← Library‹ 鉄塔の怪人 黒いこびと

それから、小林こばやし少年しょうねんが、賢二けんじ君くんを助たすけるために、どんな計画けいかくをしたか、それは、しばらくおあずけにしておいて、お話はなしを、もとにもどし、賢二けんじ君くんが、にせ明智あけちのために、さらわれた、自動じどう車しゃの中なかのできごとになります。

運転うんてん台だいに、人間にんげんと同おなじぐらいの、巨大きょだいなカブトムシがすわっているのを見みて、賢二けんじ君くんは、麻酔ますい薬やくで眠ねむっているおとうさんのひざへ、顔かおをかくしてしまいました。すると、となりに、こしかけていた、にせ明智あけちが、賢二けんじ君くんの肩かたをトントンと、たたいて、

「なにをこわがっているんだ。よく見みてごらん。ほら、ね、なんにも、いやしないじゃないか。」

と、笑わらいながらいうのでした。賢二けんじ君くんは、その声こえに、おもわず、顔かおをあげて、こわごわ、運転うんてん台だいの方ほうを見みましたが、これは、どうしたことでしょう。そこには、もとの運転うんてん手しゅが、ちゃんと、すわっているではありませんか。おそろしいカブトムシは、かき消けすように、見みえなくなってしまったのです。

では、賢二けんじ君くんは、さっき、まぼろしを見みたのでしょうか。いや、まぼろしではありません。たしかにカブトムシでした。背中せなかにがい骨こつもようのある、おそろしいカブトムシでした。

カブトムシは、またしても、魔法まほうをつかったのです。あいつは、虫むしの国くにのふしぎな魔法まほうの力ちからで、思おもうままに、姿すがたをあらわしたり、消けしたりすることができるのかもしれません。

そのあいだにも、自動じどう車しゃは、ずっと走はしりつづけていたのですが、そのとき、西にしがわが、森もりのようになった、ひどく、さびしい道みちに、さしかかりました。

「よし、ここで、とめて……。」

にせ明智あけちが、運転うんてん手しゅに命令めいれいしました。自動じどう車しゃはブレーキの音おとをたてて、急きゅうにとまりました。

「手てをかしてくれ。このおやじさんを、ちょっと、このおやしろの中なかへ、寝ねかせておくんだ。朝あさになれば、しぜんに目めをさますだろうからね。」

怪かい人物じんぶつは、そんなことを、いいながら、運転うんてん手しゅにてつだわせて、眠ねむっている賢二けんじ君くんのおとうさんを車くるまの外そとに出だして、ふたりがかりで、エッチラオッチラ、暗くらい森もりの中なかへ、はこんでいきました。

そのあいだに賢二けんじ君くんがにげだす心配しんぱいはありません。運転うんてん台だいには、まだひとりの助手じょしゅがのこっていたからです。そいつが、こわい顔かおで賢二けんじ君くんをにらみつけています。とても、にげられるものではありません。

それにしても、ここは、いったいどこでしょう。まだ東京とうきょうを出ではなれたとは思おもわれません。さっき、にせ明智あけちが「おやしろ」といったのをみると、この森もりは、なにかの神社じんじゃを、とりかこんだ森もりなのでしょう。東京とうきょうの町まちの中なかにも、こういう神社じんじゃの森もりは、いくらもあるからです。

賢二けんじ君くんのおとうさんは、その社殿しゃでんの縁えんがわにでも、おきざりにされるのでしょう。そんなに寒さむい気候きこうではありませんから、かぜをひくようなこともないでしょうが、賢二けんじ君くんは心配しんぱいでたまりません。

そのときです。自動じどう車しゃのうしろの方ほうで、なんだか、みょうなことが起おこりました。

まっ暗くらなので、はっきりはわかりませんが、自動じどう車しゃのうしろの荷物にもつを入いれる場所ばしょの鉄板てっぱんのふたが、そうっとひらいたようです。そして、その中なかから、小ちいさな黒くろい人ひとの姿すがたが、あらわれました。黒くろいこびとです。そのこびとが、まず、自動じどう車しゃのうしろの車くるまのところに、うずくまって、しばらく、なにかやっていたかとおもうと、スーッと空気くうきのもれる音おとがして、タイヤが、ペチャンコになってしまいました。

こびとは、つぎには、もう一ひとつのうしろの車くるま、それから前まえの両方りょうほうの車くるまと、リスのようにチョコチョコと走はしりまわって、たちまち、四よんつの車くるまのタイヤを、みんな、ペチャンコにしてしまいました。

あとでわかったのですが、このこびとは、よくきれる大おおきなナイフをタイヤのうすいところへつきさして、空気くうきをぬいてしまったのです。空気くうきがぬけるたびに、自動じどう車しゃが、グンと、しずむような感かんじになるものですから、運転うんてん台だいにいた助手じょしゅの男おとこは、「おやっ、へんだぞ。」といいながら、ドアをあけて、車くるまをしらべるために、降おりてきました。

助手じょしゅが、右みぎがわへまわったすきに、こびとは左ひだりがわの後部こうぶの窓まどに近ちかづいて、そのガラスを、コツコツとたたきました。

中なかにいた賢二けんじ少年しょうねんが、びっくりして、ガラスの外そとを見みますと。そこに、ひとりの少年しょうねんの顔かおが笑わらっていました。そして「だいじょうぶだよ。安心あんしんしたまえ。」というように、コックリとうなずいてみせるのでした。

この少年しょうねんこそ小林こばやし君くんでした。かれは、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょをとびだすと、高橋たかはしさんの家いえにかけつけて、そのおもてに待まっていた、悪人あくにんの自動じどう車しゃの、うしろの荷物にもつ入いれにしのびこんでいたのです。そして悪人あくにんどもが賢二けんじ君くんのおとうさんを、神社じんじゃの森もりへはこんでいるすきに、タイヤをきずつけて、自動じどう車しゃを動うごけなくしてしまったのです。さすがに、少年しょうねん名めい探偵たんていの小林こばやし君くんでした。

小林こばやし少年しょうねんは、窓まどの外そとから賢二けんじ君くんに、安心あんしんするようにあいずをしておいて、そのままいちもくさんに、どこかへかけだして行いきました。どこへ行いったのでしょうか。

そこへ、森もりの中なかから、にせ明智あけちと運転うんてん手しゅとが帰かえってきました。

「おい、なにをウロウロしているんだ。どうかしたのか。」

助手じょしゅの男おとこが、自動じどう車しゃのまわりを、なにかブツブツいいながら歩あるきまわっているのを見みて、にせ明智あけちが声こえをかけました。

「どうも、わからないのですよ。タイヤが四よんつとも、パンクしちゃったんです。」

「なんだって、四よんつともパンクした? そんなバカなことがあるもんか。よくしらべてみろ。夢ゆめでも見みたんじゃないか。」

どなりつけながら、にせ明智あけちは懐中かいちゅう電灯でんとうを出だして、タイヤをしらべていましたが、いきなり、びっくりしたようにさけびました。

「タイヤにナイフをつきさしたんだ。おい、きみ、そのへんに、だれかかくれているんじゃないか。タイヤをだめにして、自動じどう車しゃを動うごけないようにしたやつがいるんだ。きみはそれを知しらないでいたのか。」

しかられて、助手じょしゅは、首くびをかしげながら、のろまな声こえで、答こたえました。

「そういえば、なんだかこびとみたいなやつが、あっちへ走はしっていきました。暗くらくてよくわからなかったけれど……。」

「なにっ、こびとだって? それじゃ、もしかすると……。」

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