← Library‹ 魔法人形 ユリ子人形の秘密

進一しんいち君くんは、懐中かいちゅう電灯でんとうのあいずをしておいてから、すばやくかけ出だしました。ユリ子こ人形にんぎょうがサナエちゃんの人形にんぎょう部屋へやへもどらないうちに、さきまわりをして、待まちかまえているつもりなのです。

進一しんいち君くんは、こんやは、はじめからその計画けいかくでした。いままで、ユリ子こ人形にんぎょうを追おっかけたときは、人形にんぎょうよりもあとから、人形にんぎょう部屋へやへはいったのです。すると、そこにいるのはいつも、たたけばこちこちと音おとのする、ほんとうの人形にんぎょうでした。

ですから進一しんいち君くんは、生いきて動うごく人形にんぎょうが、こちこちの人形にんぎょうとかわるところを、見みてやりたいと思おもいました。それには、人形にんぎょうよりさきまわりをして、人形にんぎょう部屋へやの中なかに、かくれていなければならないのです。

進一しんいち君くんは、いまこそ、さきまわりをするときだと思おもいました。

ユリ子こ人形にんぎょうは、あの四角しかくいふろしきづつみをなげてから、そのまま窓まどのところに立たって、じっとまっ暗くらな庭にわを見みおろしていました。下したにいる男おとこが、うまくつつみを受うけとって逃にげだすのを、たしかめようとしているのです。

そのとき進一しんいち君くんが、懐中かいちゅう電灯でんとうのあいずをした窓まどは、ユリ子こ人形にんぎょうのいる窓まどよりも、ずっと人形にんぎょう部屋へやに近ちかかったので、だいじょうぶ、さきまわりができるのです。

進一しんいち君くんは、足音あしおとをたてないようにかけ出だして、人形にんぎょう部屋へやへはいりました。そして壁かべのスイッチをおすと、パッと電灯でんとうがつきました。

その光ひかりで、ひと目め、部屋へやの中なかを見みたとき、進一しんいち君くんは、「あっ!」と声こえをたてて、立たちすくんでしまいました。

いつのまにかユリ子こ人形にんぎょうが、ちゃんと、部屋へやに帰かえっていたからです。

「そんなはずはない。廊下ろうかは一いち本ほんなんだから、ぼくのほうがはやかったにきまっている。ユリ子こ人形にんぎょうは、まだ廊下ろうかをはんぶんも歩あるかないころだ。」

進一しんいち君くんは、そう考かんがえました。それにまちがいはないのです。

「はてな?」と、こくびをかしげていましたが、やがて、ハッとあることに気きがつきました。

「あっ! そうだ。ユリ子こ人形にんぎょうはふたりいるんだ。ひとつは、こちこちの、ほんとうの人形にんぎょう、もうひとつは、そっくり同おなじ着物きものをきた、生いきた人間にんげん! そうだ! そうにきまっている。いままで、どうして、そこへ気きがつかなかったのだろう。

ぼくが追おっかけてきたときには、人間にんげんのほうは、おしいれの中なかかなんかにかくれてしまって、人形にんぎょうのほうだけが、いすにこしかけているもんだから、ごまかされたんだ。生いきた人間にんげんがいっぺんに、こちこちの人形にんぎょうにかわってしまったように見みえたんだ。

それじゃこんどは、こっちが、おしいれの中なかにかくれて、あいつの帰かえってくるのを待まちぶせしてやろう。」

進一しんいち君くんは、とっさのあいだに、これだけのことを考かんがえました。そして、すばやくおしいれにはいって、ふすまを細ほそめに開ひらき、じっと、ようすをうかがっていました。

すると、こつ、こつ、こつ、こつと、廊下ろうかに、人形にんぎょうの足音あしおとが、聞きこえてきたではありませんか。あくまで人形にんぎょうが歩あるいていると思おもわせるために、足あしになにか、かたいものをはいているのでしょう。つまり、人形にんぎょうが生いきて動うごくという、怪談かいだんをつくり出だして、みんなをおどかそうとしているのです。

進一しんいち君くんは、息いきをころして、ふすまのすきまから目めをみはっていました。心臓しんぞうのどきどきする音おとが聞きこえるほどです。

ドアがスーッと開ひらきました。ああ、はいってきたのです。ユリ子こ人形にんぎょうが、はいってきたのです。

こちらにこしかけているユリ子こ人形にんぎょう、ドアのところに立たっているユリ子こ人形にんぎょう、そっくりです。着物きもののもようも、帯おびも、そして、顔かおまでも。

長ながいふり袖そで、はでなゆうぜんもよう、ピカピカ光ひかるきんらんの帯おび、美うつくしい人形にんぎょうがふたりならんでいるのです。

進一しんいち君くんは、息いきもできないほどでした。こんなふしぎなことが、あるものでしょうか、人形にんぎょうとそっくりの顔かおをした少女しょうじょが、もうひとりいるなんて。

いや、そうではありません。少女しょうじょが人形にんぎょうに似にているのではなくて、この少女しょうじょをモデルにして、人形にんぎょうをつくったにちがいありません。それならべつに、ふしぎでもなんでもないのです。

ユリ子こ人形にんぎょうとそっくりの少女しょうじょは、ドアの前まえをはなれて、こちらへ歩あるいてきます。やっぱり、このおしいれの中なかへかくれるつもりでしょう。

進一しんいち君くんは、グッと心こころをひきしめました。このぶきみな少女しょうじょと、たたかわねばならないのです。

少女しょうじょは、もう二にメートルほどに近ちかづきました。一いちメートルになりました。いまです!

進一しんいち君くんは、パッとふすまを開ひらいて、おしいれの中なかからとび出だしました。

「あっ!」

少女しょうじょが、おどろきの叫さけび声ごえをたてました。そして、くるっとうしろをむくと、いきなり、ドアのほうへかけ出だすのでした。

「まてっ!」

進一しんいち君くんも、すぐに、そのあとを追おいました。ドアをとび出だして、廊下ろうかを走はしりました。

少女しょうじょは、走はしりながら、帯おびをといています。帯おびが、すっかりとけました。庭にわにめんした窓まどに走はしりより、そこに出でているくぎに、帯おびのはじをひっかけました。そして、あっと思おもうまに、少女しょうじょは、窓まどの外そとへとび出だしたのです。

進一しんいち君くんも、その窓まどへかけつけました。少女しょうじょはくぎにひっかけた帯おびをつたって、庭にわへおりていきます。そして、パッと地面じめんへとびおりました。

「おうい、だれかきてくれえ。……ユリ子こ人形にんぎょうをつかまえてくれえ……。」

進一しんいち君くんは、ありったけの声こえを、ふりしぼって叫さけびました。そして、じぶんも、帯おびをつたって、庭にわへおりていくのです。

少女しょうじょは庭にわにおりると、へいのほうへ走はしりながら、ふり袖そでの着物きものをぬぎすててしまいました。その下したに、黒くろのうすいワンピースを着きていたのです。

進一しんいち君くんも、庭にわへとびおりました。そして少女しょうじょのあとを追おいながら、

「おうい、はやくだれか、ユリ子こ人形にんぎょうをつかまえてくれえ……。」

と叫さけびましたが、だれも家いえの中なかから出でてくるようすがありません。

少女しょうじょはもう、へいによじのぼっていました。かるわざ師しのように、身みの軽かるいやつです。進一しんいち君くんもへいの下したにかけつけて、少女しょうじょの足あしをひっぱろうとしましたが、もうまにあいません。へいの上うえに、すっくと立たった少女しょうじょのすがたは、パッと、外そとの道路どうろへとびおりてしまいました。

それにしても、この少女しょうじょは、このあいだから、いったいどこにかくれていたのでしょう。ずっと、おしいれの中なかにいるわけにはいきません。ひょっとしたら、あの黒くろいワンピースを着きて、ふり袖そでや帯おびをかかえて、毎晩まいばん、外そとからしのびこんでいたのかもしれません。

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