← Library‹ 宇宙怪人 みどり色の手

名めい探偵たんてい、明智あけち小五郎こごろうは、博物はくぶつ館かん長ちょうのゆくえが知しれなくなってから、たいへんいそがしくなりました。警察けいさつの手てだすけをして、この大だい事件じけんのとりしらべに、かかりきりになっていたのです。

アメリカと日本にっぽんに、同おなじような円盤えんばん事件じけんがおこったので、アメリカの警察けいさつから、数すう名めいの係官かかりかんが、飛行ひこう機きで、東京とうきょうへ飛とんできましたし、日本にっぽんの警察けいさつ官かんも、アメリカへとびました。そして、おたがいに、事情じじょうをしらべ、相談そうだんしあって、この星ほしの世界せかいの怪物かいぶつを、とらえようとしたのです。明智あけち探偵たんていは、その東京とうきょうでの相談そうだんの席せきに、たびたび呼よばれて、意見いけんをきかれました。そんなことで、事務じむ所しょにいることは、めったにないのです。

ある日ひ、明智あけち探偵たんていは、助手じょしゅの小林こばやし少年しょうねんを呼よんで、こんなことを言いいました。

「ぼくは、博物はくぶつ館かんの事件じけんで、すこしもひまがないが、あの平野へいや君くんという少年しょうねんのことが、なんだか気きがかりなんだ。あの少年しょうねんには、バイオリンの天才てんさいといわれている、うつくしいおねえさんがあったね。きみは、平野ひらの君くんとおねえさんのことを、よく注意ちゅういしてくれたまえ。まいにち、平野ひらの君くんのうちへ遊あそびにいくんだね。そして、なにか、かわったことが、おこらないか、気きをつけているんだ。きみは、とうぶん、それだけやっていればいい。たのんだよ。」

小林こばやし少年しょうねんは、その日ひから、せっせと、平野ひらの少年しょうねんのおうちへ、遊あそびにいくようになりました。平野ひらの少年しょうねんも、小林こばやし君くんがだいすきでしたから、学校がっこうから帰かえると、小林こばやし君くんのくるのをまちかまえていて、お話はなしをしたり、理科りかの実験じっけんをしたりして遊あそぶのでした。近所きんじょの北村きたむらさんも、ときどき、やってきて、ふたりにおもしろいお話はなしを、聞きかせてくれました。北村きたむらさんというのは、丹沢たんざわ山やまの円盤えんばんの中なかに、ひと月がつとじこめられていた、あの青年せいねんです。ですから、そのお話はなしは、しぜん、宇宙うちゅう怪人かいじんのことになるのです。ふたりの少年しょうねんは、胸むねをドキドキさせながら、むちゅうになって、それを聞きくのでした。

平野ひらの君くんのおねえさまのゆりかさんは、音楽おんがく学校がっこうを、まもなく卒業そつぎょうするのですが、いまは学校がっこうがお休やすみで、まいにち、おうちにいるものですから、小林こばやし君くんが遊あそびにいくと、弟おとうとの平野ひらの少年しょうねんといっしょに、自分じぶんの部屋へやへ呼よんで、バイオリンをひいて、聞きかせてくれるようなこともありました。小林こばやし君くんは、このゆりかさんとも、じきに、お友ともだちになってしまいました。

平野ひらの少年しょうねんも、きれいな顔かおの子こどもでしたが、おねえさまは、小林こばやし君くんが、いままで、一いち度どもあったことがないような、きれいな人ひとでした。顔かおを見みるのもまぶしいほど、うつくしいのです。そのゆりかさんがバイオリンをひきだすと、小林こばやし君くんは、うっとりと、夢ゆめを見みているような気持きもちになりました。フワフワと、五色しきの雲くもにのって、天てんへのぼっていくような、なんともいえないたのしい気持きもちになるのでした。

一いち週間しゅうかんほど、そういうたのしい日ひが、つづきましたが、ある夕ゆうがたのこと、小林こばやし君くんは、じつにおそろしいものを見みたのです。このうつくしいえものをねらう、悪魔あくまのすがたが、夕ゆうやみの中なかに、もうろうとして、たちあらわれたのです。

ある夕ゆうがた、ゆりかさんのバイオリンを聞きき、おいしいお菓子かしを、よばれたあとで、小林こばやし少年しょうねんは、平野ひらの君くんとわかれて、平野ひらの君くんのおうちの門もんのそとへ出でました。

夕ゆうやみがせまって、昼ひるでもない、夜よるでもないという、あのネズミ色いろの、ひとときでした。そのあたりは、ひろい屋敷やしきばかりがならんでいる町まちで、両りょうがわには、いけがきや、コンクリート塀べいが、どこまでもつづいていて、人通ひとどおりは、まるでありません。シーンとして、海うみの底そこのようなしずけさです。

小林こばやし君くんが、ヒョイと門もんをでますと、平野ひらの君くんのおうちの塀へいにピッタリ身みをつけて、ひとりの男おとこが立たっているのに、気きづきました。まるでヤモリのように、塀へいにくっついているのです。

「へんなやつだな。」と思おもって、じっとみつめていますと、男おとこのほうでも、小林こばやし君くんに気きづいて、ハッとしたように、いきなり、むこうへ歩あるいていきます。逃にげていくのです。あやしいやつです。

小林こばやし君くんは、すこし、あいだをおいて、その男おとこのあとをつけました。夕ゆうやみのなかですから、おたがいのすがたも、ハッキリとは見みわけられないほどで、尾行びこうをしても、さほど、めだちません。

その男おとこは、ダブダブのネズミ色いろのオーバーをきて、ネズミ色いろのソフトをかぶっていました。小林こばやし君くんが尾行びこうするのを、知しっているのか、知しらないのか、男おとこは、あとをも見みずに、トットと、歩あるいていきます。しばらくいくと、いっぽうの塀へいが、とだえて、ひろいあき地ちにでました。そのまんなかに、ふるいカシの木きが、空そらいっぱいに枝えだをひろげて、そびえています。小林こばやし君くんは、気きがつきませんが、これは、いつかの夜よる、トカゲ怪人かいじんが、茶色ちゃいろの洋服ようふくをきて、高たかい枝えだに腰こしかけていた、あのカシの木きです。

ネズミ色いろのオーバーの男おとこは、そのカシの木きのほうへ歩あるいていきましたが、ふと気きがつくと、もう、すがたが見みえません。カシの木きの大おおきな幹みきのかげに、かくれたのではないかと、小林こばやし君くんは、ソッと、そのほうへ、近ちかづいていきました。

ひろっぱのすみに、街灯がいとうがついていて、そのひかりが、コケのはえた太ふとい太ふといカシの木きの幹みきを、ボンヤリと、てらしています。

小林こばやし君くんは、その幹みきのまえに立たつと、さっきの男おとこは、きっとむこうがわにかくれていると思おもったので、ぬきあしで、ソッと幹みきをまわって、むこうがわを、のぞいてみました。

すると、男おとこは、まるで、かくれんぼうでもするように、その幹みきのうしろに、からだをくっつけて立たっていました。そして、小林こばやし君くんが、のぞくのをまちかまえていたように、ヒョイと、こちらに顔かおをむけました。

ああ、その顔かお。

小林こばやし君くんは、頭あたまの毛けが、サーッと音おとをたてて、さかだつような気きがしました。

それは銀色ぎんいろの顔かおだったのです。まっ黒くろな穴あなのような目め、三日月みかつきがたにキューッと笑わらっている口くち、そして、その口くちから、人間にんげんの声こえとは、どこかちがった、へんな声こえがもれてきました。

「キミ、コバヤシダロ、シッテルヨ、アケチタンテイノデシダロ、ソウダロ。」

小林こばやし君くんは、あまりのおそろしさに、舌したが、のどへくっついたようになって、声こえをだすことができません。

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