← Library‹ 黄金豹 怪獣の正体

そのとき、どこからともなく、ふしぎな口くちぶえの音おとが、聞きこえてきました。やわらかい調子ちょうしの口くちぶえです。それが、暗くらやみの地下ちか室しつのむこうのほうから、だんだん、近ちかづいてくるように、感かんじられるのでした。

すると、みょうなことがおこったのです。いままで小林こばやし君くんにいどみかかっていた黄金おうごん豹ひょうが、前足まえあしを小林こばやし君くんの肩かたからおろして、口くちぶえにさそわれるように、その音おとのほうへ、のそのそと、歩あるいていくのです。

これを見みた老人ろうじんは、びっくりして、懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりを、そのほうへ、ふりむけました。

「アッ! き、きさま、なにものだッ!」

地下ちか室しつのむこうのすみに、黒くろい背広せびろをきた、せいの高たかい男おとこが、立たっていたのです。その男おとこはニコニコ笑わらいながら、ピストルの筒口つつぐちを、じっとこちらに向むけております。

老人ろうじんは、そのピストルを見みて、たじたじと、あとずさりをしました。老人ろうじんもポケットに、ピストルを持もっていましたが、それを出だすひまがないのです。

「アッ! 先生せんせい!」

小林こばやし少年しょうねんが、かんだかい声こえで叫さけんで、その男おとこにかけよりました。それは、おもいもよらぬ明智あけち探偵たんていだったのです。

怪かい老人ろうじんも、それをさとりましたが、相手あいてにピストルをつきつけられているので、どうすることもできません。

「おい、じいさん。その懐中かいちゅう電灯でんとうを、小林こばやし君くんにわたすんだ。」

小林こばやし少年しょうねんが老人ろうじんに近ちかづくと、老人ろうじんは、しかたなく、懐中かいちゅう電灯でんとうをわたしました。

「さあ、きみは、これを持もって、あいつを、ねらっていたまえ。いま、おもしろいものを、見みせてあげるからね。」

小林こばやし君くんは、いわれるままに、ピストルをうけとって、右手みぎてにかまえました。懐中かいちゅう電灯でんとうは、左手ひだりてに持もって、明智あけちと、黄金おうごん豹ひょうと、怪かい老人ろうじんとを、かわりばんこに、てらしているのです。

明智あけちはまた、やさしく口くちぶえを吹ふきました。すると、あの恐おそろしい黄金おうごん豹ひょうが、まるで小犬こいぬのように、明智あけちにからだをすりよせて、あまえるのです。明智あけちはその豹ひょうの背中せなかを、なでながら、説明せつめいしました。

「ぼくは、自動じどう車しゃをかくして、すぐにもどってきた。そして、あやしい男おとこを尾行びこうしている、きみのあとから、森もりのなかへ、はいった。それから、きみたちの先さきまわりをして、西洋せいよう館かんのそばに、かくれていたのだ。

あの男おとこは、西洋せいよう館かんの入口いりぐちからは、はいらなかった。横手よこての草くさにおおわれた洞穴ほらあなの中なかへ、はいっていった。秘密ひみつの出入でいり口くちなのだ。ぼくもあとからその穴あなへはいった。それは、この家いえの地下ちか室しつへつうじていた。この部屋へやではない。地下ちか室しつはいくつもあるのだ。むこうのほうの部屋へやだ。

あの男おとこが、むこうの地下ちか室しつへはいったので、ドアのすきまから、のぞいていると、男おとこがみょうなことをはじめた。

その部屋へやには、一いちぴきの大おおきな犬いぬがとじこめてあった。あの男おとこは、部屋へやの戸棚とだなから、金色きんいろの豹ひょうの皮かわを取とりだして、それをその犬いぬにきせた。すると、たちまち、一いちぴきの黄金おうごん豹ひょうが、できあがってしまったのだ。

そのとき、きみが玄関げんかんのベルをおしたので、男おとこはいそいで、一いち階かいへあがっていった。なにか、さしずをしているらしく、しばらくおりてこなかった。

そのすきに、ぼくは、豹ひょうの皮かわをかぶった大犬おおいぬと、すっかり仲なかよしになってしまった。ぼくは動物どうぶつを手てなずけることが、得意とくいだからね。

しばらくすると、男おとこが上うえからおりてきたが、そのときは、白しろひげのおじいさんに変装へんそうしていた。それが、このじいさんなのだ。」

明智あけちはそういって、立たちすくんでいる怪かい老人ろうじんを指ゆびさしました。

「そして、いま、ぼくにじゃれついているのは、じいさんの飼かっている大犬おおいぬだ。黄金おうごん豹ひょうの皮かわをかぶせられた犬いぬにすぎないのだ。ほら、見みたまえ。こうして、腹はらのかくしボタンをはずせば、わけなく皮かわをぬがせることができる。」

いいながら、明智あけちは手てばやく、豹ひょうの皮かわを、はぎとってしまいました。その皮かわの下したから、あらわれたのは、大おおきな一いちぴきの犬いぬでした。皮かわをはがれた犬いぬは、おとなしく明智あけちのそばに立たっています。

「おい、じいさん。きみは、あのネコじいさんと同おなじ人間にんげんだね。黄金おうごん豹ひょうが、すがたを消けしたあとには、かならず白しろひげのじいさんがいた。きみはあのじいさんだね。いや、ほんとうは、じいさんなんかじゃない。きみはまだ若わかい、くっきょうな男おとこだ。でなくて、あんな危険きけんな離はなれわざが、できるはずはない。」

明智あけちは、そんなことをしゃべりながら、怪かい老人ろうじんに近ちかづいていきました。

そして、老人ろうじんのからだにさわって、ピストルのかくしてある場所ばしょを捜さがし、上着うわぎの右みぎのポケットから、一いちちょうの小こがたピストルを取とりだして、じぶんのポケットにいれてしまいました。

そんなことをされても、小林こばやし少年しょうねんが、じっと、ピストルのねらいをさだめているので、老人ろうじんは、どうすることもできないのです。

「きみはこの犬いぬを、じつによく訓練くんれんした。豹ひょうに化ばけているときは、ぜったいに吠ほえないこと、追おっかけられたら、かならず、さだめておいた場所ばしょへ逃にげること、そのふたつをちゃんと、まもらせたので、みんなが、だまされてしまった。

しかし、きみが、この犬いぬをつかったのは、銀座ぎんざの美び宝たから堂どうの美術びじゅつ品ひん陳列ちんれつ所しょから歩あるきだしたときと、日本橋にほんばしの江戸えど銀行ぎんこうにあらわれたときだけだった。

美び宝たから堂どうの事件じけんでは、夜よるの銀座ぎんざ通とおりを、長ながいあいだ、警官けいかんに追おわれて、走はしらなければならなかった。だから、人間にんげんが豹ひょうの皮かわをかぶったのでは、ごまかせない。ほんとうの動物どうぶつでなくては、うまく走はしれないからだ。

銀行ぎんこうにあらわれたときは、まず、きみが老ろう紳士しんしに化ばけて応接おうせつ室しつにはいり、横丁よこちょうに開ひらいている窓まどから、この犬いぬをいれて、豹ひょうの皮かわをきせ、じぶんは変装へんそうをして、若わかい銀行ぎんこう員いんに化ばけた。そして、応接おうせつ室しつをぬけだしてしまった。そのあとへ支配しはい人にんが応接おうせつ室しつへ帰かえってくると、黄金おうごん豹ひょうが安楽あんらくイスに、こしかけていたというわけだ。そして、みんなが豹ひょうに気きをとられているすきに、若わかい銀行ぎんこう員いんに化ばけたきみが、金庫きんこのなかにはいって、札さつたばを盗ぬすみ、豹ひょうが二に階かいにかけあがって、べつの階段かいだんからおりてくるのを待まちぶせて、豹ひょうの皮かわをはぎ、もとの犬いぬにもどして、なにくわぬ顔かおで、裏口うらぐちから逃にげだしたのだ。これだけのことを、しらべるのにも、ぼくはずいぶん苦労くろうをしたものだよ。」

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