← Library‹ 灰色の巨人 ふしぎな家

園井そのいさんを乗のせた賊ぞくの自動じどう車しゃは、ほそうされた、たいらな道路どうろを五十ごじゅう分ふんほども走はしって、やっと停車ていしゃしました。ずいぶん遠とおくへきたらしいのです。

「さあ、おりるんだ。これからさきは、車くるまがはいらないから、歩あるくんですよ。」

園井そのいさんのとなりに乗のっていた、賊ぞくの部下ぶかが、そういって、園井そのいさんの手てをとって、自動じどう車しゃからおろしました。

園井そのいさんは、宝冠ほうかんの箱はこのはいっているふろしきづつみをかかえて、ひかれるままに、ついていきますと、いっぱい草くさのはえた登のぼり道みちを、歩あるいていることがわかりました。草くさばかりでなく、いろいろな木きがはえているらしく、ズボンがその枝えだにひっかかるのです。そして、あたりは、森もりにでもはいったように、ひえびえとして、植物しょくぶつのにおいが強つよくただよっていました。

東京とうきょうから一いち時間じかんぐらいのところに、山やまはありませんが、小ちいさな丘おかくらいはありますから、そういう丘おかを登のぼっているのだろうと考かんがえました。

道みちらしい道みちもない森もりの中なからしく、草くさや木きの枝えだをかきわけて進すすむのですから、目めかくしされている園井そのいさんは、歩あるくのがたいへんでした。賊ぞくの部下ぶかは、そんなことはおかまいなく、じゃけんにぐんぐん手てをひっぱるので、なんどもつまずいて、ころびそうになるのでした。十じゅう分ふんほども、そういう山道さんどうのようなところを歩あるきますと、こんどは、せまいほら穴あなの中なかへ、ひっぱりこまれました。

「ここから地下ちかへもぐるんだよ。石いしのだんがついているが、せまいから気きをつけて。」

賊ぞくの部下ぶかは、そういって、園井そのいさんを助たすけながら、ゆっくりと、おりていきました。

穴あなの中なかを三さんメートルほどおりると、こんどはトンネルのような、よこ穴あなになりました。せまい穴あななので、立たって歩あるくことはできません。身みをかがめて、はうようにして進すすまなければならないのです。

園井そのいさんは、おそろしくなってきました。いったいこのほら穴あなは、どこへつづいているのでしょう。もうこのまま、うちへ帰かえれなくなるのではないでしょうか。

「正一しょういちは、地下ちか室しつにとじこめられているのですか。」

とたずねますと、賊ぞくの部下ぶかは、ぶあいそうに答こたえました。

「そうじゃないよ。この道みちは、また登のぼりになって、地面じめんの上うえに出でるのだ。あんたの子こどもは、そこの、りっぱなコンクリートのたてものの中なかで、だいじにされているよ。」

すると、もうそこが登のぼりの階段かいだんでした。せまい石いしのだんを、また三さんメートルほどはいあがり、広ひろい場所ばしょに出でました。そして、二十にじゅう歩ほほども歩あるくと、いすのようなものにこしかけさせられ、目めかくしをはずしてくれました。

目めをひらくと、すぐまえに、りっぱなテーブルがあり、その上うえに、美うつくしいほりもののある燭台しょくだいがおかれ、五ご本ほんのロウソクが、明あかるくもえていました。

テーブルのむこうがわには、まっ白しろなものと、まっかなものがありました。なんだかびっくりするようなものでした。よくみると、それはひとりの老人ろうじんでした。まっ白しろなふさふさとしたかみの毛け、胸むねまでたれたまっ白しろなあごヒゲ、もう七十ななじゅう歳さいぐらいの老人ろうじんです。それがピカピカ光ひかる、まっかながいとうのようなものをきて、大僧正だいそうじょうでもかけるような、りっぱないすにこしかけているのです。赤あかいがいとうのえりのあたりに金糸きんしのもようがあり、それに宝石ほうせきが、たくさんついています。これも大だい僧正そうじょうのきるガウンとそっくりの、きらびやかなものでした。

園井そのいさんは、めんくらってしまいました。地下ちか道どうを通とおって、べつの世界せかいへきたような感かんじです。まるで、童話どうわの国くにの王おうさまの前まえにでも、出でたような気きがするのです。

それから、部屋へやの中なかを見みまわしますと、部屋へやそのものが、またじつにみょうな形かたちをしていました。百ひゃく畳じょうもあるような、おそろしく広ひろい部屋へやです。それが、四角しかくではなく、だえん形けいのいびつな部屋へやで、まわりのかべはコンクリートなのですが、それがまた、まっすぐではなくて、へんにまがっているのです。あるところでは、ぐっとくぼんでいるかと思おもうと、あるところでは、みょうに出でっぱっているという、このごろはやる、新あたらしい彫刻ちょうこくのような感かんじなのです。

それに、窓まどというものが、ひとつもありません。てんじょうは板いたばりになっていて、その上うえが二に階かいらしいのですが、二に階かいへの階段かいだんは、まがったコンクリート壁へきにそって、鉄てつばしごのようなものが、ななめにかかっています。まるで、コンクリートの壁かべを、ヘビがはっているような感かんじです。

そのいびつな広ひろい部屋へやのまわりには、宝石ほうせき店てんのショーウィンドーのようなガラスだなが、ずらっとならんでいます。遠とおくて、よくは見みえませんが、そのガラスだなの中なかには、赤あかや青あおやむらさきのビロードのケースにはいった金銀きんぎんの美術びじゅつ品ひんが、いっぱいかざってあります。それには、みな宝石ほうせきがちりばめてあるらしく、キラキラと、美うつくしくひかっているのです。宝石ほうせきの首くびかざりや、うでわなども、ならべてあります。

じつにふしぎな家いえです。しかし、怪盗かいとう「灰色はいいろの巨人きょじん」のほんきょには、いかにも、ふさわしい場所ばしょです。怪盗かいとうは、じぶんの美術びじゅつ館かんにかざるために、「にじの宝冠ほうかん」がほしいのだといっていましたが、たしかに、ここは、りっぱな美術びじゅつ館かんでした。

「その箱はこが、にじの宝冠ほうかんですか。お見みせなさい。」

白しらヒゲの老人ろうじんが、しわがれた、おもおもしい声こえでいいました。

園井そのいさんは、うっかり箱はこをわたして、取とりあげられてしまってはいけないと思おもいましたので、

「これを見みせるまえに、正一しょういちにあわせてください。正一しょういちとひきかえという約束やくそくではありませんか。」

こちらも、強つよくいいはりました。

すると、老人ろうじんはにやりと笑わらって、

「よろしい、わたしはけっして、約束やくそくはやぶりません。だれか、正一しょういち君くんをよんできなさい。」

と、うしろの方ほうにさがっていた部下ぶかのものにいいつけました。すると、部下ぶかは、うやうやしく頭あたまをさげて、鉄てつの階段かいだんを、二に階かいへのぼっていきました。

それでは、正一しょういちは二に階かいにかんきんされているのかと、園井そのいさんは、じっと、その方ほうを見みていますと、やがて、鉄てつの階段かいだんの上うえから、ひょいと、少年しょうねんの顔かおがのぞきました。

正一しょういち君くんです。園井そのいさんは、思おもわずいすから立たちあがりました。

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