← Library‹ 灰色の巨人 巨人ついせき

一いち寸すん法師ほうしのさわぎで、主人しゅじんも支配しはい人にんも、うちの人ひとがみんな店みせへ集あつまってきました。

あぶない、あぶない、これは怪盗かいとうの、れいの手てかもしれません。どこからか一いち寸すん法師ほうしを、やとってきて、店みせでこんなおしばいをさせて、みんながそれに気きをとられているすきに、なにかやろうというのではないでしょうか。

そのとき、大賞たいしょう堂どうのおくのほうの物置ものおき部屋へやの板戸いたどが、ソーッとひらいていました。そして、その中なかから、若わかい女おんながあらわれました。みんな店みせのほうへいって、そのへんには、だれもおりません。この女おんなは、二に―三み日か前まえに、明智あけち小五郎こごろうがきて、主人しゅじんと話はなしていたとき、ドアのそとで立聞たちぎきした女中じょちゅうです。

物置ものおき部屋へやから出でてきたその女中じょちゅうは、古こ新聞しんぶんでくるんだものを、ブラウスの下したにかくして、ぬき足あしをして、そっと勝手口かってぐちのほうへ歩あるいていきました。そして、そこでくつをはくと、そのまま裏通うらどおりへ出でていくのです。ブラウスの下したにかくした新聞しんぶんづつみの中なかには、いうまでもなく、たくさんの宝石ほうせき類るいがはいっているのです。

女中じょちゅうが、裏通うらどおりへ出でたときに、その町まちを、ゆっくりすすんでいく、一いち台だいのからのタクシーがありました。女中じょちゅうは、いそいでタクシーをよびとめると、あたりを見みまわしながら、それにのりこんでしまいました。

それから三十さんじゅう分ふんほどのち、女中じょちゅうののった自動じどう車しゃは、白鬚しらひげ橋はしをわたって、隅田すみだ公園こうえんのやみのなかに止とまりました。女中じょちゅうはそこでおりて、まっ暗くらな立木りゅうぼくのあいだへ、はいっていきます。

そのとき、女中じょちゅうがおりたあとの自動じどう車しゃに、ふしぎなことがおこりました。車くるまのうしろの荷物にもつをいれるトランクのふたが、そっとひらいて、その中なかから、ひとりの少年しょうねんがはい出だしてきたのです。少年しょうねんは運転うんてん手しゅのところへいって、なにか、ひとこと、ふたこと、ささやくと、そのまま女中じょちゅうのあとを追おいました。

その少年しょうねんこそ、明智あけち探偵たんていの名めい助手じょしゅの小林こばやし君くんなのです。小林こばやし少年しょうねんは、明智あけち先生せんせいのめいれいによって、知しりあいのタクシーの運転うんてん手しゅにたのんで、その後部こうぶのトランクに身みをひそめたのです。そして、そのタクシーは、大賞たいしょう堂どうの裏うらどおりを、しずかに行いったりきたりして、女中じょちゅうがよびとめるのを待まっていたわけなのです。

明智あけち探偵たんていは、女中じょちゅうが物置ものおき部屋へやから、新聞しんぶんづつみの宝石ほうせきをぬすみ出だすことを、ちゃんと見みぬいていました。それで、小林こばやし少年しょうねんに、そのあとをつけさせて、灰色はいいろの巨人きょじんのすみかを知しろうとしたのです。

女中じょちゅうは、まっ暗くらな立木りゅうぼくのあいだを、どんどん歩あるいていきます。小林こばやし君くんは、あいてに気きづかれぬように、そのあとをつけました。

百ひゃくメートルほど歩あるくと、女中じょちゅうは立たちどまりました。そして、人ひと待まち顔がおに、その暗くらいところに、じっと立たっています。

すると、木きの枝えだをガサガサいわせて、そこのしげみの中なかから、なにものかがあらわれました。遠とおくの街灯がいとうの光ひかりが、かすかにてらしているだけですから、その人間にんげんの姿すがたは、はっきりは見みえませんが、ふつうの人間にんげんの倍ばいもあるような、よく太ふとった大おおきな男おとこでした。うすいオーバーをきて、ソフトをかぶっています。

女中じょちゅうはその大男おおおとこに、宝石ほうせきの新聞しんぶんづつみを手てわたすと、そのまま、もときたほうへもどっていきます。小林こばやし君くんは、見みつけられてはたいへんですから、いそいで、そばの木きのかげにかくれました。そして、これからどうしたらいいかと、ちょっと、考かんがえましたが、女中じょちゅうのほうはかまわないで、新聞しんぶんづつみを受うけとった男おとこを、尾行びこうすることにきめました。

男おとこはむこうのほうへ、大おおまたに歩あるいていきます。小林こばやし君くんは、その十じゅうメートルほどあとから、見みうしなわぬように、ついていくのです。

少すこしむこうに、街灯がいとうが立たっています。男おとこがその街灯がいとうの下したを通とおるとき、小林こばやし君くんは、男おとこの姿すがたを、はっきり見みましたが、ハッと、あることに気きづいて、思おもわず息いきをのみました。

その男おとこの身みについているものは、ソフトも、オーバーも、ズボンも、くつも、みんな灰色はいいろだったのです。男おとこが横よこをむいたとき、チラッとその顔かおを見みましたが、この男おとこは、顔かおまでも灰色はいいろがかっていました。

それに、おそろしく大おおきなやつです。ふつうのおとなの倍ばいもあります。せいが高たかいばかりでなく、横よこはばもひろいのです。つまり、ひどく太ふとっているのです。

「灰色はいいろの巨人きょじんだ。こいつこそ、灰色はいいろの巨人きょじんの首領しゅりょうにちがいない。」

小林こばやし少年しょうねんは、そう考かんがえると、なんだか身みがひきしまるように感かんじました。ところがそれからしばらくすると、じつに意外いがいなことがおこったのです。

大男おおおとこが、とつぜん立たちどまりました。そして、いつまでも動うごかないのです。いや、そればかりではありません。大男おおおとこが口くちをきいたのです。

「おい、きみも立たちどまってしまったじゃないか。どうして、ここへこないのだ。おれは、きみを待まっているんだぜ。」

むこうをむいたまま、からだにふさわしい太ふとい声こえで、そんなことをいいました。

「きみ」というのは、だれのことでしょう。そのへんに人ひとがいるはずはありません。こちらにかくれている小林こばやし少年しょうねんのことです。大男おおおとこは尾行びこうされていることを、ちゃんと知しっていたのです。

小林こばやし君くんはギョッとして、やみの中なかに、立たちすくんでしまいました。あいては、そんな大おおきな怪物かいぶつですから、足あしもはやいでしょう。にげ出だしたって、すぐにおいつかれてしまいます。もうかくごをきめるほかはありません。

小林こばやし君くんは、ぐっと下腹したはらに力ちからをいれて、木きのかげからあらわれ、だいたんに、大男おおおとこのほうへ、すすんでいきました。

「あははは……、とうとう、あらわれたな。きさま、明智あけち小五郎こごろうの助手じょしゅの小林こばやしだろう。タクシーのトランクに、かくれていたのか。おおかた、そんなことだろうとおもっていた。きみはこの新聞しんぶんづつみがかえしてほしいのだろう。だが、このおれと、ちんぴらのきみとじゃ、勝負しょうぶにならない。これをとりかえすことは、すっぱりあきらめるんだな。はははは……、きみはかわいい子こだ。おれがかわいがってやるから、まあ、こっちへくるがいい。」

大男おおおとこはニューッと、大おおきな手てをのばして、小林こばやし君くんの服ふくのえりをつかみ、まるでネコでもぶらさげるように小林こばやし君くんをぶらさげて、のしのし歩あるきだしました。ざんねんながら、こんな巨人きょじんにかかっては、もうどうすることもできません。

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