← Library‹ 奇面城の秘密 怪人四十面相

ある日ひ、麹町こうじまち高級こうきゅうアパートの明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょへ、ひとりのりっぱな紳士しんしがたずねてきました。それは東京とうきょうの港みなと区くにすんでいる神山正夫かみやままさおという実業じつぎょう家かで、たくさんの会社かいしゃの重役じゅうやくをしている人ひとでした。その神山かみやまさんが、明智あけち探偵たんていとしたしい友ともだちの実業じつぎょう家かの紹介しょうかい状じょうをもって、たずねてきたのです。

明智あけちは、神山かみやまさんを応接おうせつ室しつにとおして、どういうご用ようかと聞ききますと、神山かみやまさんは、心配しんぱいそうな顔かおで、

「じつは、明智あけちさん。わたしは怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそうに、脅迫きょうはくされているのです。」

と、恐おそろしいことをいうのでした。

「エッ、怪人かいじん四十よんじゅう面相めんそう? そいつのもとの名なは怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうですね。しかし、そいつは、三さん月つきばかりまえに、『宇宙うちゅう怪人かいじん』の事件じけんで、わたしがとらえて、いまは、刑務けいむ所しょにはいっているはずですが……。」

明智あけち探偵たんていは、いぶかしそうにいいました。

「ところが、やつは、とっくに牢ろうやぶりをしていたのです。」

「それはおかしい。あいつが牢ろうやぶりをすれば、すぐにわたしの耳みみにはいるはずです。また、新聞しんぶんにものるはずです。わたしは、まったく、そういうことを聞きいておりません。」

「いや、それが、いまさっき、わかったのです。わたしは、この事件じけんを警察けいさつにしらせました。警察けいさつでも、あなたとおなじようにふしぎに思おもって、刑務けいむ所しょをしらべたのです。すると、どうでしょう。四十よんじゅう面相めんそうはいつのまにか、まったくべつの人間にんげんといれかわっていたのです。

四十よんじゅう面相めんそうによくにた男おとこが、身みがわりになって刑務けいむ所しょの独房どくぼうにはいっていたのです。よくにているので、刑務けいむ所しょの係員かかりいんも、いままで気きづかないでいたというのです。いつ、どうして、このかえだまと、いれかわったかは、いくらしらべても、わからないのです。四十よんじゅう面相めんそうのかえだまになったやつは、ばかみたいな男おとこで、なにをたずねても、エヘラ、エヘラ、笑わらっているばかりで、どうすることも、できないのだそうです。」

それを聞きくと明智あけち探偵たんていの顔かおが、ぐっと、ひきしまりました。いっこくも、すてておけない大だい事件じけんです。

「ちょっと、お待まちください。」

明智あけちはそういって、いすから立たつと、部屋へやのすみのデスクの上うえの電話でんわ器きをとりました。そして、しばらく話はなしていましたが、もとのいすにもどって、

「いま、警視けいし庁ちょうの中村なかむら警部けいぶにたずねてみましたが、おっしゃるとおりです。四十よんじゅう面相めんそうはずっとまえから、刑務けいむ所しょをぬけ出だしていたらしいのです。……ところで、その四十よんじゅう面相めんそうが、あなたを脅迫きょうはくしたというのは?」

「まず、さいしょは、十とお日かばかりまえに、とつぜん、へんな声こえの電話でんわがかかってきたのです。きみのわるい、しわがれ声こえでした。

その声こえが、近ちかいうちに、レンブラントのS夫人ふじん像ぞうをちょうだいにいくから、用心ようじんするがいいと、恐おそろしいことをいって、ぷっつり電話でんわをきってしまいました。

レンブラントのS夫人ふじん像ぞうというのは、昨年さくねんわたしがフランスで手てに入いれてきたもので、数千すうせん万まん円えんのねうちの油絵あぶらえです。これは、わたしが持もちかえったときに新聞しんぶんにものりましたから、ごぞんじのことと思おもいます。」

「知しっています。あれは、日本にっぽん人にんのもっている洋画ようがのうちで、最高さいこうのものでしょう。その油絵あぶらえは、どこにおいてあるのですか。」

「わたしのうちの洋館ようかんの二に階かいの美術びじゅつ室しつにかけてあります。その部屋へやには、いろいろな西にし洋画ようががならべてあるのですが、みなレンブラントの足あしもとにもおよばないものばかりです。四十よんじゅう面相めんそうがレンブラントだけをねらったのは、さすがに目めがたかいというものです。」

神山かみやまさんは、そういって、にが笑わらいをするのでした。

「で、まだ、ぬすまれたわけでは、ないのですね?」

「まだです。しかし、ここ四よん、五いつ日かがあぶないと思おもいます。じつは、きのうの朝あさ、寝室しんしつで目めをさましますと、ベッドのそばの机つくえに、こんな手紙てがみがのせてありました。うちのものをしらべても、だれも知しらないといいます。どこから、どうしてはいってきたか、まったくわからないのです。」

神山かみやまさんは、ポケットから西洋せいようぶうとうをとりだし、なかの手紙てがみを明智あけちにわたしました。それには、こんな恐おそろしい文句もんくが書かいてあったのです。

レンブラントのS夫人ふじん像ぞうは、きょうから五いつ日かのあいだに、かならずちょうだいする。じゅうぶん警戒けいかいするがよろしい。きみのやしきを、警官けいかん隊たいにとりまかせても、おれはへいきだ。おれは魔法まほうつかいだからね。では、きみのだいじなレンブラントに、わかれをつげておきたまえ。

四十よんじゅう面相めんそうより

「この手紙てがみで、はじめて、あいてが四十よんじゅう面相めんそうとわかったのです。ひょっとしたら、だれかのいたずらじゃないかと思おもいましたが、ねんのために警察けいさつにとどけると、警察けいさつでは刑務けいむ所しょをしらべ、さっきもお話はなしたように、四十よんじゅう面相めんそうが脱獄だつごくしていることがわかったのです。

警察けいさつでは、けさから、十じゅう人にんの警官けいかんを、わたしのうちへよこして、警戒けいかいにあたらせてくれました。夜昼よるひるこうたいで、いつも十じゅう人にんの見みはりがついているのです。それに、わたしのうちには大学だいがくにかよっているむすこもいますし、書生しょせいもふたりいるほかに、わたしが社長しゃちょうをしている会社かいしゃの若わかい社員しゃいんに、三さん人にんほどとまりにきてもらっているので、美術びじゅつ室しつのまわりはむろん、やしきのまわりにも、ぐるっと、見みはりがついているわけです。

警察けいさつでは、いくら四十よんじゅう面相めんそうでも、これだけ警戒けいかいすれば、だいじょうぶだろうというのですが、なにしろ四十よんじゅう面相めんそうというやつは、魔法まほうつかいですからね。わたしは、どうも安心あんしんができないのです。

そこで、これまで、たびたび四十よんじゅう面相めんそうを手てがけていらっしゃる明智あけちさんに、ご相談そうだんするほかはないと考かんがえたわけです。ひとつ、お力ちからをおかしねがえないでしょうか。」

明智あけち探偵たんていはそれを聞きくと、ふかくうなずきながら、

「しょうちしました。できるだけやってみましょう。いまの電話でんわで、中村なかむら警部けいぶも、わたしに手てをかしてくれとたのんでいました。

それに四十よんじゅう面相めんそうは、二十にじゅう面相めんそうと名なのっていたころから、わたしにとっては、きってもきれない関係かんけいのあるやつですからね。こいつがあらわれたと聞きいては、わたしも、うしろを見みせるわけにはいきませんよ。」

と、にっこり笑わらってみせるのでした。神山かみやまさんは、たのもしげに明智あけちの顔かおを見みて、

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