← Library‹ 妖人ゴング 地上と地下

そのとき、花崎はなさきさんの広ひろい庭にわに、何十なんじゅう人にんという黒くろい人影ひとかげがむらがっていました。ことに防空ぼうくう壕ごうの土手どてのまわりに、おおぜいの人ひとが集あつまっているのです。

懐中かいちゅう電灯でんとうが、あちこちで照てらされ、夜よるの庭にわに、その光ひかりが、星ほしのようにきらめいていました。

庭にわの池いけのまわりにも、四よん―五ご人にんの黒くろい人影ひとかげがありました。みんな小ちいさなからだです。子こどものようです。

懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりが、スーッと池いけの水面すいめんを照てらしました。

「あっ、池いけの水みずが、あんなに、へっちゃったよ。もう防空ぼうくう壕ごうが、いっぱいになったかもしれないよ。」

「うん、はやく助たすけてやらないと、あいつ死しんじゃうかもしれないね。」

それは少年しょうねんの声こえでした。

みると、池いけの水みずは、もう、いつもの半分はんぶんほどにへっているのです。

懐中かいちゅう電灯でんとうが動うごいて、ひとりの少年しょうねんの顔かおを照てらしました。あっ、井上いのうえ一郎いちろう君くんです。少年しょうねん探偵たんてい団だんの井上いのうえ君くんです。すると、ここにいる少年しょうねんたちは、みんな少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんなのでしょうか。

防空ぼうくう壕ごうのまわりにも、小ちいさい黒くろい影かげがむらがっていました。

防空ぼうくう壕ごうの土手どてには、両方りょうほうのはしに、出入でいり口くちの鉄てつのとびらが閉しまっています。その両方りょうほうの出入でいり口くちの前まえに、小ちいさい影かげが集あつまっているのです。

いっぽうの出入でいり口くちの前まえで、こんな声こえが聞きこえました。

「小林こばやしさん、だいじょうぶなの? あいつ魔法まほうつかいだから、とっくに、防空ぼうくう壕ごうの中なかからぬけだしてしまったんじゃないかしら?」

「だいじょうぶだよ。あいつは、魔法まほうつかいじゃない。ただの人間にんげんだよ。悪あく知恵ちえをはたらかせて、魔法まほうをつかうように見みせかけているだけだよ。いくらゴングだって、この厳重げんじゅうな防空ぼうくう壕ごうから逃にげだせるもんか。」

懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりが動うごいて、チラッとふたりの顔かおを照てらしました。ひとりは探偵たんてい団だん長ちょうの小林こばやし少年しょうねん、もうひとりは、ちゃめで、おくびょうもののノロちゃんでした。

「そんなら、防空ぼうくう壕ごうの中なかは、いまごろ水みずでいっぱいになっているだろうから、あいつ、死しんじゃったかもしれないね。」

ノロちゃんが、心配しんぱいそうにいいました。

「だいじょうぶだよ。明智あけち先生せんせいは、人ひとを殺ころしたりなんかしはしないよ。ごらん! あれを。」

小林こばやし少年しょうねんは、防空ぼうくう壕ごうの土手どての上うえを指ゆびさしました。

小山こやまのようになった土手どての上うえに、三さん人にんのおとなの影かげが見みえています。ひとりは、そこに立たって、懐中かいちゅう電灯でんとうを照てらしながら、なにかさしずをしています。あとのふたりは、一いち本ほんずつシャベルを持もって、しきりと、土手どての上うえの土つちを掘ほっています。

「ああ、あそこへ穴あなを掘ほって、ゴングを助たすけだすんだね。」

「助たすけだすんじゃない。つかまえるのだよ。とうとう、ゴングも、明智あけち先生せんせいの計略けいりゃくにかかってしまったねえ。これでもう花崎はなさき君くんたちは安心あんしんだよ。」

防空ぼうくう壕ごうのまわりには、少年しょうねんたちのほかに、数すう人にんの制服せいふく警官けいかんの姿すがたも見みえました。妖あやかし人にんゴングを逮捕たいほするために、手てぐすねひいて、待まちかまえているのでしょう。

×    ×    ×

防空ぼうくう壕ごうの水みずの中なかでは、魔法まほうの力ちからをうしなったあわれなゴングが、きちがいのように、わめいていました。

「助たすけてくれええ……、だれか、きてくれええ……。」

しかし、壕ごうの中なかは水みずばかりで、空気くうきはてんじょうにおしつけられているものですから、つまったようなへんな声こえになってしまいます。むろん、外そとまで聞きこえるはずはないのです。

ゴングは叫さけびつかれて、とうとう、だまりこんでしまいました。水みずのつめたさで、からだがしびれてしまって、手足てあしをもがきながら水みずに浮ういているのが、やっとです。

「ちくしょうめ! 明智あけちのやろう、おれをこんなひどいめに、あわせやがって……。だが、おれはまだ、あきらめないぞ。なんとかして、ここをぬけだし、こんどこそ、きさまを、とっちめてやるぞっ!」

ゴングは、口くちの中なかで、そんなことを、ぶつぶつ、つぶやいていました。

すると、そのとき、どこかから、ブルルルルル……という、へんてこな音おとが聞きこえてきました。なんだか、オートバイのエンジンをかけているような音おとです。

「いや、ちがう。オートバイが、こんなところへくるはずがない。ひょっとしたら、水みずがどっかへ流ながれだしているんじゃないかな。小ちいさな穴あなから流ながれだす音おとじゃないかな。」

ゴングは、手てをのばして、てんじょうにさわりながら、じっと考かんがえていました。

しかし、てんじょうと水面すいめんのあいだは、遠とおくなるどころか、じりじりと、近ちかづいていることがわかりました。水みずがひいているのではないのです。

「ブルルルルルル……。」

その、みょうな音おとにつれて、てんじょうにさわっている手てがブルブルふるえてきました。つまり、コンクリートのてんじょうそのものが、ふるえているのです。

「ブルルルル……ブルルルル。」

その音おとは、ますます強つよくなり、てんじょうは、いよいよ、はげしくふるえてきました。

地震じしんではありません。しかし、なにか恐おそろしい異変いへんが起おこる前まえぶれではないでしょうか。さすがのゴングも、なんともえたいのしれぬこわさに、ふるえあがってしまいました。

あっ、たいへんです。コンクリートのてんじょうが、メリメリと音おとをたてて、ひびわれてきたではありませんか。それが、手てさぐりで、わかるのです。

やっぱり、地震じしんかもしれません。てんじょうがこわれ、その上うえの土手どての土つちといっしょに落おちこんできて、ゴングは生いきうめになってしまうのではないでしょうか。

「ブルルルル……、ブルルルルル……。」

音おとはすこしもやみません。そのうちに、上うえから、なにか、バラバラと落おちてきました。砂すなのようなもの、小石こいしのようなもの、なかには、大おおきな石いしのかたまりのようなものが、頭あたまの上うえにふりそそいで、水面すいめんに、ボチャン、ボチャンと落おちるのです。

ゴングは、いよいよ、この世よのおわりがきたのかと思おもいました。もう、どうすることもできません。水みずの中なかへもぐってみても、助たすかるみこみはありません。ゴングはかくごをきめて、頭あたまの上うえにふりそそぐ、砂すなや小石こいしを、じっとがまんしているほかはないのでした。

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