← Library‹ 鉄塔の怪人 ワシのえじき

石いしの壁かべの長ながい廊下ろうかをいくつもまがって、行いきついたのは、まるい鉄てつの部屋へやでした。鉄塔てっとうの一いち階かいらしいのです。壁かべには黒くろい鉄板てっぱんが、はりつめてあり、一方いっぽうのすみに、きゅうな鉄てつのはしごが、ついています。

「さあ、これを、のぼるんだ。」

二十にじゅう面相めんそうのさしずで、ふたりのあらくれ男おとこは、二に少年しょうねんをおいたてて、そのはしごをのぼりました。二に階かい、三さん階かい、四よん階かい、みんなまるい鉄てつの部屋へやです。そして、五ごつめのはしごをのぼると、パッとあたりがあかるくなって、鉄塔てっとうの屋上おくじょうに出でました。

まるい床ゆかには、いちめんに鉄板てっぱんがはりつめてあり、それをとりまいて、ひくい鉄てつのてすりのようなものが、ついています。

「下したをのぞかしてやれ。」

二十にじゅう面相めんそうのことばに、男おとこたちは、ふたりの少年しょうねんを、屋上おくじょうのはじへつれていって、てすりにからだをおしつけ、下したをのぞかせました。

小林こばやし少年しょうねんは、それほどでもありませんが、賢二けんじ君くんは、まっさおになってしまいました。鉄塔てっとうの壁かべが、まっ縦たてにはるか下したのほうまでつづいていて、まるで、高たかい高たかいだんがいのはじに、立たっているような気持きもちです。おしりのへんがくすぐったくなって、足あしがブルブルふるえてきました。

「どうだ、わかったか。きさまたちは、ぜったいに、ここから、にげだすことはできないのだ。ここは空中くうちゅうのろうやだ。鉄てつごうしもなにもない、あけっぱなしだが、こんな厳重げんじゅうなろうやはない。にげようとすれば、命いのちがなくなるだけだ。まあ、ここで、ゆっくり、やすんでいるがいい。アハハハ……、それじゃああばよ。いまは、それほどでもないが、そのうちに、だんだん、このろうやのおそろしさが、わかってくるよ。」

二十にじゅう面相めんそうは、ふたりの男おとこを、さきにおりさせ、じぶんはあとから、鉄てつばしごをおりました。そして、屋上おくじょうへの出入でいり口くちについている、鉄てつのふたを、両手りょうてでおろし、そのすきまから顔かおだけを出だして、にやにや笑わらいながらいいました。

「おい、小林こばやし君くん、ねんのためにいっておくが、この山やまにはワシがいるんだよ。きみたちはその大おおワシと、たたかわなければならないのだ。死しにものぐるいにたたかって、きみたちの力ちからがつきたときが、さいごだよ。ワシのえじきになってしまうのだ。」

そして、バタンと、はしごの上うえの鉄てつのふたがしまり、カチカチとかぎのかかる音おとがしました。

ふたりの少年しょうねんは、こうして、鉄塔てっとうの屋上おくじょうにとじこめられてしまったのです。

「小林こばやしさん、どうすればいいの? ぼくこわいよ。」

賢二けんじ君くんは、泣なきだしそうな顔かおで、小林こばやし少年しょうねんに取とりすがりました。

「だいじょうぶだよ。ぼくたちはまだ、まけたんじゃない。きっと、二十にじゅう面相めんそうをやっつけてみせるよ。しばらく、がまんしているんだ。」

小林こばやし少年しょうねんの、自信じしんありげなことばに、賢二けんじ君くんも、いくらか、元気げんきをとりもどしましたが、それにしても、小林こばやし君くんは、いったいどうして、二十にじゅう面相めんそうをやっつけることができるのでしょう。

小林こばやし君くんは、れいの絹きぬひもの、縄なわばしごをつかって、鉄塔てっとうをおりるつもりでしょうか。とてもそんなことはできません。絹きぬひもの長ながさは十じゅうメートルしかないのに、鉄塔てっとうは数十すうじゅうメートルの高たかさです。

「小林こばやしさん、ぼくたち、どうして、ここをにげるの?」

「待まつんだよ。」

「え、待まつって?」

「こんばんか、おそくても、あすの朝あさまでに、おもしろいことが、おこるんだ。それまでの、しんぼうだよ。……ごらん、空そらがまっさおに、よく晴はれているじゃないか。歌うたでもうたおうよ。」

小林こばやし君くんは、のんきなことをいって、なにか歌うたをうたいはじめました。

それから、日ひがくれるまで、じつに長ながい長ながい一いち日にちでした。歌うたをうたったり、なぞなぞのあてっこをしたり、しまいには、賢二けんじ君くんの学科がっかのおさらいまでして、気きをひきたてようとしましたが、そのうちに、ふたりとも、おなかがへってきました。そして、日ひのくれるじぶんには、ものをいう元気げんきもなくなって、鉄てつのてすりによりかかり、足あしをなげだしたまま、グッタリとなっていました。

もう、あたりはまっ暗くらです。遠とおくのほうから、もののきしるような音おと、うなり声ごえのようなものが聞きこえてきます。山やまにすんでいる鳥とりやけだものの、なき声ごえです。

小林こばやし君くんは、てすりにもたれながら、からだをねじまげるようにして、まっ暗くらな森もりの中なかを、あちらこちらと、注意ちゅういぶかく見みまわしていました。なにか、こころ待まちにしているようすです。

そうしてまた何なん時間じかんかが、すぎさりました。ふたりとも、つかれているので、ときどきうとうと眠ねむりますが、すぐにはっと目めをさまします。寝ねてしまっては、たいへんだと思おもうからです。

もう、真ま夜中よなかを、とっくにすぎていました。つめたい風かぜが吹ふいてきました。耳みみをすますと、まっ暗くらな下界げかいからは、けだもののうなり声ごえらしい音おとが、だんだん、近ちかづいてくるように思おもわれます。

とつぜん、小林こばやし少年しょうねんが「あっ。」と、小ちいさくさけびました。やみの中なかをすかして見みると、ずっとむこうにホタルのような小ちいさな光ひかりが、パッパッと、ついたり消きえたりしていたのです。

小林こばやし君くんは、大おおいそぎで立たちあがると、バンドの七ななつ道具どうぐの中なかから、懐中かいちゅう電灯でんとうをとりだしました。そして、それを高たかくささげながら、こちらも、パッパッと、つけたり消けしたりするのでした。賢二けんじ君くんも、これを見みると、びっくりして立たちました。そして、小林こばやし少年しょうねんのそばによってたずねるのです。

「小林こばやしさん、どうしたの? なにをしているの?」

「電灯でんとうの光ひかりで、モールス信号しんごうを、やっているんだよ。ほら、よくごらん、ずっとむこうの方ほうに、ホタルのような光ひかりが、見みえるだろう。あれは懐中かいちゅう電灯でんとうだよ。むこうでも、信号しんごうをしっているんだ。」

「えっ、じゃあ、あすこに人ひとがいるんだね。いったい、あれは、だれなの?」

「みかただよ。待まちに待まった明智あけち先生せんせいさ。」

「えっ、明智あけち先生せんせい?」

「賢二けんじ君くん、ぼくはね、ここへくるときに、明智あけち先生せんせいの事務じむ所しょにかっている伝書でんしょバトをつれてきたんだよ。そのハトの足あしに、この鉄てつの城しろのある場所ばしょを、くわしく書かいた通信つうしんをくくりつけて、ゆうべ、はなしてやったのさ。その通信つうしんがとどいて明智あけち先生せんせいが助たすけにきてくださったのだよ。先生せんせいひとりじゃない。長野ながの県けんの警察けいさつから、おおぜいの警官けいかん隊たいもきているんだって。いまの懐中かいちゅう電灯でんとうの信号しんごうで、それがわかったんだよ。もうだいじょうぶだ。ねえ、賢二けんじ君くん、ぼくたちは助たすかったよ。」

Click a word · hold for the whole sentence 0%