← Library‹ 宇宙怪人 百万人の目撃者

平野ひらの少年しょうねんと北村きたむらさんが、そんな話はなしをしてから、半月はんつきほどのちの、ある土曜どよう日ひの午後ごご、平野ひらの少年しょうねんは、おとうさんにつれられて、銀座ぎんざに近ちかい大おおきな映画えいが館かんで、着色ちゃくしょくの漫画まんが映画えいがを見みました。そして、映画えいが館かんを出でたのは、夕ゆうがたの五ご時じごろでした。

すこし散歩さんぽしようというので、ふたりは銀座ぎんざ通とおりに出でて新橋しんばし駅えきのほうへ歩あるいていきました。銀座ぎんざ通とおりのショウウインドウには、もう電灯でんとうがついて、ネオンの広告こうこくも、かがやいていましたが、空そらはまだ、うすあかるいのです。電灯でんとうのひかりと、空そらのあかるさが、ちょうど同おなじくらいという、あの、なんとなく、へんな気きもちのする時間じかんでした。すれちがう人ひとのすがたが、ひどくぼんやりして、影かげのように感かんじられる、たそがれのひとときです。

銀座ぎんざ通とおりは、いつものように、たいへんな人通ひとどおりでした。平野ひらの少年しょうねんは、ウッカリすると、はぐれそうになるので、おとうさんの手てを、しっかりにぎって、歩あるいていましたが、どういうわけか、ふと、空そらが見みたくなりました。いま、空そらを見みれば、きっと、なにか、ふしぎなことがあるというような、みょうな気きがしたのです。それで、いままで、ショウウインドウばかり見みていた目めをはなして、ヒョイと、空そらを見みあげました。

晴はれてはいますが、すこしも風かぜのない、なんとなく、どんよりした空そらでした。星ほしが二ふたつ三みつ、かすかに光ひかっています。そのとき、平野ひらの君くんは、なぜか空そらとぶ円盤えんばんのことを、おもいだしました。あの円盤えんばんを地球ちきゅうへ飛とばせた星ほしは、いったい、どの星ほしだろうと、遠とおい遠とおい、べつの世界せかいのことを考かんがえたのです。

「どうしたんだ。はやく、あるかないか。」

平野ひらの君くんが、立たちどまってしまったものですから、おとうさんが、グッと手てをひっぱって、しかるように、おっしゃるのでした。

そのときです。平野ひらの少年しょうねんは、ギョッとして、心しんぞうが、のどのへんまで、とびあがってくるような気きがしました。ああ、あれは、まぼろしでしょうか。ちょうど頭あたまの上うえのへんの、高たかい高たかい空そらを、白しろっぽく光ひかる、おさらのような丸まるいものが、ひじょうなはやさで、スーッと、飛とんでいくではありませんか。

「どうしたんだ。一郎いちろう、なにをみつめているんだ。」

おとうさんが、また、声こえをおかけになりました。一郎いちろうというのは、平野ひらの少年しょうねんの名なです。

「おとうさん、ごらんなさい。アレアレ、また一ひとつ、オヤッ、二ふたつになった。三みつ、四よんつ、ああ、あすこにも、五いつつ飛とんでいる。ね、おとうさん、見みえるでしょう。」

おとうさんは、一郎いちろう少年しょうねんが、気きでもちがったのではないかと、びっくりして、おもわず、空そらを見みあげました。目めがなれるまでは、よくわかりませんでしたが、一郎いちろう少年しょうねんが、あれ、あれとゆびさすので、そのほうを、じっと見みていますと、へんなものが、目めにとまりました。銀色ぎんいろにひかる、ひらべったい丸まるいものです。それが、一ひとつ二ふたつ三みつ四よんつ五いつつ、ひじょうなはやさで、銀座ぎんざ通とおりをよこぎって、西にしのほうへ飛とんでいます。平野ひらの一郎いちろう少年しょうねんは、まぼろしを見みたのではありません。おとうさんにも、おなじものが見みえたのです。

銀座ぎんざの人通ひとどおりの中なかで、親子おやこが空そらを見みあげて、さもおどろいたように、立たちどまっているのですから、たちまち、人ひとのちゅういをひきます。ひとり立だち、ふたり立たち、やがて、そのへんをあるいていたおおぜいの人ひとが、みな立たちどまって、空そらを見みあげました。

「やあ、風船ふうせんだ。風船ふうせんが、飛とんでいる。」

ひとりの少年しょうねんが、さけびました。

「風船ふうせんじゃない。ゴム風船ふうせんが、あんなにひらべったいものか。あんなに、はやく飛とぶものか。円盤えんばんだ! 空そらとぶ円盤えんばんだ!」

ひとりの青年せいねんが、どなりました。

すると、それが、つぎからつぎへと、つたわったものですから、さあ、たいへんです。銀座ぎんざの人ひとあしが、パッタリと、とまってしまい、みんなが、空そらを見みあげました。銀座ぎんざじゅうの何千なんぜん何なん万まんという人ひとが、いっしゅんかん石いしにでもなったように動うごかなくなってしまったのです。じつに、異様いような光景こうけいです。すると、それに気きづいた自動じどう車しゃがとまり、自転じてん車しゃがとまり、やがて電車でんしゃさえもとまるさわぎでした。

しかし、それらの人々ひとびとが、みんな円盤えんばんを見みたわけではありません。「どこに、どこに。」といっているうちに、五いつつの円盤えんばんは、銀座ぎんざの空そらをよこぎって、たちまち、見みえなくなってしまいました。

「あっちだ、あっちだ。」

人々ひとびとは、口々くちぐちにわめきながら、あるいは数寄屋橋すきやばしのほうへ、あるいは日比谷ひびやのほうへ、つなみのように、なだれをうってかけだしました。でも、空そらとぶ円盤えんばんに、人間にんげんの足あしがおっつけるものではありません。かけだした人々ひとびとも、やがて円盤えんばんを見みうしなってしまいました。

気きがつくと、銀座ぎんざ通とおりの屋根やねという屋根やねには、黒くろい人ひとかげがウジャウジャとうごめいていました。商店しょうてんの店員てんいんなどが、円盤えんばんのゆくえを見みさだめようとして、われさきにと、屋根やねへのぼったのです。しかし、矢やのように飛とぶ円盤えんばんは、もう、屋根やねからも見みえなくなってしまいました。

「新聞しんぶん社しゃに電話でんわをかけろ。そして、飛行ひこう機きでおっかけさせるんだ。」

そんなことをわめきながら、商店しょうてんのカウンターの電話でんわ機きに、しがみつく人ひともありました。おしえられるまでもなく、新聞しんぶん社しゃの人ひとたちも、とっくに、空そらとぶ円盤えんばんに気きづいていました。有楽町ゆうらくちょうにたちならぶ、大だい新聞しんぶん社しゃの屋上おくじょうには、おおぜいの新聞しんぶん記者きしゃが、空そらをながめて、わめいていました。すばやい写真しゃしん部ぶ員いんは、飛とびさる円盤えんばんにカメラをむけました。

新聞しんぶん社しゃでは、飛行ひこう機きでおっかけることも、むろん気きづいていて、電話でんわで、そのてはいをめいじましたが、飛行ひこう機きが飛とびあがるまでには、円盤えんばんは十じゅうマイルもむこうへ、飛とびさっていることがわかったので、これは、さたやみになりました。

それよりも、円盤えんばんの飛とびさった方角ほうがくにある、新聞しんぶん社しゃの支局しきょくに電話でんわをかけ、支局しきょくから支局しきょくへと、リレー式しきに、円盤えんばんのゆくえを見みさだめることをおもいつき、すばやく、そのてはいをしました。また、警察けいさつも、おなじ考かんがえから、電話でんわれんらくによって、空そらの非常ひじょう線せんをはり、そのゆくえをつきとめようとしました。

平野ひらの少年しょうねんとおとうさんとは、もとの場所ばしょにボンヤリとつったったまま、銀座ぎんざはじまっていらいの、この大おおさわぎをながめていましたが、いつまでそうしていても、はてしがないので、新橋しんばし駅えきから電車でんしゃにのって、世田谷せたがやの家いえに帰かえることにしました。

Click a word · hold for the whole sentence 0%