← Library‹ 怪奇四十面相 暗号解読

その日ひのお昼ひるすぎ、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょの客間きゃくまに、三さん人にんの客きゃくがつめかけていました。黒井くろい博士はかせと、松野まつの、八木やぎの、三みつの黄金おうごんどくろの持もちぬしです。

明智あけちは宮永みやながさんのうちから帰かえると、一室いっしつにとじこもって、暗号あんごうをしらべましたが、三十さんじゅう分ふんほどで、すっかり、それをといてしまいました。そこで、三みつの黄金おうごんどくろの持もちぬしに電話でんわをかけ、事務じむ所しょにあつまってもらって、こんごの計画けいかくについて、相談そうだんをすることにしたのです。

客間きゃくまのテーブルをかこんで、明智あけち探偵たんてい、小林こばやし少年しょうねん、黒井くろい博士はかせ、ミシン会社かいしゃの社長しゃちょうの松野まつのさん、貿易ぼうえき会社かいしゃの社長しゃちょうの八木やぎさんの五ご人にんが、イスにかけていました。テーブルの上うえには、三さん人にんの客きゃくが持もってきた三みつの黄金おうごんどくろが、ならべてあり、明智あけちは白しろい紙かみを前まえにおいて、それに鉛筆えんぴつで、かな文字もじを書かきながら、暗号あんごうの説明せつめいをしているところです。

「この三みつのどくろに、ほりつけてある、かな文字もじを、ふつうに読よむと、こんなふうになりますね。」

明智あけちはそう言いいながら、紙かみの上うえに、つぎのようにしるしました。

「小林こばやし君くんから聞ききますと、いつかの晩ばんの、あなたがたの会合かいごうで、このひとつひとつの文句もんくを横よこにして、おわりのほうから、ぎゃくに、ならべてごらんになった。こんなふうにですね。」

そして、明智あけちはまた、紙かみにそれを書かいてみせるのです。

「これで、かなり意味いみが、ついてきました。しかし、この第だい一いちの文句もんくと、第だい二にの文句もんくとが、どうもうまくつづかない。そこで、あなたがたは、このあいだに、もうひとつ、第だい四よんの黄金おうごんどくろの文句もんくが、はいるのではないか、つまり、三みつだと思おもっていたどくろが、じつは、四よんつあるのではないかと、気きづかれたのですね。

ところが、その第だい四よんの黄金おうごんどくろを、四十よんじゅう面相めんそうが、さがしだしてくれた。われわれは、いまでは、その第だい四よんのどくろの呪文じゅもんを、ハッキリ知しっているのです。それを、ここへ書かいてみましょう。」

「上うえのほうは、縦たてに読よんだもの、下したのほうは、それを横よこにして、おわりのほうから、ならべたものです。さっきの三みつのどくろの文句もんくと同おなじやり方かたです。さて、この下したのほうの四よん行ぎょうの文句もんくを、さっきの三みつの文句もんくの第だい一いちと第だい二にのあいだに入いれてみましょう。

「これで、うまくつづいたようです。右みぎのほうから、縦たてにつづけて、読よんでみますよ。いいですか。」

明智あけちはえんぴつで、かなをたどりながら、つぎのように、読よみくだしました。

きのもりとざきどくろじま、どくろのさがんをさぐれよ、ながるるなんだのおくへと、ゆんでゆんでとすすむべし

「口調くちょうはいいですね。もう、ぬけたところはないようです。しかし、この意味いみをとくのは、ちょっと、むずかしい。百ひゃく年ねんもまえに書かかれたという、むかしの文章ぶんしょうですからね。でも、むかしの文章ぶんしょうを、読よみなれた人ひとには、じきにわかるのです。

いいですか、まず、『きのもりとざき』と読よむのです。ここで切きるのですよ。これは土地とちの名なまえです。きのというのは、漢字かんじで書かくと、『紀きの』となります。『紀伊きいの国くにの』という意味いみです。むかしは『きいの国くに』を『きの国くに』とも言いったのです。つまり、今いまの和歌山わかやま県けんですね。

そこで、私わたくしは、和歌山わかやま県けんの地図ちずをだしてみました。すると、新宮しんぐうと串本くしもとのあいだの海岸かいがんに、森戸崎もりとざきというみさきがあるのです。この文句もんくの『もりとざき』にあたるわけですね。

これで、『きのもりとざき』は、わかりました。つぎは『どくろじま』です。漢字かんじで書かけば髑髏島どくろじまですね。和歌山わかやま県けんの森もり戸崎とざきのそばに『どくろじま』という島しまがあるのではないでしょうか。

わたしは、友ともだちの名簿めいぼをくって、串本くしもとから東京とうきょうに出でてきている人ひとを、さがしあてました。そして、その人ひとに電話でんわをかけて、森戸もりと崎さきのそばに『どくろじま』という島しまがないかと、たずねてみました。すると、わたしの思おもったとおりでした。森戸もりと崎さきから四よんキロほど沖合おきあいに、ぞくに『どくろじま』とよばれている、小ちいさな、人ひとの住すんでいない島しまがあることが、わかりました。

その島しまは、森戸もりと崎さきのうしろの峠とうげの上うえから、ながめると、骸骨がいこつの頭あたまのような形かたちをしているので、むかしから、『どくろ島とう』とよばれているのだそうです。さしわたし六百ろっぴゃくメートルほどの、岩いわでできた、小ちいさな島しまで、そのまわりには、海面かいめんにあらわれていない岩いわがたくさんあって、海うみの水みずが、白しろいあわをたてて、うずをまいているという、あぶない場所ばしょだそうです。そのうえ、島しまのかたちがきみの悪わるいところなのですから、漁師りょうしたちも、めったに、この島しまへは、近ちかよらないということでした。なんと、宝物ほうもつを、かくすのには、くっきょうの場所ばしょではありませんか。」

明智あけちは、ここで、ちょっと、ことばをきって、三さん人にんの客きゃくを見みました。黒井くろい博士はかせたちは、黄金おうごんどくろのなぞが、いまにも、とけそうになってきたので、もう、いっしょうけんめいです。明智あけちの顔かおをじっとみつめたまま、身みうごきするものもありません。

「さて、第だい二に行ぎょうめは、『どくろのさがんを』で、きるのです。『さがん』というのは、漢字かんじで書かけば、『左眼ひだりめ』だろうと思おもいます。つまり、左ひだりの目めですね。どくろ島とうには、二ふたつの目めのように見みえる、岩穴いわあながあるのではないでしょうか。左眼ひだりめというのは、その左ひだりのほうの岩穴いわあなのことかもしれません。そこを『さぐれよ』です。その左ひだりの岩穴いわあなを、さがせという意味いみでしょう。

第だい三さん行ぎょうめの『ながるるなんだ』は、『流ながるる涙なみだ』です。涙なみだのことを、むかしは『なんだ』といいましたね。つまり、この行ぎょうは、『ながれる涙なみだの奥おくのほうへ』という意味いみです。

しかし、涙なみだとは、いったいなんでしょう。岩いわでできた島しまが涙なみだをながすはずがありません。この涙なみだというのは、おそらく、滝たきのように水みずがながれだしているのです。左ひだりの目めにあたる岩穴いわあなから、水みずが流ながれだしているので、それを、涙なみだにたとえたのでしょう。その水みずのながれだす穴あなの奥おくのほうへという意味いみです。

第だい四よん行ぎょうめの『ゆんでゆんで』は、これもむかしのことばで、弓手ゆんで弓手ゆんでと書かくのです。弓ゆみをもつほうの手て、すなわち左手ひだりての意味いみです。で、この行ぎょうは、左ひだりのほうへ、左ひだりのほうへ、『すすむべし』、すすんで行いけというのですね。

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