← Library‹ 虎の牙 機動警察隊

怪人かいじんを乗のせてきた自動じどう車しゃは、もとの町角まちかどで、じっと待まっていました。小林こばやし少年しょうねんも運転うんてん手しゅのとなりに、腰こしかけたままです。どうして尾行びこうもしないで、のんきらしくかまえていたのでしょう。それにはわけがあったのです。

にせの明智あけちがたちさって、まもなく、ほんとうの明智あけち探偵たんていが、自動じどう車しゃに近ちかづいて、小林こばやし君くんに耳みみうちしました。コツ、コツコツコツ、コツコツというあいずで、それがほんとうの明智あけち先生せんせいであることが、わかったのです。その時とき、探偵たんていは小林こばやし君くんに、なにか黒くろい小ちいさなものを二ふたつ手てわたしました。小林こばやし君くんはその一ひとつを、となりの運転うんてん手しゅにわたし、一ひとつは自分じぶんのポケットに入いれました。

それから三十さんじゅう分ふんあまり、待まちかねているところへ、また明智あけち探偵たんていがやってきました。

こんどはにせものです。コツコツのあいずをしないからです。

にせものは、あわただしく自動じどう車しゃに乗のりこむと、

「全速ぜんそく力りょくだッ。渋谷しぶや駅えきへ飛とばせろ。それからさきはおれがさしずする。」

とどなりました。

運転うんてん手しゅは言いわれるままに、車くるまをすすめます。命令めいれいどおりの大だい速力そくりょくです。

しばらくすると、にせ明智あけちが、へんな顔かおをして、窓まどの外そとを見みました。

「オイ、運転うんてん手しゅ、方角ほうがくがちがうじゃないか。渋谷しぶやだ。渋谷しぶや駅えきへ行いくんだ。」

しかし、運転うんてん手しゅは返事へんじもしないで、だまりこくって、運転うんてんしています。方向ほうこうをかえるようすはすこしもありません。

「コラ、聞きこえないのか。きさま、どこへ行いくつもりだッ。渋谷しぶやと言いうのがわからないのかッ。」

にせ明智あけちは、ふたたび、おそろしい声こえでどなりました。

すると、そのとき、へんなことがおこったのです。運転うんてん手しゅはとつぜん、車くるまをとめて、客席きゃくせきのほうへ、からだをねじ向むけました。小林こばやし君くんもおなじように、うしろ向むきになりました。四よんつの目めがじっと、にせ明智あけちをにらみつけ、ふたりとも小こがたのピストルを持もって、その筒口つつぐちを、にせ明智あけちの胸むねに向むけていたのです。

「手てをあげろ。」

ふたりが口くちをそろえて、切きりつけるように、さけびました。

にせものは、思おもわず両手りょうてを肩かたのへんにあげて、キョロキョロと目めを動うごかしました。すきがあれば、ドアをあけて、自動じどう車しゃから飛とびだそうという身みがまえです。

「窓まどの外そとをのぞいてごらん。逃にげるにはもうおそいよ。」

小林こばやし少年しょうねんが、勝かちほこったように、どなりつけました。

にせ明智あけちが思おもわずのぞく窓まどの外そと。アア、いつのまに、そんな用意よういができていたのでしょう。自動じどう車しゃの横よこにも、うしろにも、びっくりするほどの警官けいかん隊たいが、つめかけていたのです。オートバイが三さん台だい、警察けいさつ自動じどう車しゃが三さん台だい、それに乗のった警官けいかんの数かずは、二十にじゅう人にんいじょうなのです。

「オイ、二十にじゅう面相めんそう君くん、おどろいたかい。ぼくをだれだと思おもう? きみにさんざんひどいめにあった小林こばやしだよ。明智あけち先生せんせいの少年しょうねん助手じょしゅだよ。ハハハハハ、きみは方角ほうがくがちがうと言いったね。方角ほうがくなんかちがうもんか。行ゆく先さきは警視けいし庁ちょうにきまってるじゃないか。あのオートバイと、警察けいさつ自動じどう車しゃに護送ごそうされて、警視けいし庁ちょう行いきだよ。わかったかい。明智あけち先生せんせいがちゃんと電話でんわをかけて、警官けいかん隊たいを呼よびよせておいたんだ。この自動じどう車しゃが出発しゅっぱつする時ときから、あとをつけていたんだよ。これが機動きどう警察けいさつって言いうんだよ。ホラごらん、あの自動じどう車しゃには銀色ぎんいろのひげがはえているだろう。イナゴのように、ピンと一いち本ほん、銀ぎんの触角しょっかくを立たててるだろう。あれがラジオ・カーさ。警視けいし庁ちょう本部ほんぶとたえずラジオで連絡れんらくしながら、きみを追おっかけていたんだよ。教おしえてやろうか。あの自動じどう車しゃにはね、ぼくの先生せんせいの、ほんとうの明智あけち探偵たんていが乗のっているんだよ。きみを中村なかむら捜査そうさ係長かかりちょうにひきわたすためにね。」

小林こばやし君くんはこれだけおしゃべりをすると、スーッとりゅういんがさがったような気きがしました。

そして、自動じどう車しゃはまた進行しんこうをはじめました。言いうまでもなく警視けいし庁ちょうへです。さすがの二十にじゅう面相めんそうも、あきらめはてたように、グッタリとクッションに、もたれこんでいます。いかな魔法まほう使つかいも、こうなっては、もう手ても足あしも出でないのです。

オオ、ごらんなさい。向むこうに警視けいし庁ちょうのいかめしい建物たてものが見みえてきました。グングン近ちかづいていきます。わきの入いり口ぐちの石段いしだんが見みえます。石段いしだんの上うえに立たっているのは中村なかむら係かかり長ちょうです。そのうしろには、捜査そうさ第だい一いち課か長ちょうのふとった顔かおも見みえています。それから、そのそばに、子こどもが三さん人にんいるのはだれでしょう。アア、わかった。花田はなだ君くん、石川いしかわ君くん、田村たむら君くん、少年しょうねん探偵たんてい団だんの三さん人にんです。心配しんぱいなものだから、警察けいさつのおじさんにたのんで、わざわざ、やってきたのでしょう。

小林こばやし少年しょうねんはもうゆかいで、たまりませんでした。明智あけち先生せんせいといっしょに、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうの両手りょうてをとって、あの石段いしだんをのぼり、捜査そうさ課か長ちょうと係かかり長ちょうに、ひきわたす時ときのありさまを考かんがえると、うれしさに胸むねがドキドキしてきました。

「明智あけち先生せんせい、バンザーイ。」

小林こばやし君くんは思おもわず、心こころの中なかで、そうさけばないではいられませんでした。

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