← Library‹ 鉄塔の怪人 むちのひびき

小林こばやし君くんは、子こどもカブトムシのあとをつけて、十じゅう二に号ごう室しつにはいりました。それから、その部屋へやの中なかで、どんなことがあったかは略りゃくします。なぜなら、それは、まもなく、わかるときがくるからです。

お話はなしは、そのあくる朝あさ、同おなじ石いしの建物たてものの中なかの、大おお広間ひろまでおこったできごとに、うつります。

その朝あさ、大おお広間ひろまには、ピシッ、ピシッと、むちの音おとがひびいていました。

その広間ひろまの中なかを、十じゅう数すうひきの大おおカブトムシが、ゾロゾロと行列ぎょうれつをつくってはいまわっていました。その輪わになった行列ぎょうれつのまんなかに、はでな、しまの洋服ようふくを着きた、白しろひげのじいさんが手てに長ながいむちをもって立たっているのです。

それは、いつか賢二けんじ少年しょうねんが、にいさんの壮一そういち君くんといっしょに、おうちのそばの町まちかどで、のぞきカラクリをのぞいたときの光景こうけいと、そっくりでした。そして、あののぞきカラクリを見みせてくれたじいさんこそ、いま、この部屋へやのまんなかに、むちを手てにして立たっているじいさんと同おなじ人ひとだったのです。

「そら、しっかりあるくんだ。おい、十じゅう一いち号ごう、むきがちがうぞ。列れつをはなれてはいけない。」

ピシリーッ。おそろしいむちが、十じゅう一いち号ごうとよばれたカブトムシの背中せなかに、とびました。

「こんどは、走はしるんだぞ。おくれたやつはむちのおみまいだ。そら、いいか、かけあしっ……。」

号令ごうれいとともに、むちが空中くうちゅうで、ピシッ、ピシッとなりました。

十じゅう数すうひきの巨大きょだいなカブトムシたちは、むちをおそれて、かけだしました。いくつともしれぬ足あしの床ゆかをこする音おとが、ザーッというような、異様いようなひびきをたてるのです。巨大きょだいな妖虫ようちゅうどもが、大おおきな輪わをかいてグルグル、グルグル、広間ひろまの中なかをかけまわるありさまは、じつに、なんともいえないへんてこな、うすきみのわるい光景こうけいでした。

そして、かけあしで、三さん度どほどまわったときでした。とつぜん、

「とまれっ……。」

じいさんが、はげしい声こえで、号令ごうれいをかけました。

「おい、十じゅう二に号ごう、こちらへこい。」

そして、十じゅう二に号ごうの背中せなかに、ピシリーッ、とむちがあたりました。

「おかしいぞ。おまえ、いつのまに、そんなにうまくなった。きのう、はいったばかりの兵隊へいたいが、そんなに走はしれるはずがない。おかしいぞ。おい、あおむきになれ。そして、顔かおを出だしてみろ。」

また、むちがとびました。しかし、列れつをはなれた十じゅう二に号ごうのカブトムシは、じっとしたまま、身動みうごきもしません。

「いよいよおかしいぞ。きさま、だれかにかわってもらったな。だれだ、この子こどもの身みがわりになったやつは。さあ、出でてこい。顔かおをみせろ。出でないと……。」

ピシリーッ、二に度ど三さん度ど、むちが背中せなかにとびました。それでも、十じゅう二に号ごうは、ごうじょうにだまりかえっています。そこにうずくまったまま、てこでも動うごかないというかっこうです。

そのときです。部屋へやの外そとの廊下ろうかの方ほうから、ただならぬもの音おとが、近ちかづいてきました。

「さあ、こっちへこい。きさま、けしからんやつだ。ベッドの下したなんかにかくれて、訓練くんれんをなまけやがって、……閣下かっか、きのうはいった十じゅう二に号ごうの新兵しんぺいが、ベッドの下したにかくれているのを見みつけて、ひっぱってきました。」

賢二けんじ少年しょうねんが、ふたりのあらくれ男おとこに、両手りょうてをとられて、部屋へやの入口いりぐちにあらわれました。ふたりの男おとこは、じいさんのおもだった子分こぶんなのでしょう。ジャンパーを着きた、人相にんそうのわるいやつです。これがこの王国おうこくの「将校しょうこう」なのかもしれません。

「うーん、やっぱりそうだったか。するとここにいる十じゅう二に号ごうはなに者ものだ。おい、おまえたち、こいつをひんむいてくれ。」

じいさんは、白しろいひげをふるわせて、どなりました。ふたりの男おとこは、その命令めいれいをきくと、賢二けんじ少年しょうねんをじいさんにわたしておいて、いきなり、十じゅう二に号ごうのカブトムシに、とびかかっていきました。そして、カブトムシをとらえて、しばらくもつれあっていましたが、やがて、ふたりの男おとこの口くちから、おどろきのさけび声ごえが、ほとばしりました。

「やっ、きさま、だれだっ。どこから、やって来きたのだっ。」

十じゅう二に号ごうのカブトムシの、腹はらの中なかからあらわれたのは、ほかならぬ小林こばやし少年しょうねんでした。

小林こばやし君くんは、賢二けんじ少年しょうねんをかわいそうに思おもって、身みがわりをつとめてやったのですが、十じゅう二に号ごうの身みのこなしが、かよわい賢二けんじ君くんにしては、あまりうますぎたので、かえ玉だまがバレてしまったのです。そのうえ、かくれていた賢二けんじ少年しょうねんまでみつかっては、もうどうすることもできません。

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