← Library‹ 黄金豹 怪老人

そのとき、列車れっしゃの中なかでは、車掌しゃしょうが、もうひとりの警官けいかんと相談そうだんして、機関きかん車しゃの運転うんてん手しゅに、急きゅう停車ていしゃの信号しんごうをしました。列車れっしゃをとめて、豹ひょうをうち殺ころすほかはないと思おもったからです。

さっきまで、豹ひょうに追おわれて、立たちさわいでいた乗客じょうきゃくたちは、ガクンというショックを感かんじて、しょうぎだおしになりました。列車れっしゃが急きゅう停車ていしゃをしたのです。

列車れっしゃがとまると、乗客じょうきゃくたちは、窓まどのところに集あつまって、かさなりあって、そとをのぞきました。黄金おうごん豹ひょうが、列車れっしゃの屋根やねに登のぼったことは、口くちから口くちにつたえられ、みんな知しっていたのです。

窓まどのそとは、見みわたすかぎり、広ひろいたんぼでした。空そらは、うすい雲くもにとざされていましたけれど、上うえのほうに月つきがあるので、そのへんいったいが、ボーッと、うす白じろく見みわけられます。

「みなさん。いまドアを開ひらきますが、危険きけんですから、車くるまからおりないようにねがいます。」

車内しゃないにとりつけてあるラウド=スピーカーが、わめきました。

おとなしい人ひとたちや、老人ろうじんや女おんなは、それをまもって、小ちいさくなっていましたが、こわいもの見みたさの、若わかい男おとこたちは、ドアの開ひらくのを待まちかねて、列車れっしゃからとびおりました。そして、レールのしいてある土手どての上うえを、あちこちと、さわぎまわるのです。

列車れっしゃの中なかにのこっていた警官けいかんと、車掌しゃしょうとが、土手どてにおりて、みんな車くるまの中なかに帰かえるように注意ちゅういしましたが、なかなか、いうことをきくものではありません。車くるまからとび出だしてくる人ひとのかずは、だんだん、ふえるばかりです。

警官けいかんは列車れっしゃの屋根やねを見みあげて、そこに登のぼっている、もうひとりの警官けいかんに、呼よびかけます。すると、なかほどの客車きゃくしゃの屋根やねの上うえから、その警官けいかんが顔かおを出だして、叫さけびました。

「豹ひょうは、屋根やねからおりた。もう屋根やねの上うえには、すがたが見みえない。みんな用心ようじんしてください。」

それを聞きくと、うろついていた乗客じょうきゃくたちが、ワーッと、なだれをうって、もとの車室しゃしつへ、逃にげこもうとします。

しかし、豹ひょうのすがたは、どこにも見みえません。おりなかった乗客じょうきゃくたちは、両りょうがわの窓まどから、そとを見みているのですから、豹ひょうがどちらへ逃にげても、気きがつかぬはずはないのです。また、屋根やねの上うえの警官けいかんは立たちあがって、四方しほうを見みまわしていたのですから、あの金きんピカのやつが、逃にげていけば、かならず目めについたはずです。ところが、いつまで待まっても、豹ひょうはどこにもあらわれません。

「へんだな。あいつは、もしかしたら、列車れっしゃの中なかへ、もどったのじゃないだろうか。」

だれかが、そんなことをいいますと、乗客じょうきゃくたちは、また、さわぎはじめました。車くるまの中なかにいたらいいのか、そとへ逃にげたらいいのか、わからなくなってしまって、ただ、うろうろするばかりです。屋根やねにいた警官けいかんは下したにおりて、もうひとりの警官けいかんといっしょに、列車れっしゃの中なかをしらべました。車掌しゃしょうやボーイなども、てつだって、長ながい列車れっしゃの、はしからはしまでしらべましたが、黄金おうごん豹ひょうは、どこにもいないのです。

警官けいかんたちは、また土手どてにおりて、運転うんてん手しゅのてらす手てさげ電灯でんとうで、列車れっしゃの下したをのぞきまわりました。車輪しゃりんの間あいだにかくれているかもしれないと思おもったからです。しかし、なにも発見はっけんすることができませんでした。警官けいかんたちが、客車きゃくしゃにもどろうとすると、そこにかたまっていた乗客じょうきゃくの中なかから、ひとりの老人ろうじんが、前まえに出でてきました。黒くろい背広せびろをきて、白しろいあごひげを胸むねにたらした六十ろくじゅうをこしたじいさんです。

「おじいさん。あぶないから、はやくじぶんの席せきにもどりなさい。」

警官けいかんが、注意ちゅういしますと、じいさんはニヤニヤと笑わらって、

「なあに、だいじょうぶ。わしは、こう見みえても、若わかいものに負まけませんよ。ところで、あの化ばけものは、どうしましたね。金色きんいろの豹ひょうは、どこへいきましたね。」

「ふしぎなことに、どこにもいないのです。かき消けすように、見みえなくなってしまいました。」

「ふふん、また魔法まほうをつかったな。あいつは、あぶなくなると、忍術にんじゅつつかいみたいに、パッと、消きえうせる術じゅつを、心得こころえておるのじゃ。しかし、ゆだんはなりませんぞ。あいつは化ばけものだからね。なににでも化ばける。思おもいもよらないものに化ばけて、ちゃんとこの汽車きしゃに乗のっているかもしれない。そして、いまにまた、みんなの、どぎもをぬくようなことを、はじめるかもしれませんぞ。」

じいさんは、そういって、またニヤニヤと、うすきみ悪わるく笑わらうのでした。

しかし、いつまでも列車れっしゃをとめておくわけにはいきませんので、車掌しゃしょうと運転うんてん手しゅは相談そうだんのうえ、乗客じょうきゃくたちを、のこりなく客車きゃくしゃにのせて、そのまま発車はっしゃすることにしました。

警官けいかんは宝石ほうせきを盗ぬすまれた宝石ほうせき商しょうに、くわしく、事情じじょうを聞ききとりました。もとの席せきにもどった乗客じょうきゃくたちは、もう眠ねむるどころではありません。黄金おうごん豹ひょうが列車れっしゃのどこかにかくれていて、また、すがたをあらわすのではないかと、びくびくしながら、一夜いちやをあかしました。

「こんな、いのちがけの汽車きしゃには、乗のっていられない。」と、途中とちゅうの駅えきでおりてしまった人ひとも、すくなくありません。

さっきの白しろひげのじいさんは、どこへいったのでしょう。べつに途中とちゅうでおりたようすもないので、どこかに乗のっているのでしょうが、だれも、あのじいさんを見みたものはないのです。

あやしいじいさんです。さっきは、なぜあんなことをいったのでしょう。

「いまに、みんなの、どぎもをぬくようなことがおこる。」といいました。どうして、じいさんは、それを知しっているのでしょう。ほんとうにそんなことが、おこるのでしょうか。

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