← Library‹ 怪奇四十面相 魔法の種

しかし、読者どくしゃ諸君しょくん、手足てあしをグルグルまきにしばられて、たたみの上うえにころがっている小林こばやし君くんの顔かおを、ちょっと、ごらんなさい。もうだめだと、あきらめてしまって、グッタリしていたでしょうか。どうして、どうして。かれは、にこにこ笑わらっているのです。リンゴのようなほおは、すこし青あおざめていましたが、けっして、あきらめた顔かおではありません。

小林こばやし君くんは、自信じしんありげでした。なにか、思おもいもおよばないような、てだてを、ちゃんと、用意よういしていたのかもしれません。なわをとき、密室みっしつをぬけだすてだてです。そして、四十よんじゅう面相めんそうをひきとめるてだてです。百科ひゃっか事典じてんに化ばけたほどの小林こばやし君くんですから、なにか、とほうもない魔術まじゅつを思おもいついたのかもしれません。

よく見みると、うしろ手でにしばられて、ころがっている、小林こばやし君くんの右手みぎての指ゆびが、機械きかいのように、小ちいさく動うごいていました。人ひとさし指ゆびと中指なかゆびが、しばられたなわの中なかで、ゴシゴシ、ゴシゴシと、まるで、のこぎりのように、たえまなく動うごいているのです。

一いち分ふんもたたないうちに、なわの一いち本ほんが、プツンと切きれ、たちまちなわがゆるんで、両手りょうてが自由じゆうになってしまいました。

むろん、小林こばやし君くんの指ゆびがなわを切きったのではありません。指ゆびのあいだに、はさんでいた安全あんぜんカミソリのような、はものがなわを切きったのです。小林こばやし君くんは、さっき、よろいの中なかからひきだされ、二に階かいへはこばれるあいだに、ポケットにかくしていた、カミソリのようなはものを、指ゆびのあいだにはさんで、しばられたときの用意よういをしていたのです。

両手りょうてが自由じゆうになれば、あとは、なんでもありません。さるぐつわをとり、足あしのなわをほどき、見みるまに、からだぜんぶが、自由じゆうになってしまいました。

それから、小林こばやし君くんは立たっていって、入いり口ぐちのドアを押おしたり、引ひいたりしてみましたが、ビクともうごきません。たしかに、そとからかぎがかかっています。つぎに、小林こばやし君くんは、押おしいれの戸とをあけて、中なかをのぞいてみました。

「ウン、いいものがあるぞ。これをつかってやろう。」

ひとりごとを言いいながら、押おしいれの中なかから、三さん枚まいの座ざぶとんをだして、たたみの上うえにおくと、こんどは、きていたセーターをまくりあげて、腹はらのところに、かくしていた、一ひとつのふろしきづつみを、ひきだしたかと思おもうと、いきなり、そこにあぐらをかいて、ふろしきをひろげました。

ふろしきの中なかには、二十にじゅうセンチほどの長ながさの竹たけのつつが三さん本ほんと、しぼんだゴムふうせんのようなものが三みつ四よんつと、針金はりがねの輪わになったたばが一ひとつ、はいっていました。

小林こばやし君くんは、それらの品しなを見みて、さもおかしそうに、ニヤニヤと笑わらいました。どうやら、これらの奇妙きみょうな品々しなじなが、小林こばやし君くんの魔法まほうの種たねらしいのです。

小林こばやし君くんは、ふろしきの上うえを見みまわしていましたが、まず、しぼんだゴムふうせんの一ひとつをとって、口くちにあてると、プーッと、息いきをいれはじめました。

ふうせんは、みるみる、ふくれてきます。へんな色いろです。半分はんぶんほどは、まっ黒くろで、半分はんぶんほどは、すこし黄色きいろがかった白しろっぽい色いろがぬってあるのです。それが、またたくまに、小林こばやし君くんの顔かおと同おなじぐらいの大おおきさに、ふくらみました。小林こばやし君くんの顔かおがふたつになったような感かんじです。

そうです。ほんとうに顔かおがふたつになったのです。ゴムふうせんは、人間にんげんの首くびのような、かっこうにできていました。

頭あたまは黒くろく、耳みみと鼻はながすこし出でっぱり、まゆも、目めも、口くちもちゃんとかいてあります。しかも、それが小林こばやし君くんと、そっくりの顔かおなのです。

小林こばやし君くんは、ゴムふうせんのはじを糸いとでしばり、それを自分じぶんの顔かおのまえにもってきて、にらめっこをしました。

「ウフフフ……、よくできたねえ、おまえ。ぼくとそっくりだよ。まるで、鏡かがみを見みているようだ。」

小林こばやし君くんは、そんなことを言いって、ゴムふうせんのほうを、指ゆびでポンとはじいてみました。すると、少年しょうねんの顔かおをしたふうせんは、「いや、いや。」というように、首くびを左右さゆうにふるのでした。

小林こばやし君くんは、このゴムふうせんで、いったい、なにをしようというのでしょう。三さん枚まいの座ざぶとん、三さん本ほんの竹たけのつつ、針金はりがねのたば、これが、どんな魔法まほうの種しゅになるのでしょうか。竹たけのつつは、なんだか花火はなびのつつに、似にています。ふうせんと花火はなび、それから、座ざぶとんと針金はりがね、読者どくしゃ諸君しょくん、この秘密ひみつが、おわかりですか。つぎの章しょうを読よむまえに、ひとつ、小林こばやし君くんの魔法まほうをあててみてください。

老人ろうじんに化ばけた四十よんじゅう面相めんそうは、小林こばやし君くんを二に階かいにとじこめ、安心あんしんして、出でかける用意よういをしていました。机つくえの上うえをせいりし、金庫きんこにかぎをかけ、小僧こぞうをよんで、留守るすちゅうのことを言いいつけ、さていよいよ、出でかけようとしたときに、とつぜん、

「火事かじだあ、火事かじだあ。」

という、さけび声ごえが、二に階かいのほうから、ひびいてきました。

おどろいて、階段かいだんの下したにかけより、上うえを見みますと、かすかに白しろい煙けむりが、はいおりてきます。どうしたわけか、二に階かいで火事かじがおこったのです。さけんでいるのは、なんだか、小林こばやし君くんの声こえらしいのです。少年しょうねんは、密閉みっぺいされた部屋へやの中なかで、煙けむりにむせているのかもしれません。

「いけないッ、小林こばやしをたすけなければ……。」

四十よんじゅう面相めんそうは、とっさに、そう考かんがえました。かれは、いくら悪わるいことをしても、けっして、人ひとを殺ころさないというのを、じまんにしていました。もし、小林こばやし君くんがやけ死しにでもしたら、日ひごろのじまんが、むだになってしまうのです。

四十よんじゅう面相めんそうは、いきなり、階段かいだんを、かけあがりました。見みると小林こばやし君くんをとじこめた部屋へやの板戸いたどのすきまから、黄色きいろい煙けむりがもうもうと、ふきだしています。うたがいもなく、中なかに火事かじがおこっているのです。

小林こばやし君くんのさけび声ごえは、バッタリととだえてしまいました。火ひにかこまれて、もう気きをうしなっているのかもしれません。

四十よんじゅう面相めんそうは、いそいで、ポケットからかぎたばを、とりだしました。かれは、うちじゅうのかぎを、金かねの輪わにはめて、いつもポケットに、いれているのです。そのかぎたばから、一ひとつのかぎをよりだし、板戸いたどの錠じょうまえをひらきました。

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