← Library‹ 鉄塔の怪人 妖虫のさいご

鉄てつの城しろの建物たてものという建物たてものは、数十すうじゅう人にんの警官けいかん隊たいにとりかこまれ、カブトムシ王国おうこくはじまっていらいの大だい混乱こんらんがおこっていました。さらわれてきた少年しょうねんたちの兵隊へいたいは、だれも手てむかいなどしません。みんな警官けいかんのみかたになって、怪人かいじん団だんのおとなたちの部屋へやの、あんない役やくをつとめました。

怪人かいじん団だんの悪人あくにんどもは、さすがに、がんこに、てむかいをしました。深夜しんやの大だい戦争せんそうでした。城しろの中なかには、秘密ひみつの地下ちか道どうだとか、いろいろなしかけがあって、二十にじゅう数すう人にんの悪人あくにんどもを、すっかり捕とらえるのには、二に時間じかんあまりもかかったほどで、警官けいかん隊たいに数すう人にんのけが人にんもでました。

そうして、すっかり、しばりあげてしまって、少年しょうねんたちに、もうほかに悪人あくにんはいないかとたずねますと、かんじんの鉄塔てっとう王国おうこくの首領しゅりょうがいないという答こたえでした。つまり、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうだけが、どこかへ、姿すがたをくらましてしまったのです。いや、姿すがたの見みえないのは、二十にじゅう面相めんそうばかりではありません。名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうも、どこかへ、くもがくれしてしまって、いくら、さがしてみても、みつからないのでした。

そのとき、明智あけち探偵たんていは、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうと、一騎いっきうちの勝負しょうぶをしていたのです。二十にじゅう面相めんそうは、すきを見みて、ただひとり鉄塔てっとうの方ほうへにげていきました。明智あけちは、はやくも、それをみつけて追ついせきしたのです。おわれていると気きづいた二十にじゅう面相めんそうは、とある小こ部屋へやへにげこんで、中なかからドアにかぎをかけてしまいました。明智あけちは、からだごと、そのドアにぶつかって、とうとうそれをやぶりましたが、たった二に―三さん分ぶんのあいだに、どこへにげたのか、部屋へやの中なかには、だれもいなくなっていました。出入でいり口くちは、いまやぶったドアのほかにはありません。

明智あけちは四方しほうの壁かべをたたきまわって、秘密ひみつの通路つうろでもあるのではないかと、しらべましたが、べつにあやしいところもないのです。

そのとき、てんじょうのほうに、みょうな、もの音おとがしました。「さては。」とおもって、懐中かいちゅう電灯でんとうでてらしますと、てんじょうから、ドシンと、おそろしい音おとをたてて、一いちぴきの巨大きょだいなカブトムシが、目めの前まえに落おちてきました。

二十にじゅう面相めんそうは、明智あけちがドアをやぶっている、わずかのひまに、その部屋へやにおいてあったカブトムシのからを身みにつけて、とくいのわざで、壁かべをはいあがってかくれたのでしたが、いつまでも壁かべをはっていくことはできません。やがて力ちからがつきて、床ゆかの上うえに落おちたのです。

それから、また、巨大きょだいなカブトムシと明智あけち探偵たんていとの、おっかけっこが、はじまりました。カブトムシはスルリと身みをかわして、廊下ろうかに出でると、鉄塔てっとうのほうへ、おそろしい早はやさで走はしっていくのです。

カブトムシは鉄塔てっとうの一いち階かいにかけこむと、例れいの鉄てつのはしごをのぼりはじめました。二に階かい、三さん階かい、四よん階かいつぎは屋上おくじょうです。その屋上おくじょうへの鉄てつばしごにとりついたカブトムシは、明智あけち探偵たんていを見みおろして、おそろしい、笑わらい声ごえをたてました。

「ワハハハ……、明智あけち先生せんせい、おれをおいつめたとおもって、とくいになっているね。だがおれのほうには、武器ぶきがあるんだ。きみを、あっといわせる武器ぶきがあるんだ。おい、明智あけち先生せんせい、この上うえの屋上おくじょうには、だれがいるとおもう。きみのだいじな弟子でしの小林こばやしと、それから賢二けんじが、空中くうちゅうのろうやに、とじこめてあるんだ。ふたりの子こどもが、ひとじちだ。きさまが、おれをとらえようとすれば、このふたりを塔とうの上うえからつき落おとしてしまう。ワハハハ……、どうだ、例れいによって、これがおれのおくの手てだよ。さすがの明智あけち先生せんせいも、こうなっては、手てだしもできまい。ワハハハ……。」

いいのこして、二十にじゅう面相めんそうのカブトムシは、そこの鉄てつのふたをかぎでひらき、屋上おくじょうへ、はいあがっていきましたが、あがったかとおもうと、「あっ。」と、おどろきのさけび声ごえをたてました。

そのころ、夜よるはしらじらとあけて、鉄塔てっとうの屋上おくじょうは、もうあかるくなっていました。そのひと目めで見みえる、屋上おくじょうに、小林こばやし少年しょうねんと賢二けんじ少年しょうねんの姿すがたが、どこにも見みあたらなかったのです。二十にじゅう面相めんそうのカブトムシは、あわてふためいて、屋上おくじょうをかこむ鉄てつのてすりを、おそろしい早はやさで、さがしまわりました。しかし、てすりの外そとに、身みをかくしているようすもありません。

まったく、ありえないことがおこったのです。屋上おくじょうへのただひとつの出入でいり口くちには、ちゃんとかぎがかかっていました。塔とうからとびおりるはずはありません。そんなことをすれば命いのちがないのです。ではどこへかくれたのか。いや、かくれる場所ばしょなんて、ぜったいにありません。ああ、ふたりの少年しょうねんは、魔法まほうをつかって、煙けむりとなって、空そらへまいのぼってしまったのでしょうか。

そう考かんがえて思おもわず空そらを見みあげたとき、その空そらのかなたから、ブーンという異様いような音おとがひびいてきました。そして、一ひと羽わの巨大きょだいな鳥とりが、こちらへ近ちかづいてくるのです。いや鳥とりではありません。もう夜よるがあけたので、その姿すがたが、はっきり見みわけられます。それは一いち台だいのヘリコプターでした。

ヘリコプターは、みるみる鉄塔てっとうの真上まうえにきて、透明とうめいな乗員じょういん席せきが、よく見みえるほどの、近ちかさにありました。それを見みると、二十にじゅう面相めんそうのカブトムシはふたたび「あっ。」と、さけび声ごえをたてないではいられませんでした。その透明とうめいな乗員じょういん席せきには、操縦そうじゅう士しのほかに、小林こばやし少年しょうねんと、賢二けんじ少年しょうねんがのりこんで、にこにこしながら、塔とう上じょうの怪物かいぶつを見みおろしていたからです。

さっき、二に少年しょうねんをめがけて、とんできたのは大おおワシではなくて、このヘリコプターだったのです。むろん明智あけち探偵たんていのはからいで、塔とう上じょうの二に少年しょうねんをすくうために、長野ながの県けん警察けいさつの手てで、近ちかくの町まちからの電話でんわれんらくによって、松本まつもと市しの新聞しんぶん社しゃから呼よびよせたものでした。そして、ヘリコプターから、縄なわばしごをおろして、ふたりを、すくいあげたのです。

そうこうするうちに、明智あけち探偵たんていをさがしていた警官けいかんたちが鉄塔てっとうに気きづいて、塔とうの一いち階かいにかけつけ、鉄てつばしごをふみながら、屋上おくじょうへおしよせてきました。屋上おくじょうは、もう警官けいかんでいっぱいです。

二十にじゅう面相めんそうは、もうどうすることもできません。警察けいさつにつかまってしまうばかりです。

塔とう上じょうに進退しんたいきわまった巨大きょだいな妖虫ようちゅうは、ジリジリと、あとずさりをして、一方いっぽうのすみの鉄てつのてすりに、からだをくっつけてしまいました。

つぎの瞬間しゅんかんには、おそろしいことがおこりました。カブトムシは、てずりをのりこえたのです。明智あけち探偵たんていも、おおぜいの警官けいかんたちも、思おもわず「あっ。」と、声こえをたてました。しかし、もうおそかったのです。

巨大きょだいなカブトムシは、てすりの外そとがわに、しばらく、しがみついていましたが、やがて、スーッと、目めもくらむ数十すうじゅうメートルの地上ちじょうへと、矢やのようにおちていきました。そのとき、かすかに「あばよ!」という声こえが、聞きこえたように思おもわれました。

これが、日本にっぽんじゅうをさわがせたカブトムシ大王だいおう、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうの、あわれなさいごだったのです。

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