← Library‹ 怪奇四十面相 どくろの歯

黒井くろい博士はかせと八木やぎさんとは、あんこくの洞窟どうくつの中なかに、あいたいして立たっていました。おたがいの懐中かいちゅう電灯でんとうにてらされた、ふたりの顔かおには、はげしい敵意てきいがもえています。

「きみはなにも知しらないだろうが、きみたち三さん人にんが飛行ひこう機きで出発しゅっぱつしたあとで、東京とうきょうにはみょうなことが、おこっていたのだ。」

八木やぎさんが、はじめました。ほうたいで半分はんぶんかくれた顔かおに、するどい目めが光ひかっています。

「きみたちが出発しゅっぱつしたあとで、ぼくは、黒井くろい博士はかせ邸ていに電話でんわをかけた。しかし、いくらベルがなっても、だれも電話でんわ口くちへ出でてこない。なんど、かけても同おなじことだ。そこで、ぼくは、ふと、うたがいをおこした。念ねんのために、自動じどう車しゃで博士はかせ邸ていへ行いってみた。玄関げんかんがしまって、ひっそりしてる。だれもいないらしい。博士はかせがいないのはわかっているが、博士はかせの娘むすめさんと、やとい人にんがいるはずだ。おかしいと思おもったので、ぼくは窓まどをやぶって、うちの中なかにはいってみた。すると、小ちいさい娘むすめさんが、さるぐつわをはめられ、手足てあしをしばられて、部屋へやにたおれていた。おとうさんは? と聞きくと、二に階かいだというので、二に階かいをさがしまわった。すると、げんじゅうにかぎをかけた、押おしいれの中なかに、黒井くろい博士はかせその人ひとが、しばられたまま、正体しょうたいもなく、ねむっていた。麻酔ますい薬やくをのまされたのだ。

黒井くろい博士はかせがふたりになった。ひとりは飛行ひこう機きで出発しゅっぱつした。ひとりは、家いえの中なかでしばられていた。どちらが、ほんとうの博士はかせであるかは、いうまでもない。しばられていたほうが、ほんものなのだ。すると、ここにいる黒井くろい博士はかせは、まっかなにせものに、ちがいない。」

「夢ゆめでも見みたんだろう。そんな、バカなことが、あってたまるものか。きみは、いったい、わしをだれだと言いうのだ。」

黒井くろい博士はかせは、いたけだかに、つめよりました。ところが、八木やぎさんのほうは、そのとき、にこにこと、笑わらったのです。その笑わらい顔がおには、どこやら見みおぼえがあります。八木やぎさんは、あいての顔かおを、まっすぐに、指ゆびさしながら、さけびました。

「きみは、怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうだッ。」

それを聞きくと、博士はかせはタジタジとなりましたが、まだ、かぶとはぬぎません。

「しょうこがあるか。」

「しょうこは、これだッ。」

さけびざま、八木やぎの手てがすばやく、博士はかせの頭あたまにのびました。そして、アッというまに、半白はんぱくのカツラが、ひんむかれ、ロイドめがねが、はねとばされ、三角さんかくのあごひげが、むしりとられました。その下したから出でてきたのは、黒々くろぐろとしたかみの、わかわかしい顔かおです。

「さすがに変装へんそうの名人めいじんだ。黒井くろい博士はかせとソックリだったよ。だが、もうこうなったら、おしまいだね。きみは、ふくろのネズミだ。」

化ばけの皮かわを、むかれた、四十よんじゅう面相めんそうは、もう、悪わるびれてはいません。かれのほうでも、ニヤリと、笑わらいかえしました。

「フーム、えらい。さては、きみは……明智あけち小五郎こごろうだなッ。ほうたいの変装へんそうとは古ふるいぞ。それをとって、すがおを見みせてもらいたいな。」

四十よんじゅう面相めんそうが見みやぶったとおり、八木やぎさんに変装へんそうしていたのは、名めい探偵たんてい、明智あけち小五郎こごろうでした。かれは笑わらいながら、にせけがのほうたいを、とりさりました。

かくして、おたがいに、うらみかさなる巨人きょじんと怪人かいじんとは、地底ちていのあんこくの中なかで、黄金おうごんの大だいどくろを前まえにして、異様いような対面たいめんをとげたのです。

「ワハハ……、明智あけち君くん、ひさしぶりだね。しかし、きみはたったひとりだ、小林こばやしのチンピラも、ふたりの青年せいねんも、よく寝ねている。一いち対たい一いちだね。ところが、おれのほうには、まもなく十じゅう人にんの味方みかたがやってくる。一いち対つい十じゅうでは、いくら名めい探偵たんていでも、手ての出だしようがあるまい。気きのどくだが、こんどもまたおれの勝かちだね。」

四十よんじゅう面相めんそうは、おちつきはらって、せせら笑わらうのでした。しかし、明智あけちのほうでは、そんなことには、すこしも、おどろきません。

「れいの快速かいそく艇ていの十じゅう人にんだね。ところが、こっちには、十じゅう五ご人にんの警官けいかん隊たいが、いまごろは、もう、この島しまへ上陸じょうりくしているんだよ。ぼくはむこうの村むらにつくまえに、とちゅうで、警察けいさつ署しょによって、うちあわせておいたのだ。

四十よんじゅう面相めんそうと聞きいて、警察けいさつの人ひとたちは、むしゃぶるいをした。そして、くっきょうな十じゅう五ご人にんの警官けいかんが、大おおがたの快速かいそく艇ていにのって、もう島しまについているころだ。きみのほうの快速かいそく艇ていは、警察けいさつ船せんと見みて逃にげだしたか、それとも、この岩いわの上うえで、ひとりのこらず警官けいかん隊たいにほばくされたか、いずれにしても、もう、きみの味方みかたは、ひとりもいないはずだよ。」

それを聞きくと、四十よんじゅう面相めんそうのひたいに、ふといかんしゃくすじが、ムクムクと、ふくれあがりました。顔色かおいろは激怒げきどのあまり、むらさき色いろになっています。

「フーム、よくも、そこまで、手てがまわった。さすがは明智あけちだ。ほめてやるぞ……。こうなれば、おれは、ふくろのネズミだ。ふくろのネズミが、なにをやるか、きさまも、よく知しっているだろう。おれは人殺ひとごろしはきらいだ。しかし、おいつめられたネズミは、死しのものぐるいで、なんだってやるぞッ……。これを見みろ。サア、きさまのいのちと、ひきかえだ。警官けいかん隊たいが来こないうちに、おれを逃にがすか。それとも、きさまが死しぬか。どちらをとる?」

四十よんじゅう面相めんそうは、いきなりポケットからピストルをとりだして、明智あけちの胸むねにつきつけました。しかし、明智あけちはビクともしません。やっぱりにこにこ笑わらいながら、あいての青あおざめた顔かおを、ながめています。

「そこをのけッ。でないと、ぶっぱなすぞ。」

「気きのどくだが、逃にがすことは、できない。うつなら、うってみるがいい。」

四十よんじゅう面相めんそうは、明智あけちのおちついた、笑わらい顔がおを見みると、むしょうに、はらがたちました。もう、がまんができないのです。ピストルのひきがねにかかった指ゆびが、グーッと、まがりました。カチッと、ピストルは発射はっしゃされたのです。

名めい探偵たんていは胸むねから、血ちを流ながして、たおれたでしょうか。いや、どうしたわけか、明智あけちはへいきな顔かおで、にこにこしています。あせった四十よんじゅう面相めんそうは、またカチッと、ひきがねをひきました。こんどもだめです。すこしも手てごたえがありません。

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