← Library‹ 魔法博士 ロウ人形

部下ぶかは、このふしぎな事件じけんを、すぐに首領しゅりょうの魔法まほう博士はかせのところへ、知しらせにいきました。

魔法まほう博士はかせは、奥おくまったところにある、りっぱな寝室しんしつで寝ねていました。部下ぶかがはいっていきますと、絹きぬのカーテンでかこまれた、大おおきな寝台しんだいの中なかから、「だれだ?」という声こえがして、カーテンの合あわせめがひらき、そこから、金色きんいろにキラキラ光ひかるきみの悪わるい顔かおが、ニュッとのぞきました。

それが魔法まほう博士はかせなのです。魔法まほう博士はかせは黒くろビロードのガウンをきて、黄金おうごんの仮面かめんをつけて寝ねているのです。それは、黄金おうごん怪人かいじんにばけるときにかぶる、あの仮面かめんとはちがって、顔かおの前まえだけをかくす、ふつうのお面めんですが、それが金色きんいろをした黄金おうごん仮面かめんなのでした。

「ああ、きみか。いまごろ、なんの用事ようじだ?」

黄金おうごん仮面かめんの三み日か月がつがたの口くちから、魔法まほう博士はかせの声こえが、とがめるようにもれてきました。

「なんだか、へんなやつが、わたしの窓まどの外そとをうろうろしていたのです。追おっかけましたが、つかまりません。どっかへ消きえてしまいました。まっ黒くろなばけもののようなやつでした。」

「そうか。そういう怪物かいぶつが、やってくるだろうと思おもっていた。きみ、そいつが、何者なにものだか知しっているかね。」

「わかりません。先生せんせいは、ごぞんじなんですか。」

部下ぶかは魔法まほう博士はかせのことを、先生せんせいとよんでいます。

「明智あけち探偵たんていだよ。わしが少年しょうねん探偵たんてい団だんのバッジで、おびきよせたのだ。やっこさん、とうとう、やってきたな。だが、消きえてしまったというのは、いったい、どうしたわけだ。くわしく話はなしてみたまえ。」

そこで部下ぶかは、窓まどからとびだして、怪物かいぶつを追おっかけ、建物たてものをひとまわりしたことを、くわしく報告ほうこくしました。

「ばかめっ!」魔法まほう博士はかせは恐おそろしい声こえで、どなりつけました。

「きみは、うまく、いっぱいくったのだ。明智あけちは、きみがあけておいた窓まどから、先さきまわりをして、とびこんだにちがいない。あいつはすばしっこいやつだからな。すぐに、みんなを集あつめて、家いえの中なかをさがしなさい。あいつはきっと、どっかにかくれている。」

魔法まほう博士はかせにしかりつけられた部下ぶかは驚おどろいて、部屋へやをとびだしていきました。二十にじゅう人にんほどの部下ぶかが、建物たてもののあちこちに寝室しんしつをもっています。それを全部ぜんぶおこして、深夜しんやの捜索そうさくがはじまったのです。

魔法まほう博士はかせのすみかは、地上ちじょうの建物たてものだけではなくて、広ひろい地下ちか室しつがあります。岩いわでできた廊下ろうかが、迷路めいろのようにつづいて、その中なかにインド魔術まじゅつをやってみせたあの大おおきな洞窟どうくつや、ゾウが消きえた大おおきな部屋へやや、小林こばやし君くんたちが通かよった巨大きょだいな人間にんげんの胎内たいないくぐりや、いろいろな地底ちていのしかけがあるのです。また、出入でいり口くちも、赤あかレンガの建物たてものだけでなく、小林こばやし君くんたちのもぐりこんだ原はらっぱの穴あながあります。

そういう広ひろいふくざつな、場所ばしょをさがすのですから、たいへんです。二十にじゅう人にんの部下ぶかが手てわけをして、大おおきな手てさげ電灯でんとうをてらしながら、あけがたまでかかって、すみからすみまでしらべましたが、黒くろい怪物かいぶつは、どこにもいません。どうしても、みつけだすことができないのでした。

とうとう、夜よるがあけてしまったので、捜索そうさくはいちおう、うちきることにしましたが、魔法まほう博士はかせは、明智あけちがしのびこんだと信しんじていましたので、すみかの中なかばかりに気きをとられ、外そとのことが、おるすになっていました。

それが、明智あけちの思おもうつぼでした、明智あけちは魔法まほうつかいのようなふしぎな方法ほうほうで、身みをかくしながら、そのつぎの晩ばんには、またふたりの黒くろい怪物かいぶつを、博士はかせのやしきの中なかへひきいれたのです。こんどは邸内ていないに明智あけちがいるのですから、しのびこむのは、わけがありません。真ま夜中よなかに、明智あけちのひらいてくれた窓まどから、そっとはいりこんで、どこかへ、姿すがたをかくしました。ふたりとも、頭あたまから黒くろいきれをかぶった、おばけのような人間にんげんでしたが、ひとりは、明智あけちと同おなじくらいの大おおきさ、ひとりは、子こどものように小ちいさい姿すがたでした。

さてさいしょ、黒くろい怪物かいぶつがしのびこんでから、二ふた日か目めの真ま夜中よなかのことでした。魔法まほう博士はかせは、黄金おうごん仮面かめんをつけ、黒くろビロードのガウンをきて、絹きぬのカーテンにかこまれた寝台しんだいに寝ねていましたが、ふと、物もののうごめくけはいを感かんじて、目めをひらきました。すると目めの前まえにさがっている絹きぬのカーテンの合あわせめがひらいて、そこから、美うつくしい西洋せいよう人にんの女おんなの顔かおが、のぞきこんでいました。

魔法まほう博士はかせは、それを見みると、おもわず、ぞっとしました。

その顔かおは、美うつくしいけれども、死人しにんの顔かおのように動うごかなかったからです。それはロウでできた人形にんぎょうの顔かおだったからです。

魔法まほう博士はかせの人造じんぞう人間にんげんの部屋へやには、たくさんのロボットや、ロウ人形にんぎょうがおいてありました。それらの人形にんぎょうどもは、みんな機械きかいじかけで動うごくようになっていました。このお話はなしのはじめのほうで、井上いのうえ少年しょうねんとノロちゃんがいれられた部屋へやは、壁かべにいっぱい人造じんぞう人間にんげんの絵えがかいてありました。そして、男おとこのロウ人形にんぎょうがでてきて、ふたりを黄金おうごん怪人かいじんのところへ案内あんないしました。いま魔法まほう博士はかせの寝室しんしつにあらわれたのも、そういう人形にんぎょうのひとつだったのです。

しかし、その自動じどう人形にんぎょうが、どうして、いまごろ、ここへやってきたのでしょう。人形にんぎょうがじぶんの力ちからで、かってに歩あるいてきたのでしょうか。

あいては人形にんぎょうですから、しかりつけるわけにもいきません。魔法まほう博士はかせは、だまって、人形にんぎょうの顔かおを見みつめているばかりです。

すると、美うつくしい女おんなの口くちから、しわがれた男おとこの声こえが、かすかにもれてきました。

「魔法まほう博士はかせ! きみの運命うんめいも、もうおしまいだよ。いまに恐おそろしい破滅はめつがくるぞ。」

ロウ人形にんぎょうがものをいったのです。目めも口くちも、すこしも動うごかないで、声こえだけがもれてくるのです。

自動じどう人形にんぎょうのことですから、ものをいうしかけがありましたが、それはきまったことばだけで、こんなかってなことが、いえるはずはありません。

人形にんぎょうにたましいがこもって、生いきた人間にんげんにかわってしまったのでしょうか。

魔法まほう博士はかせは、ぎょっとして、身みがまえをしました。

「きさま、何者なにものだっ!」

おもわず、どなりつけますと、人形にんぎょうは美うつくしいロウの顔かおをすこしも動うごかさないで、奇妙きみょうな笑わらい声ごえをたてました。

「エヘヘヘ……、わたしは、人形にんぎょうだよ。きみの作つくったロウ人形にんぎょうだよ。」

「うそをいえ! わしは、そんな、かってな口くちをきく人形にんぎょうを作つくったおぼえはない。さては、きさまは……。」

魔法まほう博士はかせは、いきなり、人形にんぎょうにとびかかろうとしました。すると、人形にんぎょうの手てが、カーテンの合あわせめから、ヌーッと、出でてきたかとおもうと、恐おそろしい力ちからで、博士はかせの胸むねを、ぐんと、つきとばしたのです。

ふいをつかれて、博士はかせはベッドの上うえにたおれました。するとぱっと、カーテンがとじて、人ひとの走はしる足音あしおとが、向むこうの方ほうへ遠とおざかっていきました。そして、パタンと、ドアのしまる音おと。

魔法まほう博士はかせは、やっとおきあがって、カーテンの外そとへ、とびだしましたが、もう、部屋へやの中なかには、だれもいません。人形にんぎょうは、いちはやく、逃にげさってしまったのです。

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