← Library‹ 虎の牙 ゴムひも

食事しょくじをおわると、小林こばやし君くんは勇一ゆういち少年しょうねんとひきはなされ、またもとの、うすぐらい牢屋ろうやのような部屋へやに、とじこめられました。そして、外そとから、ドアにピチンとかぎをかけられてしまったのです。

明智あけち探偵たんていをぬすみだすという話はなしを聞きいたので、小林こばやし君くんは心配しんぱいでたまりません。どうかして、このことを明智あけち先生せんせいに知しらせたいと思おもうのですが、この部屋へやを逃にげだすことは、とてもできません。ドアにかぎがかかっているばかりでなく、外そとの廊下ろうかには、また、あの虎とらが、番ばんをしているのです。

「ここを逃にげだそうとすれば、たちまち虎とらにくわれてしまうのだ。いのちがおしかったら、逃にげることなんか考かんがえないがいい。」

小林こばやし君くんをとじこめるとき、魔法まほう博士はかせはこう言いいわたしたのです。

しかし、このまま、ジッとしていて、病気びょうきの明智あけち先生せんせいに、もしものことがあっては、たいへんです。どうかして、このことを知しらせなければなりません。どうしたらいいのでしょう。できないことです。できないことを、やらなければならないのです。

小林こばやし君くんは、部屋へやのすみにある、例れいの木きのベッドに腰こしかけて、腕うでぐみをして一心いっしんに考かんがえました。

「さあ、知恵ちえをしぼりだすんだ。きみは、人ひとに知しられた少年しょうねん名めい探偵たんていじゃないか、いまこそ、その名めい探偵たんていの知恵ちえをしぼる時ときだ。」

小林こばやし君くんは自分じぶん自身じしんに、そう言いい聞きかせました。むかし、悪人あくにんのすみかにふみこんだときに、カバンの中なかに伝書でんしょバトをしのばせておいて、とじこめられた部屋へやの窓まどから、そのハトをはなして、れんらくをとったことがありますが、こんどは、そういう用意よういを、何なんもしていなかったのです。

「うん、そうだ。とにかく、ようすを見みてみよう。」

小林こばやし君くんは、なにを考かんがえたのか、そんなひとりごとを言ゆうと、立たちあがって、いきなり、木きのベッドに両手りょうてをかけ、例れいの鉄棒てつぼうのはまった、高たかい窓まどの下したへ、それをひきずって行いきました。

そして、ベッドの一方いっぽうのはじを、かべぎわにおしつけ、べつのはじを、だんだん持もちあげていって、とうとう、ベッドをそこに立たててしまいました。つまり、ベッドがはしごのように、かべに立たてかけられたわけです。

小林こばやし君くんは、そのベッドのはしごを、よじのぼって、頂上ちょうじょうまでたどりつきました。そして、そこに腰こしかけると、ちょうど顔かおが窓まどの高たかさになるのです。小林こばやし君くんは、窓まどの鉄棒てつぼうをにぎって、外そとをながめました。

三十さんじゅうメートルほど、向むこうに、高たかいレンガの塀へいがあって、その外そとには、建物たてものはありません。たぶん、広ひろっぱになっているのでしょう。耳みみをすますと、その塀へいの外そとから、大おおぜいの子こどもの声こえが聞きこえて来きます。野球やきゅうでもやっているようすです。

この窓まどから、大おおきな声こえでさけべば、子こどもたちに聞きこえるかもしれません。しかし、そんなことをすれば、子こどもたちよりさきに、魔法まほう博士はかせに気きづかれてしまいます。そして、どんなひどいめにあわされるかわかりません。

ところが、小林こばやし君くんには、うまい考かんがえがあったのです。

小林こばやし君くんは、ベッドのはしごをおりると、ポケットから手帳てちょうを出だして、それをひらき、万まん年ねん筆ひつで、何なんかを書かきはじめました。

小林こばやし君くんが、魔法まほう博士はかせの家いえにとじこめられていること、魔法まほう博士はかせは、明智あけち先生せんせいをゆうかいしようとしていること、ここには虎とらがいるから、用心ようじんしないとあぶないことなどを、こまかい字じでくわしく書かいたのです。そして、そのページを切きりとると、四よんつにたたんで、その外そとがわに、「これを大おおいそぎで明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょへとどけてください。人ひとのいのちにかかわることです。お礼れいはたくさんさしあげます。」と書かき、事務じむ所しょの町名ちょうめい番地ばんちと、道順みちじゅんをしるしました。

それから、ズボンのポケットをさぐって、銀色ぎんいろにキラキラ光ひかったまるい銀貨ぎんかのようなものを二ふたつ、取とりだしました。いまの五ご円えん玉たまの倍ばいぐらいの大おおきさです。これはB・Dバッジという、少年しょうねん探偵たんてい団だんのしるしなのです。

そのつぎに、小林こばやし君くんは、みょうなことをはじめました。両方りょうほうのクツしたをぬいだのです。そして、ポケットから小ちいさなナイフを取とりだすと、それをひらいて、クツしたの上うえのはじの糸いとを切きって、そこにぬいこんであるゴムひもをぬき取とりました。

小林こばやし君くんの毛糸けいとのクツしたには、ずりおちないように、ゴムひもがぬいこんでありました。しかも、それは太ふといじょうぶなゴムひもでした。そのゴムひもを、両方りょうほうのクツしたからぬき取とったのです。それから、ナイフを使つかって、クツしたをほぐし、二にメートルほどの毛糸けいとをぬき取とり、それを同おなじぐらいの長ながさに四よんつに切きりました。これですっかり用意よういができたのです。

そこで、小林こばやし君くんは、手紙てがみを書かいた手帳てちょうの紙かみを、二に枚まいの銀色ぎんいろのバッジのあいだにはさみ、一いち本ほんの毛糸けいとでもって、それをはなれぬように、十じゅう文字もじにしばりつけました。それから、二に本ほんのゴムひものはじをべつの毛糸けいとで、しっかりむすびあわせ、長ながい一いち本ほんのゴムひもにしました。

手紙てがみをはさんだバッジと、長ながいゴムひもと、のこった二に本ほんの毛糸けいとを持もって、小林こばやし君くんはベッドのはしごをのぼり、ゴムひものはじを、毛糸けいとで、窓まどの鉄棒てつぼうにしばりつけ、もう一方いっぽうのはじを、そのとなりの鉄棒てつぼうに、のこった毛糸けいとでしばりつけました。

読者どくしゃ諸君しょくん、小林こばやし少年しょうねんが何なんをやろうとしているのか、もうおわかりでしょう。そうです。ゴムひものパチンコを作つくったのです。そして、そのパチンコの力ちからで手紙てがみをはさんだバッジを、塀へいの外そとへ、飛とばそうと考かんがえたのです。

手てで投なげようとしても、ベッドに乗のっているのですから、足場あしばが悪わるくて、とても思おもうようには投なげられません。ゴムひものパチンコならば、手てで投なげるよりも倍ばいも遠とおくへとどきます。さすがは少年しょうねん探偵たんてい、とっさのまに、じつにうまいことを考かんがえついたものではありませんか。

小林こばやし君くんは、そのゴムひもにバッジをはさみ、グーッとてまえに引ひっぱって、空そらに向むかって、ねらいをさだめ、パッと指ゆびをはなしました。すると、ビュンとゴムのちぢむいきおいで、バッジは空そらに銀色ぎんいろの線せんを引ひいて、はるか塀へいの向むこうまで気持きもちよく飛とんで行いきました。

耳みみをすましていると、子こどもたちの声こえがパッタリとまったようです。空そらから銀色ぎんいろのものが、ふって来きたので、おどろいているのでしょう。小林こばやし君くんのもくろみは、みごとにたっせられたのです。

いまごろは、子こどものひとりがバッジをひろいあげていることでしょう。そして、糸いとを切きって、手帳てちょうの紙かみを取とりだし、そこに書かいてある字じを読よんでいることでしょう。もうだいじょうぶです。小林こばやし君くんは、あんどのため息いきをついて、ベッドのはしごをおりました。

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