← Library‹ 魔法博士 悪魔のなぞ

「ウフフフ……、どうだね。この魔法まほうの種たねがわかるかね。さすがの小林こばやし君くんにも、これだけはわかるまいて。ウフフフ……。」

老ろう黒人こくじんは、人ひとをばかにしたように、うすきみ悪わるく笑わらうのでした。

小林こばやし、井上いのうえの二に少年しょうねんは、親友しんゆうのノロちゃんが消きえてしまっては、たいへんですから、部屋へやの中なかをグルグルまわって、どこかに秘密ひみつの出入でいり口くちはないかと、夢中むちゅうになってさがしました。

しかし、四方しほうの壁かべも、てんじょうも、床ゆかも、かたいコンクリートで、どこにも、あやしいところはないのです。ああ、これはなんという、恐おそろしい魔法まほうでしょう。あの巨大きょだいなゾウが、厚あついコンクリートの壁かべを、幽霊ゆうれいのように通とおりぬけて、どこかへいってしまったのです。

さすがの小林こばやし少年しょうねんも、この、とほうもないなぞは、どうしても、とくことができませんでした。人間にんげんの知恵ちえでは、考かんがえられない悪魔あくまのなぞです。

「ウフフフ……、こまっているね。きみは、さっき、インド奇術きじゅつのなぞを、すらすらと、といたくせに、このなぞは、とけないのかね。ウフフフ……、それも、むりはないね。これは、魔法まほうの、とっておきの大だい魔術まじゅつだからね。きみの先生せんせいの明智あけち小五郎こごろうにだって、わかりっこないよ。さあ、もうあきらめて、そとに出でたらどうだ。いつまで、この部屋へやにいたって、ノロちゃんは、帰かえってきやしないよ。」

この老ろう黒人こくじんは、魔法まほう博士はかせが変装へんそうしているにちがいありません。かれは、じぶんの魔術まじゅつを、得意とくいそうに自慢じまんしているのです。

「ノロちゃんをどこへかくしたのです。かえしてください。ノロちゃんを、かえしてください。」

井上いのうえ少年しょうねんが、老ろう黒人こくじんのだぶだぶの着物きものをつかんで、一生いっしょうけんめいに、たのみました。

「ウフフフ……、そんなに、心配しんぱいになるのかね。よし、それじゃノロ君くんを、天国てんごくから取とりもどしてやろう。だが、それには、一いち度どこの部屋へやを出でなくてはいけない。そして、あの扉とびらを、ぴったりと、しめきっておかないと、ノロ君くんは、もどってこないのだよ。」

魔法まほう博士はかせの老ろう黒人こくじんは、そういって、じぶんが先さきに立たって、外そとの廊下ろうかへ出でていきます。二に少年しょうねんも、しかたがないので、そのあとからついて出でました。

老ろう黒人こくじんは、みんなが出でてしまうと、あの大おおきなかんのん開びらきの扉とびらを、ぴったりしめてしまいました。

「さあ、しばらく待まっているのだ。わしが心こころの中なかでじゅもんをとなえると、あのゾウが、この部屋へやへ帰かえってくる。天国てんごくから、おりてくるのだ。」

そういって、老ろう黒人こくじんは、目めをつむり、両手りょうてを前まえにあわせて、なにか術じゅつを使つかうような、かっこうをしました。そうして、長ながいあいだ、じっとしていました。五ご分間ふんかんほども、目めをつむったまま、身みうごきもしなかったのです。

すると、部屋へやの厚あつい扉とびらの中なかから、ゴーッと、あの巨大きょだいなラッパのような、うなり声ごえが、聞きこえてきました。ゾウです。ゾウが、いま帰かえりましたと、あいずをしているのです。

それを聞きくと、老ろう黒人こくじんは、目めをぱっちりひらいて、ニヤニヤと笑わらいました。じゅもんのききめがあらわれたのを、よろこんでいるのでしょう。そして、つかつかと、扉とびらの前まえにすすんで、両手りょうてでそれをひらきました。

すると、ああ、どうでしょう。部屋へやの中なかには、あの巨きょゾウが、のっそりと立たっていたではありませんか。背中せなかの怪かい黒人こくじんとノロちゃんも、もとのままです。

小林こばやし、井上いのうえの二に少年しょうねんは、「あっ。」と叫さけんで、いきなり、そのそばへかけよりました。

そのとき、背中せなかにのっていた怪かい黒人こくじんは、ゾウの耳みみのうしろを、ペタペタとたたきながら、

「さあ、わしたちを、おろすのだよ。」

と、命令めいれいしました。

ゾウは人間にんげんのことばがわかるらしく、いきなり長ながい鼻はなを、スーッと、じぶんの頭あたまの上うえにあげて、ノロちゃんのからだに、巻まきつけたかとおもうと、しずかに下したへおろしました。つぎには、怪かい黒人こくじんも、同おなじようにして、おろしたのです。

ノロちゃんは、下したにおろされると、いきなり小林こばやし少年しょうねんにだきつきました。こわくてしかたがないのを、いままで、じっとがまんしていたからです。もう、あえないかと思おもっていた小林こばやし君くんたちの顔かおを見みたので、すっかりうれしくなったからです。

「きみ、いったい、どこへいってたの? ゾウはこの部屋へやから、どうして、ぬけだしたの?」

小林こばやし君くんは、まず、それをたずねました。するとノロちゃんは、へんな顔かおをして、

「えっ? ぬけだしたって? ぼくたち、ずっと、この部屋へやにいたよ。ゾウはすこしも、動うごかなかったよ。」

と答こたえました。

「なにをいってるんだ。この部屋へやは、いままで、からっぽだったじゃないか。きみはゾウといっしょに、どこかへ、消きえてしまっていたんだよ。」

「へえ? おかしいな。そういえば、なんだか、スーッと、からだが、浮うくような気持きもちがしたけれども、この部屋へやからは、一いち度ども、出でなかったよ。」

まさか、ノロちゃんが、うそをいうはずはありません。これはいったい、どうしたことでしょう。ノロちゃんは、部屋へやを出でなかったといいます。しかし、部屋へやがからっぽになっていたことも、たしかなのです。

「ウフフ、小林こばやし君くん、そこじゃよ。魔法まほうの種たねは、そこにあるのじゃよ。わかるまい。いくら名めい探偵たんていでも、この秘密ひみつだけは、わかるはずがないのだ。」

魔法まほう博士はかせの老ろう黒人こくじんは、あざけるようにいうのです。小林こばやし君くんは、一生いっしょうけんめいに考かんがえました。しかし、いくら考かんがえても、わかりません。いったい、そんなふしぎなことが、どうしてできるのか、まるで、けんとうもつかないのです。小ちいさいノロちゃんひとりなら、どうにでもなるでしょうが、あの巨大きょだいなゾウが消きえたのです。消きえたかとおもうと、またあらわれたのです。そんなことが、できるはずがないではありませんか。

読者どくしゃ諸君しょくん、この秘密ひみつが、わかりますか? やっぱり一ひとつの奇術きじゅつなのです。種しゅがあるのです。びっくりするような種たねがあるのです。しかし、このなぞは、さすがの小林こばやし少年しょうねんにも、とけなかったので、そのまま、秘密ひみつとして残のこりました。やがて、その秘密ひみつのとけるときがくるのです。そのときには、おもいもよらぬ大だい騒動そうどうがおこります。そして、その騒動そうどうといっしょに、ゾウの消きえうせたふしぎななぞが、とけるのです。

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