← Library‹ 宇宙怪人 星の魔術

平野ひらの少年しょうねんは、ブーンという音おとを聞きいて、しばらくしてから、やっと、からだを動うごかすことができるようになりました。それまでは、おそろしさに、からだが石いしのようにかたくなっていて、どうすることもできなかったのです。

平野ひらの君くんは、いきなり、うちのなかにかけこんで、おとうさまに、いまのできごとを知しらせました。ちょうど、小林こばやし少年しょうねんも来きていましたし、近所きんじょの北村きたむらさんも来きていたので、みんなが、平野ひらの君くんの話はなしを聞ききました。しかし、ゆりかさんには、しばらく言いわないでおくことにしました。あまりにおそろしいことなので、病気びょうきにでもなっては、たいへんだからです。

小林こばやし少年しょうねんは、すぐに、明智あけち先生せんせいに電話でんわをかけて、ことのしだいを知しらせました。すると、それから四十よんじゅう分ふんほどして、おもてに自動じどう車しゃのとまる音おとがしたかと思おもうと、明智あけち探偵たんていと、警視けいし庁ちょうの中村なかむら捜査そうさ係かかり長ちょうと、五ご人にんの私服しふく刑事けいじが、ドヤドヤとはいってきました。

小林こばやし君くんと平野ひらの少年しょうねんは、懐中かいちゅう電灯でんとうをふりてらしながら、宇宙うちゅう怪人かいじんのあらわれた庭にわへ、明智あけち先生せんせいたちを、あんないしました。刑事けいじたちも、てんでに懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、ゆりかさんの部屋へやのそとから、庭にわのおくの、こだちの中なかまで、くまなく、しらべましたが、天気てんきつづきなので、ハッキリした足あしあともなく、ほかに、これという手てがかりも、みつかりませんでした。

そこで、中村なかむら係かかり長ちょうは、五ご人にんの刑事けいじに、平野ひらの君くんのおうちのまわりを、げんじゅうに見みはっているように命めいじておいて、明智あけち探偵たんていとふたりで、応接おうせつ間かんにはいり、そこにいた平野ひらの君くんのおとうさまや、北村きたむら青年せいねんと話はなしをしました。

「なにしろ、空そらを飛とんで逃にげるやつですから、いまさら、どうすることもできません。ともかく、五ご人にんの刑事けいじを、夜よるも昼ひるも、おたくのまわりにおいて、見みはりをさせます。交代こうたいで、いつでも五ご人にん以上いじょう、いるようにします。それでたりないようだったら、十じゅう人にんでも、二十にじゅう人にんでもよこします。」

中村なかむら係かかり長ちょうが、たのもしく、言いうのでした。

「ゆりかを、どこか安全あんぜんなところへ、かくしてしまわなくても、だいじょうぶでしょうか。わたしは、なんだか、いまにも、あれがさらわれるような気きがして、居いても立たっても、いられないのですが……。」

おとうさまは、まっさおな顔かおで、声こえをふるわせて、言いうのでした。

「それも、考かんがえています。しかし、おじょうさんを、窓まどのない、おくまった部屋へやへいれて、みなさんがまもっておれば、いくらあいつでも、屋根やねをやぶって、はいることは、できないでしょうから、それほど、心配しんぱいすることはありますまい。家いえのまわりには、刑事けいじたちも、見みはっていることですし……。刑事けいじたちは、みなピストルを持もっています。そして怪人かいじんを見みたら、うち殺ころしてもいいという、ゆるしをうけております。」

中村なかむら係かかり長ちょうが、安心あんしんさせるように言いいます。

「明智あけち先生せんせい、ぼくは、こう思おもうんですがね。」

北村きたむら青年せいねんが口くちをだしました。

北村きたむらさんは、宇宙うちゅう怪人かいじんにひと月がつも円盤えんばんの中なかへ、とじこめられた人ひとですから、この事件じけんにはだれよりも熱心ねっしんなのです。

「あいつのほうでは、博物はくぶつ館かん長ちょうをさらっていって、星ほしの国くにの動物どうぶつ園えんのオリの中なかへ、いれようというのですから、こちらでもあいつをとらえて、上野うえのの動物どうぶつ園えんのオリの中なかへ、とじこめてやりたいですね。なにか、がんじょうな大おおきなわなをこしらえて、あいつをとらえるのです。大おおきな鉄てつのあみのようなものですね。ネズミとりのあみを、何百なんびゃく倍ばいも、でかくしたような……。」

北村きたむら青年せいねんの意見いけんは、じつに、とっぴでした。しかし、よく考かんがえてみると、そうでもしなければ、コウモリとトカゲのあいの子こみたいな、あの怪物かいぶつをとらえることは、むずかしいでしょう。

「ピストルで殺ころしてしまっては、なにもたずねることができません。それよりも、いけどりにして、いったい、どの星ほしからやってきたのか、地球ちきゅうへ、なにをしにきたのか、また、その星ほしの世界せかいには、どんな動植物どうしょくぶつがあるのか、科学かがくはどれほど進歩しんぽしているのか、などのことを、オリの中なかの怪人かいじんにたずねて、地球ちきゅうの人間にんげんの知恵ちえをひろくするほうが、どれほど、ためになるかわかりません。それには、怪人かいじんを殺ころさないで、いけどるほかはないのです。」

「それについては、ぼくたちも、いろいろ相談そうだんしているのだが、大おおきなわなをしかけるというのは、たしかにおもしろいね。だが、あいては星ほしの世界せかいのやつだから、われわれには、想像そうぞうもできないような、知恵ちえと力ちからをもっている。どんな、がんじょうなわなをこしらえても、あいつは、逃にげてしまうかもしれないがね。」

明智あけち探偵たんていが、中村なかむら係かかり長ちょうと顔かおを見みあわせながら、考かんがえぶかく言いいました。

しかし、あとになって、警察けいさつは、けっきょく、この北村きたむら青年せいねんの意見いけんをもちいることになったのです。ネズミとりの何百なんびゃく倍ばいもある、大おおきなわなを用意よういしたのです。でも、それは、鉄てつのあみではありません。もっと、便利べんりで、もっと、じょうぶなものでした。

話はなしがここまですすんだとき、とつぜん、どこか遠とおくのほうから、

「キャーッ。」という、悲鳴ひめいが、聞きこえてきました。

みんなは、思おもわず、顔かおをみあわせました。

「アッ、いまのは、ゆりかの声こえです。あの子こが、どうかしたのかもしれません。」

平野ひらの君くんのおとうさまは、そう言いったかと思おもうと、あわてて、部屋へやのそとへ、とびだしていきました。

そして、しばらくすると、どこからか、

「みなさん、はやく来きてください。たいへんです。ゆりかが、ゆりかが……。」

というおとうさまの、けたたましい声こえが、ひびいてきました。

これより、すこしまえ、ゆりかさんは、あの庭にわにめんした、自分じぶんの部屋へやへ、いそぎ足あしにはいってきました。さっき、おかあさまに、「今夜こんやは、おくの部屋へやにいるのですよ。」と、わけも言いわないで、手てをひいて、おくまった部屋へやへ、つれていかれたまま、すなおに、じっとしていたのですが、だいじなバイオリンを、机つくえのうえに、ほうりだしたままにしておいたのが気きがかりだったので、ゆりかさんは、ソッと、おくの部屋へやを出でて、自分じぶんの部屋へやへ、やってきたのです。

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