いこうと思おもっていたところだ。しかし、警察けいさつでも、これだけでは、何なんもわからないだろうね。」

「明智あけち先生せんせいがご病気びょうきでなければ、きっとうまい知恵ちえがあるんだがなあ。先生せんせいは熱ねつが高たかくて、勇一ゆういち君くんの事件じけんも、まだお話はなしすることができないでいるんですよ。しかしねえ、おじさん、ぼくたちの少年しょうねん探偵たんてい団だんは、何なんかをさがすことが、なかなかうまいんですよ。まえにも、いくどもてがらをたてたことがあるんです。ぼくたち、やってみますよ。ねえ、花田はなだ君くん。」

「ええ、ぼくたちも、小林こばやし団長だんちょうを助たすけて、はたらきますよ。石川いしかわ君くんだって、田村たむら君くんだって、からだは小ちいさいけれど、みんなすばしっこいんだからなあ。」

花田はなだ少年しょうねんも、いきごんで言いうのでした。

それから、お菓子かしとコーヒーをごちそうになって、四よん人にんの少年しょうねんは、いとまをつげましたが、表ひょうのこうし戸とをあけて、外そとに出でると、すぐ目めの前まえを、ひとりのきたない服ふくを着きた男おとこが、まるで逃にげるように、スタスタと向むこうへ歩あるいて行いくのに、気きづきました。

「あいつ、こうし戸とのところで、うちのようすを、うかがっていたんだよ。きっと、そうだよ。あやしいやつだなあ。」

花田はなだ君くんが、声こえをひくくして言いいました。

「つけてみようか。」

田村たむら君くんが目めを光ひからせて言いいます。

「うん、きみと石川いしかわ君くんとで、尾行びこうしてごらん。ぼくたちも、あとからついて行いくから。」

小林こばやし団長だんちょうの命令めいれいです。

田村たむら、石川いしかわの二に少年しょうねんは、道みちの両りょうがわにわかれて、家いえののきづたいに、まるでリスのように、チョコチョコと走はしりながら、男おとこのあとを、尾行びこうしました。

男おとこはいそぎ足あしで、右みぎにおれ、左ひだりにまがり、だんだん、にぎやかな町まちのほうへとすすんで行いきます。

そうして十じゅう五ご分ふんもたったころ、あとから歩あるいていた小林こばやし君くんと、花田はなだ君くんの前まえに、石川いしかわ、田村たむらの二に少年しょうねんが、スゴスゴとひきかえして来きました。

「だめ、だめ、うまくまかれてしまった。あいつ、気きがついたんだよ。ヒョイとうしろを向むいて、ぼくたちを見みると、いきなり走はしりだして、人ひとごみの中なかへかくれてしまった。いくらさがしても、見みつからないんだよ。」

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