← Library‹ 宇宙怪人 はねのある大トカゲ

ところが、それから一いち月がつほどのあいだなにごとも、おこりませんでした。日本にっぽんに「空そらとぶ円盤えんばん」がおちたということは、世界せかいじゅうに知しれわたって、各国かっこくの新聞しんぶんにデカデカと、その記事きじがのりましたが、円盤えんばんは、丹沢たんざわ山やまから消きえたまま、なんのおとさたもなく、はねのある大おおトカゲの怪物かいぶつも、どこにも、すがたをあらわしません。まるで、あのさわぎは、東京とうきょうじゅうの人ひとが、みんなそろって、おそろしい夢ゆめを見みただけではないかと、思おもわれるほどでした。

かわったことといえば、たったひとつ、平野ひらの少年しょうねんのまわりに、ちょっと、みょうなことが、おこっていました。

それは、平野ひらの君くんのだいすきな北村きたむらさんが、ゆくえ不明ふめいになったことです。北村きたむらさんは、まえにもしるしたように、平野ひらの君くんの近ちかくの小ちいさい家いえに、耳みみのとおい、やといばあさんと、ふたりきりで住すんでいたのですが、円盤えんばん事件じけんがあってから、二ふた日かほどのち、「ちょっと散歩さんぽしてくる。」といって、家いえを出でたまま、ゆくえ不明ふめいになってしまったのです。

ばあさんが、さわぎだして、警察けいさつにもとどけ、こころあたりを、くまなくさがしたのですが、北村きたむらさんは、どこにもいませんでした。

そして、ゆくえ不明ふめいのまま、一いち月がつばかりたってしまったのです。

ある日ひの午後ごごのこと、平野ひらの少年しょうねんが、おうちの近ちかくの原はらっぱを歩あるいていますと、あれほどさがしてもみつからなかった北村きたむらさんに、ヒョッコリと出であいました。

しかし、北村きたむらさんは、人ひとちがいではないかとおもうほど、やつれはてていました。頭あたまの毛けはモジャモジャになり、ほおから、あごにかけて、ぶしょうひげが、うすぐろくはえ、顔色かおいろはまっさおで、服ふくもしわくちゃになって、まるで、ゆうれいのようなすがたでした。

「北村きたむらさん、北村きたむらさんでしょう。いったい、どうしたの?」

平野ひらの君くんが、声こえをかけますと、北村きたむらさんは、やっと気きづいて、

「オオ、平野ひらの君くんか。ぼくはおそろしいめにあった。逃にげだしてきたんだ。いまに、おっかけてくる。こんなところで、グズグズしちゃいられない。サ、ぼくといっしょに来きたまえ。きみには話はなしておきたいことがあるんだ。」

と、うしろをふりむきながら、いまにも、おってがせまってくるような、おびえかたです。

「おじさんのうちへ、いきましょう。ばあやさんが、心配しんぱいしているんですよ。」

「イヤ、ぼくのうちへは、いけない。あぶないんだ。それより、いいところへいこう。通とおりへ出でて、自動じどう車しゃをひろおう。」

「エ、いいとこって、どこです。」

「どこでもいい、だまってついて来きたまえ。車くるまにのってから話はなす。」

大通おおどおりへ出でると、ちょうど、むこうから走はしってきた自動じどう車しゃをとめて、おおいそぎで、とびのりました。平野ひらの君くんも、しかたがないので、つづいてのりこみます。

「どうしたんです。わけを話はなしてください」

「それは、いまにわかる。むこうへついてから、話はなす。」

「むこうって、どこなんです。」

「それはいってもいい。きみも名なまえは知しってるだろう。明智あけち小五郎こごろう先生せんせいのうちさ。」

「え、じゃあ、あの名めい探偵たんていの……。」

「そうだよ。警察けいさつにも知しらせなければならないが、まず明智あけち探偵たんていだ。ぼくは明智あけちさんには、まえに二に、三さんどあって、よく知しっているんだよ。こういうときには、あの人ひとに相談そうだんするのが、いちばんいい。」

それきり、北村きたむらさんはだまりこんでしまいました。

話はなしかけても、返事へんじもしないのです。

やがて、自動じどう車しゃは、千代田ちよだ区くにはいり、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょの前まえにとまりました。ベルをおすと、リンゴのようなほおの小林こばやし少年しょうねんが出でてきました。名めい探偵たんていの助手じょしゅとして、せけんに知しられた少年しょうねんです。

さいわい明智あけち探偵たんていも、うちにいたので、すぐ洋風ようふうの客間きゃくまにとおされ、まるいテーブルをかこんで、明智あけち探偵たんてい、小林こばやし少年しょうねん、北村きたむらさん、平野ひらの少年しょうねんの四よん人にんが、席せきにつきました。

あいさつがすむと、北村きたむらさんは、いそいで話はなしはじめます。

「明智あけち先生せんせい、ぼくは一いち月がつのあいだ、空そらとぶ円盤えんばんの中なかにとじこめられていたのです。けさ、やっと、すきをみつけて、逃にげだしてきたのです」

「エッ。」

きいている三さん人にんは、顔かお見みあわせて、おもわず、おどろきの声こえをたてました。あの円盤えんばんは、どこかへ、飛とびさったとばかり、思おもっていたからです。

「円盤えんばんって、あの丹沢たんざわ山やまへおちた円盤えんばんですか。そして、それはいったい、どこにあるのです。」

明智あけち探偵たんていが、あわただしく、たずねました。

「やっぱり丹沢たんざわ山やまの、もっとおくのほうの、ふかい森もりの中なかへ、位置いちをかえたのです。きこりも、猟師りょうしも通とおらないような、おそろしい山やまおくです。」

「では、なぜ、ふもとの警察けいさつに知しらせて、山狩やまがりをさせなかったのです?」

「それはむだですよ。円盤えんばんは、自由じゆう自在じざいに飛とべるのです。ぼくが逃にげだしたことは、とっくに気きづいてますから、同おなじ場所ばしょに、じっとしているはずがない。どこか、ずっとはなれたところへ、飛とんでいますよ。それが、どこだかは、だれにもわからないのです。」

北村きたむらさんの言いうとおり、円盤えんばんは、おそろしい早はやさで飛とべるのですから、警官けいかん隊たいでかこんでみても、なんにもなりません。たとえ飛行ひこう機きでおっかけたところで、とても、おっつけるものではないでしょう。じつに、やっかいな、しろものです。

「いったい、きみは、どうして、円盤えんばんにとじこめられたのです?」

明智あけち探偵たんていが、たずねました。

「それはこうですよ。あの円盤えんばんが、丹沢たんざわ山やまの中なかへおちた、よくよく日ひのことです。ぼくは、ひとりぼっちで、たんぼ道みちを歩あるくのがすきなのですが、その日ひも、世田谷せたがや区くのはずれの、ひろいたんぼ道みちを、ブラブラ歩あるいているうちに、日ひがくれてしまったのです。暗くらくて、足あしもとが見みえないようになったので、いそいで、うちへ帰かえろうとしていると、とつぜん、ぼくの前まえに、スーッと立たったやつがあります。むこうから歩あるいてきたのではなく、どこか上うえのほうから落おちてきたように、スーッとそこへ立たったのです。

これが、夜目よめにもわかる、はねのある大おおトカゲでした。新聞しんぶんに書かいてあったのと、そっくりのすがたです。

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