← Library‹ 虎の牙 巨人と怪人

さすがの魔法まほう博士はかせも、このふしぎには、あきれかえったように、明智あけち探偵たんていの顔かおを見みつめるばかりでした。鏡かがみの向むこうには明智あけちの姿すがたがまだ見みえています。そして、目めの前ぜん一いちメートルの近ちかさに、同おなじ明智あけちの顔かおがせまっているのです。

「ハハハ……、魔術まじゅつの先生せんせいが、こんな手品てじなにおどろいて、どうするんだ。考かんがえてみたまえ、きみには、すぐ手品てじなの種たねがわかるはずだよ。」

明智あけちは魔法まほう博士はかせの正面しょうめんのイスにゆったりと腰こしかけて、笑わらっています。大おおきな虎とらが、そのイスの足あしのところに、まるで、かいイヌのように、おとなしくうずくまっています。

「フフン、さすがは明智あけち先生せんせい、なかなか、あじをやるね。まさか、きみが、かえだまを用意よういしていようとは知しらなかったよ。鏡きょうの向むこうの部屋へやにいるのは、きみのかえだまだったんだね。」

「そのとおりだよ。ぼくには、ふたごのようによくにた弟子でしがある。その男おとこを、ちょっと、かえだまに使つかったのさ。」

明智あけち探偵たんていは自分じぶんとそっくりのかげ武者むしゃを持もっていたのです。そのかえだまのことは『怪人かいじん二十にじゅう面相めんそう』の『種明たねあかし』の章しょうにくわしく書かいてあります。明智あけちが、かえだまを使つかうのは、べつにめずらしいことではありません。

明智あけちは、ニコニコ笑わらいながら、魔法まほう博士はかせの顔かおを見みて、つづけます。

「ところで、いつ、ぼくが、かえだまといれかわったのか、わかるかね。きみは魔術まじゅつの大家たいかだ。そのくらいのことは、ぼくが説明せつめいしなくても、わかるはずだね。」

魔法まほう博士はかせは、明智あけちに挑戦ちょうせんされて、しばらく考かんがえていましたが、やがて、うすきみの悪わるい笑わらいをうかべて、答こたえました。

「きみの病気びょうきそのものが、手品てじなだった。どうだ、あたっただろう。」

「フン、さすがにきみだ。いちばんもとのことに気きがついたね。それで?」

「きみは、ほんとうに病気びょうきをしたのだろう。しかし、それを利用りようして、起おきられるようになっても、まだ病気びょうきがなおらないと言いって、寝ねていた。そして、いつのまにか、きみはかえだまと入いれかわって、にせもののほうをベッドに寝ねかせておいた。ざんねんながら、おれは、その手てにひっかかって、にせものをきみだと思おもいこんで、あの部屋へやにとじこめたのだ。」

「うまい。そのとおりだよ。ところで、このほんもののぼくは、どうして、ここへはいって来きたんだろう。出入でいり口くちはきみの部下ぶかが見みはっているから、なかなかはいれないはずだがね。」

「それも、いまになればハッキリわかるよ。ぼくはあのとき、ふたりの部下ぶかを警官けいかんに化ばけさせて、きみの寝室しんしつをおそった。そして、ぼくがきみと話はなしているあいだに、ふたりの部下ぶかは奥おくへふみこんで、きみのおくさんと女中じょちゅうを、じゃましないように、しばって来きた。ぼくはそう思おもいこんでいた。ところが、まちがっていたのだ。きみが、どこかにかくれていて、ぼくのふたりの部下ぶかが、べつべつの部屋へやにいるとき、そのひとりのほうに飛とびかかって、たぶんピストルでおどかしたんだろう、警官けいかんの服ふくをぬがせ、それを、きみがその服ふくの上うえから着きこんだのだ。そして、まんまとぼくの部下ぶかになりすまして、にせの明智めいちをここへはこんで来きたのだ。」

「よくあてた。さすがは魔法まほう博士はかせだ。そして、にせの明智めいちを、あの部屋へやへ寝ねかせておいて、ぼくは警官けいかんの服ふくをぬぎすて、もとの明智あけちになって、ここへはいって来きたというわけさ。」

「そうか、いや明智あけち君くん、よく来きてくれた。どんなやりかたにもせよ、とにかく、きみが来きてくれたのはうれしいよ。おれは大おおいに歓迎かんげいするよ。まあ、くつろいでくれ。」

魔法まほう博士はかせは、デスクの上うえにあった、葉巻はまきたばこの箱はこを、明智あけちのほうにおしやって、一いち本ほんとるようにすすめましたが、自分じぶんもそれに火ひをつけて、むらさき色いろの煙けむりをフーッとふきだしながら、イスの中なかにグッタリと身みをしずめて、また、きみ悪わるくニヤリと笑わらいました。

「ところで、ぼくのほうでも、きみの奇術きじゅつをあてたんだから、きみにも一ひとつ、ぼくの奇術きじゅつの種たねをあててもらいたいもんだね。名めい探偵たんていは魔法まほう使つかいいじょうの知恵ちえを持もっているはずだからね。」

さっきのシッペイがえしです。こんどは魔法まほう博士はかせのほうから「どうだ、わかるか。」とばかり、挑戦ちょうせんしました。

「おもしろいね。よし、一ひとつあててみよう。まずさいしょは、ブラック・マジック(黒魔術こくまじゅつ)だったね。舞台ぶたいでいろいろなものを消けしたり、あらわしたりして見みせた。そのまえに、天野あまの君くんのうちの庭にわで、ウサギが宙ちゅうに浮うきあがって消きえたのも、やっぱり、一種いっしゅのブラック・マジックだった。きみか、きみの部下ぶかが、頭あたまから手てから足あしの先さきまで、まっ黒くろな布ぬのでつつんで、ウサギを持もちあげたり、ウサギに黒くろい布ぬのをかぶせて、見みえなくしたりしたんだ。そして、ナタかなにかで、庭にわの立たち木ぎにささくれをつくり、まるで虎とらがかじったように見みせかけて、みんなをこわがらせたんだ。

天野あまの勇一ゆういち君くんを舞台ぶたいから消けしたのも、同おなじことだ。きみの助手じょしゅが勇一ゆういち君くんに黒布くろめをかぶせて、舞台ぶたいの裏うらへはこび、そこでさるぐつわをはめ、手足てあしをしばって、建物たてものの外そとの森もりの中なかへかくしたのだ。警官けいかんたちが、あれほど、やさがしをしても見みつからなかったのだから、建物たてものの中なかにかくしたのじゃないね。

それから、きみは黒くろいヒョウのような怪物かいぶつにばけて、高たかい塔とうの外そとのかべをはいおりたね。かべに足あしがかりのようなものは、何なんもない。そこをきみは、まっさかさまに、はいおりた。世間せけんでは、その話はなしを聞きいて、きみが人間にんげんいじょうの魔力まりょくを持もっているように、うわさしたが、これがやっぱり手品てじなだった。きみは、ゴムの吸盤きゅうばんをつかったね。」

「フーン、そこまで気きづいていたのか。」

魔法まほう博士はかせは、おどろいたように、明智あけちの顔かおを見みました。

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