← Library‹ 鉄塔の怪人 鉄塔王国

そのおばけカムトムシの、つやつやしたまっ黒くろな背中せなかには、がい骨こつの顔かおのような、白しろいもようが、ついていました。「黄金虫こがねむし」という小説しょうせつの金色きんいろのカブトムシや、死頭蛾しとうがという大おおきなガの背中せなかにも、がい骨こつの顔かおがうきだしていますが、あれらと同おなじような、おそろしいもようが、この巨大きょだいなカブトムシの背中せなかにもついていたのです。小林こばやし少年しょうねんがあとになって、そのことを新聞しんぶん記者きしゃに話はなしたものですから、翌日よくじつの新聞しんぶんには、その絵えが、大おおきくのせられました。地獄じごくからはいだしてきた、おそろしい妖虫ようちゅうの姿すがたでした。

しかし、銀座ぎんざの夜よるのできごとがあってから、二に週間しゅうかんほどは、なにごともなくすぎさりました。妖虫ようちゅうはあの晩ばん数寄屋すきや橋はしのところで、かきけすように、見みえなくなったまま、一いち度ども姿すがたをあらわさないのです。

ところが、二に週間しゅうかんほどたった、ある夜よるのこと、荻窪おぎくぼの高橋太一郎たかはしたいちろうさんのおうちに、おそろしいことがおこったのです。

高橋たかはしさんは、昭和しょうわ鉄工てっこう会社かいしゃの社長しゃちょうさんで、荻窪おぎくぼの、およそ三千さんぜん平方へいほうメートルも庭にわのある、広ひろいやしきに住すんでいました。家族かぞくは、主人しゅじんの太一郎たいちろうさん夫婦ふうふと、ふたりの男おとこの子こだけで、数すう人にんの女中じょちゅうや書生しょせいをおいているのです。ふたりの男おとこの子この、兄あにのほうは、壮一そういち君くんといって、中学ちゅうがく二に年ねん生せい、弟おとうとのほうは、賢二けんじ君くんといって、小しょう学校がっこう四よん年ねん生せいでした。

その晩ばん七しち時じごろ、高橋たかはしさんのところへ、木村きむらというお友ともだちから、電話でんわがかかってきました。主人しゅじんの太一郎たいちろうさんは、ちょうどおうちにいましたので、電話でんわに出でますと、

「いま、村瀬むらせというわたしの会社かいしゃのものが、おじゃまするから、会あってください。くわしいことは村瀬むらせから聞きいてくださるように。」

ということでした。

まもなく、その村瀬むらせという男おとこがやってきました。村瀬むらせは、三十さんじゅう歳さいぐらいの、やせた人相にんそうのよくない男おとこでしたが、こんいな木村きむらさんのおつかいだというので応接おうせつ間かんにとおして、ていねいにもてなしました。

主人しゅじんの太一郎たいちろうさんとあいさつをすませて、むかいあって、安楽あんらくいすにこしかけましたが、村瀬むらせという男おとこは、だまって、主人しゅじんの顔かおを、ジロジロ見みているばかりで、なかなか用件ようけんをきりだしません。

「木村きむら君くんからは、まだ何なんもきいていないのですが、どんなお話はなしですか。」

太一郎たいちろうさんが、さいそくしますと、村瀬むらせは、ニヤリと笑わらって、みょうなことをいいました。

「ぼくは、じつは木村きむらさんのつかいではありませんよ。」

「え、それじゃ、さっきの電話でんわは?」

「あれは、ちょっと木村きむらさんの名なをかりてぼくがかけたのです。ぼくは、こわいろがうまいでしょう。」

村瀬むらせは、タバコの煙けむりを、フーッと吹ふきだして、そううそぶいています。

「なんだって? それじゃ、きみは、木村きむら君くんの名なをかたったんだな。」

太一郎たいちろうさんは、おもわず身みがまえをしてテーブルの上うえのベルのボタンに手てをのばしました。書生しょせいをよぶためです。

「おっと、ベルをおしちゃいけない。あんたとふたりきりで話はなしたいんだ。ベルをおせば、これが火ひをはくぜ。」

村瀬むらせは、すばやくポケットからピストルを出だして、太一郎たいちろうさんに、ねらいをさだめました。

とび道具どうぐをもちだされては、どうすることもできません。太一郎たいちろうさんは、そのままあいてをにらみつけ、じっとしているほかはありませんでした。

「では、用件ようけんを話はなそう。」

村瀬むらせは、とくいらしく、ペラペラと、しゃべりはじめました。

「鉄塔てっとう王国おうこく……といっても、あんたにはわかるまいが、そういう名なまえの小ちいさい王国おうこくが、日本にっぽんのある山やまの中なかにできているんだ。世界せかいでだれも知しらない小ちいさい王国おうこくだ。ふかいふかい山やまの中なかに、まっ黒くろな鉄てつの塔とうがそびえている。そこに一ひとつの別べつ世界せかいができている。おれは、その鉄塔てっとう王国おうこくの首領しゅりょう、いや、王おうさまの命令めいれいで、あんたのところへ、やってきたんだ。

王おうさまから、お金持かねもちのあんたに、一ひとつたのみがあるんだ。そのたのみというのは、ほかでもない。鉄塔てっとう王国おうこくにたいして、一千いっせん万まん円えん寄付きふしてもらいたい。いくら別べつ世界せかいの王国おうこくでも、金きんがなくては、やっていけないからね。それで、時間じかんと場所ばしょをきめておいて、現金げんきんで一千いっせん万まん円えん、おれに手てわたしてもらいたい。これが、こんばんの用件ようけんだよ。どうだね。返事へんじをききたいね。」

村瀬むらせという男おとこは、そういって、ピストルの筒口つつぐちをあげたりさげたりしながら、主人しゅじんの顔かおを見みつめるのでした。

太一郎たいちろうさんは、あんまりとほうもない話はなしに、あっけにとられてしまいました。そして、こいつは気きでもちがっているのではないかと、考かんがえました。

「さあ、返事へんじはどうだね。」

「ハハハ……、そんな金かねは出だせないよ。この日本にっぽんの中なかに、べつの王国おうこくができたなんて、だれが信しんじるものか。それに、一千いっせん万まん円えんという大金たいきんは、わしには、きゅうにどうすることもできないよ。」

太一郎たいちろうさんは、まともに答こたえるのも、バカバカしいような気きがしました。

「ふーん。あんたは、おれのいうことを、でたらめだと思おもっているんだな。それじゃもっとよく、わかるようにいってやろう。鉄塔てっとう王国おうこくでは、小ちいさい子こどもが入はいり用ようなんだ。たちのよい子こどもを集あつめて、みっちりしこんで、りっぱな兵隊へいたいにするんだ。鉄塔てっとう王国おうこくの近衛兵このえへいにしあげるんだ。だから、一千いっせん万まん円えんがいやなら、あんたの次男じなんの賢二けんじ君くんを、山やまの中なかの王国おうこくへつれていくが、それでもいいかね。

どうして、つれていくというのかね。それには、すばらしい武器ぶきがあるんだ。あんたは、今いまから二に週間しゅうかんほどまえ、銀座ぎんざにあらわれた、でっかいカブトムシのことを、知しってるだろう。あれが、鉄塔てっとう王国おうこくのまもり神かみだ。あれは、カブトムシの戦車せんしゃだよ。ピストルのたまだってはじきかえす鋼鉄こうてつの戦車せんしゃだ。そればかりじゃない。あれは魔法まほうつかいだ。幽霊ゆうれいカブトムシだ。みんなの見みているまえで、スーッと、煙けむりのように消きえてしまうんだ。それがしょうこに、いつかの晩ばんのカブトムシは、数寄屋すきや橋はしで消きえたまま、どうしても見みつからなかったじゃないか。

鉄塔てっとう王国おうこくには、こんなおそろしい武器ぶきがあるんだよ。その武器ぶきでもって、子こどもたちをさらっていくんだ。頭あたまのいい、かわいらしい、じょうぶな子こどもばかりを、さらっていくんだ。警察けいさつの力ちからでも、ふせぐことはできない。あいては魔法まほうつかいなんだからね。さあ、子こどもがかわいければ、一千いっせん万まん円えんだ。どちらとも、あんたの心こころまかせにするがいい。」

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