小林君はそのとき、なんともいえぬ、みょうな感じにおそわれました。
部屋には、だれもいないことがわかっているのです。それでいて、なんだか、すぐそばに、人がいるような気がします。だれかが、ジーッと、自分のほうを、見つめているような気がします。
小林君は、思わず、部屋の中を見まわしました。しかし、どこにも、人のかくれるような場所はありません。
そうして、しばらくのあいだ、墓場のように、しずまりかえった広間に、立ちつくしていましたが、ふと、どこかで、かすかなもの音がしました。
ギョッとして、ふりむくと、部屋の入り口に、白いものが立っていました。びっくりするほど、うつくしい少年でした。小林君もかわいらしい顔をしていましたが、この少年のは、かわいらしいというよりも、うつくしいのです。
戴冠式の行列の中にいる、西洋の少年貴族のような、まっ白な軍服を着ていました。えりと肩に、ピカピカ光るかざりがつき、手くびのところにも、金モールのすじがあり、肩から、わきの下にかけて、金色のひもがまといつき、白ズボンの両がわには、太いまっかなすじが、とおっています。
小林君は、この少年も、ロボットではないか、あのうつくしい顔は、ロウでできているのではないかと思いました。
「ヤア、いらっしゃい。小林君ですね。」
その少年が、にこにこしながら、さわやかな声で呼びかけました。さっきの黒んぼうのようなガラガラ声ではありません。たしかに人間の声です。
「あなたは、だれですか。ぼくは虎井先生にお目にかかりたいのですが。」
小林君が、あっけにとられたような顔で言いますと、うつくしい少年は、こともなげに答えました。
「わかってますよ。ぼくは虎井先生の少年助手ですよ。ちょうどきみが、明智先生の少年助手であるようにね。うちの先生は、きみをまっています。いま、あんないしますよ。」
小林君は、それを聞いて安心しました。
「どうして、そんなふうをしているの。まるで軍人みたいだね。それがきみのふだんの服ですか。」
「そう。うちの老先生は、こんなピカピカした服がすきなんだよ。その服が、おまえに、いちばんよく似合うって。」
ふたりの、おなじ年ごろの少年は、すぐに、したしくなってしまいました。
「きみの先生は、ずいぶんかわってるんだねえ。ロボットの黒んぼうに、玄関番をさせたりして……。」
「ハハハ……、かわっているよ。なんでもかわっているんだ。きみは、これから、たくさんおどろくことがあるよ。しかし、うちの先生は、えらい学者だよ。先生の発明を見たら、きみはきっと、びっくりしてしまうよ。」
うつくしい少年は、さも、ほこらしげに言うのでした。
「ねえきみ、ぼくは、さっき、ここでひとりでまっていたとき、だれかが、すぐ近くにいるような気がしたんだよ。へんだねえ。この部屋には、かくし戸でもあるんじゃないかい。」
「かくし戸もあるよ。しかし、きみがさっき、だれかいると思ったのは、ぼくだったのさ。」
「エッ、きみだって。きみ、どこにかくれていたの?」
小林君がびっくりして、たずねますと、少年は、ニヤニヤ笑いながら、かべにはめてある、大きな鏡を、ゆびさしました。
「この中だよ。」
「エッ、鏡の中だって?」
「そうじゃない。この鏡の、むこうがわの部屋にいたんだよ。この鏡は、こちらから見れば、ふつうの鏡だけれど、うらから見ると、この部屋の中が、すっかり見すかせるんだよ。あちらの部屋にいれば、この鏡は、大きなガラス窓と、おんなじなんだ。それで、ぼくは、この鏡のむこうがわから、しばらく、きみのようすを、ながめていたんだよ。だもんだから、きみは、近くに人がいるような気がしたんだ。」
「すると、客をこの部屋にいれておいてまず、鏡のうちから、のぞいて見るんだね。まるで探偵のうちみたいだね。」
「そうだよ。うちの老先生は、探偵がすきなんだよ。だから、ここには、いろんなしかけがある。そして、明智先生のこともよく知っているんだ。うちの先生は、いつも、きみをほめているよ。子どもにしては、えらいもんだって。ぼく、そのたびに、きみが、うらやましくなっちまう。」
少年はそう言って、ニッコリ笑いました。フサフサしたかみの毛の下に、白いひたい、かたちのいいまゆ、うつくしい目、赤いくちびるから、ニッとあらわれたやえ歯、小林君は、この少年がすっかり、すきになってしまいました。
「さっき電話で聞いたんだけど、宇宙怪人があらわれたんだってね。きみもそれを知っているの?」
「ウン、ぼくもあいつを見たよ。それで、先生は、明智先生にあいたいっておっしゃるのさ。」
「明智先生も、じきここへくるよ。で、きみは、いつ、どこで、宇宙怪人を見たの?」
「ゆうべ、ここで。」
「エッ、ここで。」
少年は右手で、部屋のガラス窓を、さししめしました。その窓のそとには、このやしきをかこむ森の木が、青黒くしげっています。
「あのガラスのそとから、のぞいていたんだよ。ホラ、あの銀の仮面さ。ぼく、ゾーッとして、気をうしないそうだった。いやな仮面だねえ。」
「それで、どうしたの?」
「先生に知らせたのさ。そして、みんなで庭をさがしたけれど、もう、どこにもいなかった。きっと、空へ飛んでいったのだよ。それから、つい一時間ほどまえに、また、へんなことがあった。ホラ、これだよ。これがうちの玄関のドアにささっていたんだ。」
少年が、ポケットからとりだしたのは、長さ二十センチぐらいの、銀色の矢のようなものでした。その銀色は、星の国の金属でできているのか、銀仮面と、そっくりの色をしていました。
「日本に、むかし白羽の矢っていうのがあったんだってね。白羽の矢が屋根にささったうちが、悪ものにねらわれるんだって。先生は、それとおなじ意味だろうと、おっしゃるのだよ。つまり、宇宙怪人はしゅうねんぶかく、うちの先生を、さらっていこうとしているのさ。」
「フーン、それで、明智先生に電話をかけたんだね。」
「そうだよ。うちのまわりには、いま、たくさんの刑事が見はりをしているけれど、それでも、安心ができないんだ。」