← Library‹ 灰色の巨人 切られた黒糸

お話はなしはもとにもどって、こちらは、探偵たんてい犬けんシャーロックを自動じどう車しゃの前まえにくくりつけ、自動じどう車しゃには明智あけち探偵たんていと小林こばやし少年しょうねんが乗のりこんで、イヌの走はしるままに車くるまを運転うんてんして、賊ぞくの自動じどう車しゃのあとを追おっていました。

小林こばやし君くんが賊ぞくの自動じどう車しゃの下したにコールタールのかんをつけておいたので、そのかんの針はりの穴あなから、タールが黒くろい糸いとのように流ながれ落おちて、道路どうろにタールのにおいをのこしていきます。名犬めいけんシャーロックは、そのにおいをかいで、賊ぞくの自動じどう車しゃをついせきしているのです。

シャーロックは品川しながわをはなれて、夜よるの京浜けいひん国道こくどうを、どこまでも走はしりつづけました。やがて、横浜よこはまをすぎ、さらに二十にじゅう分ふんも走はしりつづけますと、どうしたのか、シャーロックの速度そくどが、だんだんのろくなってきました。さすがの名犬めいけんも、一いち時間じかん以上いじょう、走はしりつづけたので、つかれてしまったのでしょうか。

「あ、わかった。コールタールの糸いとが切きれたのですよ。あのかんは五十ごじゅう分ふんぐらいでからになってしまいます。ぼくたちは、ここまで一いち時間じかん以上いじょうもかかったけれど、賊ぞくの自動じどう車しゃは全ぜん速力そくりょくで走はしっていたので、ちょうどこのへんで、五十ごじゅう分ふんぐらいになったのです。だから、コールタールの黒くろい糸いとがつきてしまったのです。」

小林こばやし少年しょうねんが、すばやく頭あたまをはたらかせて、イヌの速度そくどのにぶったわけを説明せつめいしました。

「うん、そうらしいね。しかし、もうすこしためしてみよう。黒くろい糸いとがたえてしまっても、まだタールのしずくが、ポツポツたれているかもしれない。シャーロックは、そのかすかなにおいを、かぎつけるだろう。」

明智あけち探偵たんていはそういって、自動じどう車しゃを徐行じょこうさせながら、シャーロックの歩あるくにまかせておきました。

探偵たんてい犬けんは、しきりに地面じめんをかぎながら、のろのろと、国道こくどうからわき道みちへまがっていきます。やっぱり明智あけち探偵たんていのいうとおり、そのほうに、コールタールのしずくが、たれているらしいのです。

しかし、そのしずくは、だんだん小ちいさくなり、しずくとしずくのへだたりが長ながくなっていくので、シャーロックの苦心くしんはひととおりではありません。長ながいあいだまよったあと、やっと、においをかぎつけて、すこしずつ進すすんでいくのです。

そうして、三百さんびゃくメートルほど進すすんだとき、いよいよ、においがなくなってしまったのか、シャーロックは、ぴったり、とまったまま動うごかなくなってしまいました。

「こんなことなら、もっと大おおきなコールタールのかんを、つけておくんだったね。」

明智あけち探偵たんていは、ざんねんそうにつぶやきましたが、まだ、あきらめられないらしく、

「ともかく、一いち度ど、おりてみよう。そして、シャーロックの綱つなを持もって、このへんを歩あるいてみよう。」

と、小林こばやし君くんをうながしました。

そこで、ふたりは車くるまをおり、にせ宝冠ほうかんのふろしきづつみを明智あけちがこわきにかかえ、イヌの綱つなは小林こばやし少年しょうねんが持もって、シャーロックの進すすむままに、そのへんを歩あるきはじめました。

そこは国道こくどうからそれた、ひじょうにさびしい場所ばしょで、かたがわは畑はたけ、かたがわは大おおきな森もりになっていました。それも平地へいちの森もりではなくて、小山こやまのような丘おかで、ずいぶん深ふかい森もりです。

シャーロックは、その森もりにそって、のろのろと歩あるいていましたが、ある場所ばしょにくると、なにか、ほかのにおいをかぎつけたらしく、いきなり森もりの中なかへ、ガサガサと、はいっていくのです。

大おおきな立木りゅうぼくの下したに小ちいさな木きがしげり、草くさがいっぱいはえていて、道みちもないところですが、シャーロックがどんどんはいっていくので、小林こばやし少年しょうねんも綱つなにひかれて、そこへはいっていきました。明智あけち探偵たんていもあとにつづきます。

深ふかい草くさや、足あしにまといつく下枝したえだをかきわけて、しばらく丘おかをのぼりましたが、やっぱりだめでした。シャーロックは、きょとんとして、そこにうずくまったまま、まったく動うごかなくなってしまいました。

明智あけち探偵たんていは、なおも、そのへんを歩あるきまわって、しらべましたが、大おおきな立木りゅうぼくばかりで、家いえらしいものはどこにも見みえず、こんなところに、賊ぞくのすみ家かがあろうとは思おもわれませんでした。

ふたりは、とうとうあきらめて、いったん、ひきあげることにしました。こんどは、シャーロックも自動じどう車しゃに乗のせて、全ぜん速力そくりょくで東京とうきょうに帰かえったのです。

東京とうきょうに帰かえると、シャーロックを、もちぬしに返かえしておいて、すぐに園井そのいさんのうちをたずねました。もう夜中よなかの十じゅう二に時じでしたが、正一しょういち君くんがもどっているかどうか、それがなによりも心配しんぱいだったからです。

園井そのいさんのげんかんのベルをおしますと、女中じょちゅうがドアをあけて、すぐ応接おうせつ室しつに通とおしてくれましたが、まもなく、園井そのいさんが正一しょういち君くんをつれて、ニコニコしながら、そこへはいってきました。

「やあ、おかげさまで正一しょういちは、ぶじにもどりました。べつに、ぎゃくたいもされなかったそうで、ごらんのとおり、こんなに元気げんきです。」

園井そのいさんがうれしそうにいいますと、正一しょういち君くんも、小林こばやし少年しょうねんと、なつかしそうにあくしゅをして、明智あけち探偵たんていには、ピョコンとおじぎをしました。

「よかったですね。で、賊ぞくのすみかは、どこでした。その家いえはどんなふうでした。」

明智あけちがたずねますと、園井そのいさんは、こまったような顔かおをして、

「それがねえ、まるでけんとうがつかないのですよ。いきも帰かえりも目めかくしをされていましたし、賊ぞくのすみかというのが、みょうな地下ちか道どうをくぐってはいるような、かわったたてものでしてね。」

それから、賊ぞくの首領しゅりょうらしい、白しらヒゲの老人ろうじんのこと、ふしぎなたてもののことなどを、くわしく話はなしました。

明智あけちはねっしんに、その話はなしを聞きいていましたが、やがて、なんと思おもったのか、いきなり右手みぎてを頭あたまにもっていって、指ゆびでモジャモジャのかみの毛けを、ぐるぐると、かきまわしはじめました。これは、明智あけち探偵たんていが、なにかうまい考かんがえが浮うかんだときに、いつもやるくせでした。

そして、園井そのいさんの話はなしが終おわると、こんどは明智あけちが話はなしをするばんでした。

「ぼくのほうは、しっぱいをしましてね。れいの黒くろい糸いとが、とちゅうで切きれてしまったのですよ。」

と、さきほどのことを、てみじかに語かたり、

「ところで、あなたが賊ぞくの自動じどう車しゃに乗のっておられたあいだは、どれほどだったでしょうか。」

とたずねるのでした。

「さあ、はっきりはわかりませんが、一いち時間じかんはかかっていませんよ。五十ごじゅう分ふんぐらいでしょうか。」

それを聞きくと、明智あけちはまた、頭あたまの毛けに指ゆびをつっこみました。

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