それから、北村さんは、明智探偵につれられて、警視庁へいきました。そして、宇宙怪人について、くわしく報告したのです。ひじょうな大事件ですから、このことが、警視総監から、内閣につたえられ総理大臣の耳にもはいりました。国をあげてのさわぎです。あくる日の新聞には、戦争の記事と、同じぐらいの大きさで、北村さんの話が、デカデカとのり、日本じゅうの人を、ふるえあがらせてしまいました。
銀の仮面をかぶった、人間と、おなじ服をきた怪物が、東京の町のどこかに、まぎれこんでいる。いや、東京とはかぎりません。飛行機のように、早くとべるのですから、大阪にでも、名古屋にでも、そのほか、どこの町にだって、あらわれることができるのです。その怪物が、ひょっとしたら、じぶんのすぐ近くに、かくれているのではないかと考えると、おそろしさに、身の毛もよだつ思いでした。
それから、数日のあいだは、なにごともなく、すぎさりましたが、ある日のこと、またしても、人々をアッといわせるような記事が、新聞にのりました。
こんどは、外国のできごとです。このあいだ、銀座の空をとんだのと、おなじような「空とぶ円盤」が、アメリカのニューヨーク市の空にあらわれたというのです。いや、そればかりではありません。その円盤が、ある山の中に着陸して、宇宙怪人がはいだしてきたのを、なん人かの人が見た、というのです。やっぱり、コウモリのような、はねをもち、トカゲのような、からだのやつでした。
日本だけではなく、世界じゅうのさわぎになったのです。星の世界から、生きものが飛んできたなんて、地球はじまっていらいの大事件ですから、新聞は毎日そのことばかりをのせ、ラジオは、そのことばかりをわめきたて、どこの国でも、人がよれば、宇宙怪人のうわさで、もちきりでした。
もしも、「空とぶ円盤」が、何千、何万と、天がまっ黒になるほど、たくさん、この地球へおしかけてきたら、そして、それがみな地球に着陸して、中から何万、何十万というトカゲ人種がとびだして、一しゅんかんに動物を灰にしてしまう、あのおそろしい武器で、せめてきたら、たちまち、地球は、星の世界の怪物のために、せめほろぼされてしまうでしょう。
世界じゅうの学者が、いろいろな意見を、新聞や雑誌に書きました。そのなかに、つぎのようなことを書いたイギリスの学者がありました。
「地球に近い星で、生きものがすんでいるのは、おそらく金星であろう。金星では、生きものが、ふえて、土地がせまくなったのかもしれない。それとも、気候がだんだん寒くなるとか、なにか、すみにくい変化がおこったのかもしれない。そこで、金星の生きものは気候のよい地球を、じぶんたちの領地にして、人間をせめほろぼし、自分たちが地球にすみたいと、考えたのかもしれない。それには、まず、地球のありさまをよくしらべなければならない。人間がどれほどの力をもっているかを、さぐらなければならない。いま、アメリカと日本をさわがせているトカゲ人種は、そのスパイとして、やってきたのではなかろうか。」
これを書いたのは、えらい学者でしたから、世界じゅうの新聞が、その意見をのせ、世界じゅうの人が、それを読みました。そして、おそろしさに、ふるえあがってしまったのです。
大地震よりも、大戦争よりも、いくそう倍も、おそろしいことでした。あの、きみの悪いトカゲ人種のために、この地球ぜんたいが、ほろぼされてしまうのかと思うと、世界じゅうのひとが、気もくるわんばかりの恐怖に、とりつかれてしまいました。
それから、数日たったある日のことです。平野少年のおうちのそばに、おそろしいことが、おこりました。
平野一郎少年には、ひとりのおねえさまがありました。まだ音楽学校の生徒ですが、バイオリンの天才といわれていました。そのうえ、顔やすがたがうつくしいことでも、たいへんなひょうばんでした。まるで天女のように、きれいなおねえさまだったのです。
その日、平野君は、おねえさまにつれられて、お友だちのところへ遊びにいったのですが、夕がた、もう、あたりがうすぐらくなってから、ふたりで、おうちへ帰ってきました。
そのへんは、さびしい、やしき町で、とある町かどに、ちょっとしたあき地があって、そこに、ひじょうに古い、カシの大木が、空をおおって、巨人のようにそびえていました。遠くから、目じるしになるような、大きなカシの木なのです。
ふたりが、その下を通りかかったとき、平野少年は、なにげなく、頭の上を、見あげましたが、すると、どうしたのか、少年は、ピッタリ、そこに立ちどまったまま、動かなくなってしまいました。
「一郎さん、どうしたの。なにを、そんなに見つめているの。」
おねえさまも、立ちどまって、ふしぎそうにたずねました。
「ねえさん、ごらん、へんなものがいるよ。ホラ、あの木の上に。」
おねえさまも、空を見あげました。そして、一郎君と同じように、身うごきもできなくなってしまいました。
そこには、じつに異様なものが、あったのです。
カシの木の地上十メートルほどの、大きな枝の上に、木の葉ではない、茶色の大きなものがのっているのです。うすぐらくなっているので、ボンヤリとしか見えませんけれど、それは、どうみても、人間のすがたでした。茶色の洋服をきた、りっぱな紳士が、枝にまたがっているのです。頭には、やはり、茶色のソフトをかぶっていました。
「あんな高いところへ、どうして、のぼったんだろう。なにをしているんだろう。」
「へんね。きみが悪いわ、はやく行きましょう。」
「アッ、ねえさん、まって。あいつの顔、ピカピカ光ったよ。ごらん、銀色の顔をしているよ。」
いかにも、ソフトの下から、銀色の顔が、じっとこちらを見ています。そして、三日月がたの口で、ニヤニヤ笑っているではありませんか。
ふたりは、ゾーッとして、いきなり、かけだしました。手をつなぎあって、いちもくさんに、おうちのほうへ、走ったのです。